第一話 ANOTHER WORLD
《ANOTHER WORLD》、直訳で別世界……。VRシステムという特定の機械で脳に直接干渉することで仮想空間に意識をダイブさせる新技術を駆使して作られたゲームである。ジャンルはVRMMOと言われ多くの人間が待ち望んでいたゲームである。
そんな大規模オンラインゲームならば通常β(ベータ)テストと呼ばれるお試し期間のようなものを実施してサーバーやシステムの管理を見たりするのだが、今回それは行われず日本で一週間早くサービスを開始することでその経過を見ることとなった。
オンラインにはパソコンを利用しソフトはダウンロードするだけなので万人がプレイできる仕様にはなっているが、意識をダイブするための装置である《ブレイン》が非常に高額で万人とは言えなくなってしまっていた。
それでも《ブレイン》の売り上げの伸びは倍に増え、予想されるプレイヤーは日本サーバーのみでも五万人ともされていた。
『ついに本日10月1日に始動となった期待ナンバーワンのゲーム《ANOTHER WORLD》、まずサービス開始とされるのが日本!その一週間後に世界でのサービス開始が予定されております。』
朝の報道番組でこんなにも大層にゲームの特集をされれば、ゲームに少しでも興味のあるものならつい見てしまうことだろう。
ここにいる川野勇気もその一人で頬杖をつきカップに入ったホットコーヒーをすすりながらテレビの画面に視線を集中させていた。
「どうせならユウキも一緒にやろうよ!」
そう言ったのはユウキの横に座って朝食にありついている弟の川野元気だ。名前の通り元気な声でユウキを勧誘してくる。
「俺もやりたいのは山々なんだけど、親父の背中見てるだけじゃダメな気がしてな。今は勉強に集中するからさ。」
ユウキはそう言いながら席から立ち上がると食べ終わった朝食の食器を流し台に置いた。そして眠そうにあくびをしながらリビングから廊下に出ようとドアのノブに手をかけた。すると、それを止めるかのようにゲンキが言った。
「早く受験終わらせてくれよな。」
「ああ。12時には昼飯にするからそれまでにはログアウトしとけよ。」
ユウキはニッとゲンキに笑って見せてやりリビングを後にした。そして階段を登り2階にある自分の部屋に入ると軽くため息をつく。ユウキの部屋はそれなり片付いており勉強机の上にはデスクトップのパソコンと勉強道具が一式置かれていた。
ユウキの年齢は18歳で高校3年生、今年大学受験があり、父と同じ私立の名門大学を目指して勉強している。今日は10月1日、そろそろ受験シーズンがやってくるわけである。さらに私立大学では公募推薦という早期受験も存在するため年内合格を目指して本腰を入れる生徒も少なくはない。
「よし!」
とユウキは掛け声をかけてシャーペンを握った。
数時間ほど勉強したところでユウキは伸びをして立ち上がり昼食の準備でもしようかとリビングに向かった。途中にゲンキの部屋を通ったがゲームをプレイしていると思い声をかけるのはやめておいた。
《ブレイン》でゲームをしている間は意識を仮想空間へダイブさせるため現実では身動きをとるどころか喋ることもできなくなるのである。
それを危険視されたためゲーム中に現実の自分の体に痛覚が働いた場合ゲーム続行の可否を問うタブが現れるようになっている。それは痛覚に限らず現実の体の健康状態が規定未満に達した場合も同じタブが現れる。
ともあれユウキはリビングに入るなりテレビの電源を無意識的つけて昼食までに休憩しようかとソファーに座り込んだ。
『速報が入りました。現在《ANOTHER WORLD》からログアウトできないといった事案が発生しております。電源を切ると生命の危険にかかわることがあります。ゲームを妨げることは必ずしないで救急隊員の到着を待ちその指示に従ってください。繰り返します。』
ユウキはそれを聞いてすぐさま今下りてきた階段を駆け上がりゲンキの部屋へと飛び込んだ。息を切らせたままベットで仰向けに寝ているゲンキもとへと駆け寄り様子を見てみる。頭部に《ブレイン》というヘッドギア型デバイスをつけて仮想世界へとダイブしているため意識は無い。
ヘッドギアの目のあたりを覆うシールド部分には内臓バッテリーの残量を示すアイコンと『NOW PLAYING』の文字が表示されている。
《ANOTHER WORLD》のサービス開始時刻は今日の10時からだ。ユウキは自分のスマートフォンで時間を見てみた。今の時刻が12時少し前、ゲームが開始してからもうすぐ2時間が経過しようとしている。
そこへ丁度メールの受信画面が現れた。表示された差出人は川野大気、ユウキの父からであった。
そこには『今すぐゲームを始めろ。』と短い一文が表記されていただけであった。ログアウトのできないゲームをみすみすやる人間がどこにいるというのだろうか。
だが、ユウキは薄ら笑みを浮かべて自分の部屋に戻りパソコンから事前にインストールしておいた《ANOTHER WORLD》のソフトを選択する。
そして《ブレイン》をかぶりベッドに横たわる。
ゲームスタートだ!!




