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一話

 ダブルクロス リプレイ・ウィンクラ

プロローグ



 少女は空を見上げた、血の香りが漂うその場所で、一人生存している意味を、ただただ自身の陰に問い続けた。

 少年は空を見上げた、かりそめの日常に心惹かれながら、この空の下のどこになら幸せはあるのだろうと、考え続けながら。

 二人に救いはなかった。

 世界はとっくに変貌していたから。

 レネゲイドウイルスによって変貌してしまった世界では、彼らは幸せを願えないのだ。

 救いの希望は、絆は。この地上に存在しえない。

 そんな絶望感を抱き、二人は地上に視線を下した。

 血まみれの手で慟哭する口をふさぐ。









 これは、失った絆を取り戻す物語












 今回予告


 昨日と同じ今日。今日と同じ明日。

 世界は繰り返し時を刻み、変わらないように見えた。

 しかし、世界はすでに変貌していた。

 動き出す陰謀、背中刺す刃。裏切りにまみれ。すべてを壊せる力を手に入れても。

 恐れることなかれ。そして、見失うことなかれ。

 大切な者を守るために、その力をふるうなら。

 あなたはその力に飲まれはしないだろう。


 ダブルクロス the 3rd edition

リプレイ・ウィンクラ 第一話『本当の日常』

 ダブルクロス――それは。裏切を意味する言葉






















第一章 『始動』

 UGN、S市支部。

そこは北海道において、設立自体がとん挫したN市支部、最近壊滅したT市支部に次いで北海道に設立された、第三の支部。

 設立して間もないその支部では、イリーガルもエージェントも、数が足りておらず、全員大あらわだった。

「ワン! ワン!」

 そんな中を大股で闊歩する、鋭い目つきの女性が一人。風になびく銀糸が光を反射し輝きを帯び、タイトなスーツを着込んでいる。

 一見すれば生真面目なキャリアウーマンと言った風な彼女は、別に真昼間から犬の鳴き声の練習をしているわけではない。

 その女性、『シェイプ。エンドレスト』は呼んでいるのだ。

 彼女の片腕、UGNイリーガル、ワン・メイを

「ここにいるぞ! なんだ。いったい何の用だ!」

「あなたに頼みたいことがあるの、私の執務室に来て」

 UGNは日常を守る最終防衛ライン、ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワークの活動は常に秘密裏、世界の裏側にあり、同じく異能を駆使する者の活動を抑えることにこそ意義がある。

 そう、世界はすでに変貌していたのだ。君たちの知らない合間に。闇は異能なる力を持って世界を飲み込まんとしていた。

「これをやる、そして映像を見てくれ」

 執務室にやってきたワンに、シェイプは資料を叩きつける。

 手を振ると、会議室の明かりが消え、真っ暗になった室内に光で構成されたウインドウが無数に浮かび、表示される。

「この少年の護衛と監視が今回の任務だ。それにあたって数々の障害と問題点があるわ」

 一番大きなウインドウには少年の横顔の画像が映る、そしてその周囲に少年に関する詳細情報が並ぶ。

通っている高校、身体データ。出生、成績、シンドローム。

 その周囲にさらに細かくウインドウが出る。ひげを蓄えた初老の男の画像と、鼻のないのっぺりとした顔の男の画像。

「マスタータオ、マスタード零ク。彼らが少年の周囲を嗅ぎまわってる、これと交戦が考えられるけど、どちらも厄介な相手よ、できるなら早い段階で保護したい」

「目覚めるのか?」

「その可能性もあるわ」

 その映像データを情報を全て、一本のUSBメモリに詰め込むとシェイプは会議室の電気をともし、それをワンに渡した。

「マスタータオに気を付けて、彼は私に戦闘技術を叩き込んだ人物。くれぐれも無茶はしないように」

「安心しろ、無茶はしない主義だ」

 なぜならワンはひとりでは戦闘を行えないからだ。それは彼の能力が関係している。彼の持つ力は本来戦闘をあまり得意とせず、その面が強く出たために、彼は情報収集やサポートなどしかできない。

「と言いつつ無茶をするのがワンだからな。援軍を呼んである、それまではひとりで乗り切ってもらわなくてはいけないが……」

「心配するな、お前の心配するようにはならない、それが俺の有用性だ」

「さすが、私の片腕ね」

鼻で一つ笑って、ワンはUSBを受け取った。そして会議室を出ていこうとする。しかしワンは何かを思い出したのか、ぴたりと足を止め、振り返ることなくシェイプに声をかけた。

「して、少年の名前は?」

「あ、データの名前を見てなかったのか。今回の目標の名前は」


「神楽 零と言う少年よ」


*  *


『神楽 零』と『周防義 黄泉彦』は仲がいい。

黄泉彦は茶髪に、アクセサリー、高身長のいわゆる不良といった外見をしている、見た目とマッチして愛想もなく口も悪いが、悪友、腐れ縁とでもいうのだろうか、なぜか零は黄泉彦と仲が良かった。

 そんな二人は今日も下校を共にする。他愛もない話をしながら。

 話題はもっぱら学校での出来事、だれとだれが付き合っているだとか、次のテストの範囲の予想。担任教師のかつら疑惑。そんなことを話題にしながら。暇な学生二人は、時間をわざと無駄にするように、緩やかな足取りで帰路についていた。

「そういえば最近、変な夢を見るんだ」

 零が今までの話を全てぶった切り言った。

「変な夢?」

 黄泉彦が視線だけ投げて、聞き返す。アシンメトリーの髪で片目は見えないが、見えない右目は髪と同じ茶色を帯びている。

「ああ、寝ている間に宙に浮かんだり、ものが飛んでたり、そんな夢だ」

「なんだ、それ、頭でもおかしくなったのか?」

「それに、感じるんだよな。自分の中に、自分の知らない何かが出来上がってく感じ。俺、変な力に目覚めたかもしれない」

 そう軽い調子で笑いかける零に、黄泉彦はうんざりした調子で言葉を返す。

「ああ、お前の頭がめでたいってことはわかった」

「おまえ、ひどくない? 俺たち友達だろ?」

「俺に優しさを求めること自体間違ってるんだよ」

 その時、二人の間に影が落ちる、零が気が付き視線を移すと、黒マントをかぶった人間らしきものが落ちてくる瞬間だった。

「誰だお前!」

 二人がそろって声を上げる。

「ははは、わが名はワン・メイ! お前の身を守りに来た」

 着地時そう宣言する、ワンと名乗る男、それに対して二人が浮かべたのはあからさまな不信感。

「ちょっと意味が分からないです」

 間髪入れずに、黄泉彦がワンと零の間に割って入る。

「下がれ零、お前はこいつが誰だかわかっていないんだ」

 片手で遮るように、零を抑えるように下がらせる黄泉彦。

「黄泉彦、お前、こいつらが誰だかわかっているのか?」

 黄泉彦が今にも噛みつきそうな殺気をにじませながら、ワンを見据える。

 零はそんな黄泉彦の姿を見て、戸惑った。一緒に学校生活を送ってきて、こんなあからさまな敵意を黄泉彦が発しているところを、見たことがなかったからだ。

 黄泉彦には常に余裕があった、上級生相手に囲まれた時でも、教師相手に詰め寄られた時にでも、切り札でも持っていると言わんばかりの大きな余裕があったのに、今はおびえすら感じられた。

「UGNだな?」

「ま、関係者くらいだがな」

 ワンが肩をすくめて見せる。

「それにしてもお前、さっきまで零の話をとぼけていたのとは思えない、変わりっぷりだな」

「UGNが出てきたとなれば、とぼけてもいられないさ」

「どうする、零を殺すのか? 力に目覚めたから」

「俺は、こいつの身の安全を図れとおどされただけだ、だから何かしようというつもりはない、だがお前は別だ。お前は零の何を知っている?」

「ちょっと待てよ、どういうことか説明しろよ」

 そこで零が我に返った。聞きなれない情報は脳を麻痺させる。混乱しきった脳でワンは

「お前が最近感じている、不可思議な力、そいつをその男に聞いてみるがいいさ。今度はきちんと、目を見てな」

 そうワンが黄泉彦を指さす。

「零、よく聞け、お前の中で最近、力が目覚めつつある」

「ちから?」

「それはレネゲイドって名前の、お前の大好きな日常に背を向ける力だ」

 黄泉彦は零に語る。絞り出すようなその声に零は悲痛を感じ取る。

「レネゲイドは、人間を変貌させ、日常を変貌させる力だ、それに感染し覚醒した者はオーヴァードとなり、十二のシンドローム、どれかの力を得て、化け物になる。お前は今覚醒するかしないかの瀬尾際にいるんだ」

「なんだって! それより、お前何でそんなこと知って……」

 説明を早口にまくしたてた黄泉彦は足を踏み鳴らし、ワン・メイに鋭い眼差しを向ける。

「説明させたな!」

 腹の底に響くような、低い声が黄泉彦から発せられた、怒りをあらわにし、黄泉彦が構えを取る。両手を開いて構え、姿勢を低くしたのだ

「零に、この力をばらさせたな。殺してやる!」

 次の瞬間、二人の視界から黄泉彦が消えた。

 そして次に見たのはワンの背後で背中合わせに立つ黄泉彦の姿。そしてその肘からは鋼の輝きを帯びた骨が突き出し、ワンの腹部を刺し貫いていた。

「ふっ……」

 ワン・メイ、あざけるように笑う。

「何がおかしい」

「非戦闘員も仕留められないのか」

 ワンの衣服から突き出した刃の切っ先は血で濡れていた、しかし出血量的には大したことがなく、脇腹をかすった程度だとわかる。

「黄泉彦! なんで」

「ふ、やはりお前は信用ならなかったようだな、零、君は今危険な状態にある、俺が保護する」

「おい、零、こんなやつと仲良くすんなよ。お前こっち側に来るつもりでいるのか」

「どういう意味だ、こっち側ってなんだ」

 零から黄泉彦の姿は見えない。

だからその表情からも、態度からも、何も読み取れない。

 だから、黄泉彦の言葉の真意が零には伝わらなかった。

「裏切るのか」

「裏切るってなんだ」

「俺を、日常を。お前もまたダブルクロスになろうっていうのか」

 すべての言葉からワンは疑念を確信に変えた、そして黄泉彦にとって絶対にばらされたくない真実を告げられる。


「お前。FHの手のものか?」


 そんなワンの言葉に、黄泉彦は少し考えるようなしぐさをして、そして答える。

「……ご名答」

 答えた後、黄泉彦の動きは早かった、開いた手に握っていたナイフで刃を抜く反動を利用し回転するように切り付けた。

 確かに手ごたえはあったのだ、だが切り裂かれて落ちたのは黒いマントだけ。

 観れば、ワン・メイは零のすぐ隣に立っていた。

「領域操作か、空間を固形化して身代わりを作った……。オルクスの能力者」

「FHってなんなんだよ、っていうかお前はほんとになんなんだよ」

 零がワンの服の袖をつかみ、逃げられないように強く引いた。黄泉彦はそれを驚いた表情を作り、ただ見ている。

「私は、お前の身を守りに来たものだ」

「いきなりそんなこと言って、信じられると思ってんのか」

「いきなり人を刺すような奴の言うことの方が信じられるというのかい?」

「俺は、今までこいつとずっと一緒にいたんだ。そんないきなり、あいつのこと信用できなくなるわけないだろ、お前の方が怪しいぞ」

「いくらなんでも人をいきなり刺すような奴の言うこと信じるなんて、無理があるんじゃないか、現実を直視しろ」

「違う!」

「目の前で起きてることをしっかり見ろ」

「うるさい!」

「零」

 やけに冷たい黄泉彦の声、まるで人形のような、無機質な顔で黄泉彦が佇んでいた。彼は拳を握りしめ、突き出して見せる。

「もうお前はかかわるな、戦場で会えば敵同士だ」

 最後に礼を一瞥し、黄泉彦は背に翼をはやして飛び立った。

「黄泉彦!」

「待て!」

 その速度は音を置き去りにし、一瞬で数百メートルを移動する。数秒後にして黄泉彦は見えなくなってしまった。

「まぁいい、これで君の周りから危機は去った」

 そう、ワンは零に手を差し出す。世界共通の親愛を示す挨拶のつもりだったが、零はそれを無視した。

「俺はまだ、あんたを信じてはいない」

「君が私を信じる必要はない、ただ私は君の安全を守る、そのために彼には消えてもらった」

 そうワンはいい、空を見上げる。

「というよりあいつが勝手に逃げただけだが」



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