“おれ”と“アナタ”
自分を証明することは出来るのだろうか。
「霜行、お前昨日スーパーに居たろ」
「え?」
言われておれは、首を傾げた。
昨日は学校を出てからどこにも寄らず家に帰ったし、その後もずっとテレビを観てた。
「気のせいだろ? だってずっと家に居たし」
「いや、あれはお前だった。間違いない」
「根拠は?」
「俺が見間違う訳ない──」
と紫野は自信ありげに胸を張る。
どこからそんな自信が沸いてくるのだろうか……。確かに、視力は良いらしいけど──
「でもそれ、おれじゃないから」
「ほんとかよ。お前だったんだけどなぁ──」
と紫野は視力落ちたかなぁ。と首を傾げるのだった。
*
「霜行くん、昨日コンビニで買い物してたよね」
「霜行、お前公園で子どもと遊んでたろ」
「霜行くんこの前さ、図書館で本借りてたでしょ──」
「……おかしい」
最近、身に覚えのないことが多くなってきていた。
もちろんおれはコンビニに行ってないし、公園で子どもと遊んでもいないし、図書館に行ったこともない……。
*
そして決定的だったのは、学校で教室に居残っていた時だった。
「あれ? 霜行何でここにいんの?」
「何でって……課題、終わんなかったから残ってんの」
見ればわかるだろ。とおれは課題プリントを掲げて見せた。
それでも紫野は納得できないのか、首を傾げて言った。
「ちげーよ。だってお前、さっき職員室で先生と話してたし、それなのに教室に居るから……瞬間移動か?」
「な訳ないだろ。てか出来ないから──」
そう言ってから、おれは背筋に冷たいものを感じた──
「……ちょっと見てくる」
「何を?」
「そっくりさん。最近、身に覚えのないこと言われるから、証明してもらう──」
おれは小さく深呼吸して、教室を出た。
*
職員室前に来てから、辺りを見渡す。
スッと、同じ背格好の人物が角を曲がるのを見つけた。
「あの人か……」
声かけて、名前を教えてもらえれば──
走って、角を曲がる。
数メートル先を、多分そうであろうそっくりさんが歩いている。
「あのー、ちょっとすいませーん──」
声を出しながら、そっくりさんに近付いていく。
「あのー」
「はい」
「……っ?!」
振り向いたそっくりさんは……──
「どうしました?」
背丈、髪型、顔……毎日鏡で見るおれと同じだった。そして声も……
「お、あ……な、んで──?」
「何がなんでですか?」
「だ、だって──」
「『“おれ”と同じ顔してる』って?」
もう一人の“おれ”は、そう言って笑う。
おれは何が起こっているのかわからず、ヤツを見ていることしかできない。
心臓が激しく動きだし、口の中が渇いていく──
「当たり前でしょう。だっておれは、“アナタ”なんですから」
何を言ってるんだ?
ヤツが……“おれ”?
嘘だ……!
「ち、違うっ、お前は偽物だっ!」
「なぜそんなことが言えるのですか?」
「おれだからだ!」
「根拠は?」
「えっと……」
何て言えばいいんだ……?
「ほら、言えないでしょ? だってそんなの、自分が自分だって証明するなんて無理なんだから」
「そんなことない!」
「じゃあ、どう説明する?」
「りょ、両親に……」
「それは証明にならない。おれが両親に息子だよね? って訊いたとする。そしたら、両親は何て言うと思う?」
そう言って、ヤツは笑いを堪えながらおれを見る。
「『違う』……」
「言わないね。だっておれは、“アナタ”だから。背丈も顔も声も、全部同じ。そんなおれに、息子だよね? って訊かれたら、当たり前でしょ。って言うよ。絶対──」
そう言って、けらけらと笑う。
何なんだコイツ……!
「あ、ちなみに、おれは一人じゃない。いっぱいいるよ?」
「どういう意味だよ……」
「あれ? もしかして、気づいてない?」
ヤツは、おかしいなぁ。と言うように腕を組んで話し出す。
「コンビニ、公園、図書館──覚えてない?」
「お前じゃないのか?」
「おれは、職員室だから」
「ってことは……」
少なくとも、あと三人はいるのか!?
……じゃあ、スーパーは誰だ──?
「その顔は、もうわかったみたいだね──そう、“おれ”は一人じゃない。そして“アナタ”も一人じゃない」
「は?」
「言ったでしょ? おれは“アナタ”だって。だから、アナタは“おれ”……ということは一人じゃない──」
意味がわからない……何でおれが他にいるんだよ。てかおれはおれじゃないか! 今まで平和に暮らしてきた。それなのに何で……──もし、……もしおれが“ヤツ”だとしたら、他のやつもそうなんじゃないのか?
「他のやつは……他のやつも、一人じゃないのか?」
「そうだよ。一人じゃない──だからちょっとしたズレが応じる。わかる?」
「ズレ……? ぁ……」
図書館。
小説を借りたいとか思った事がないから、一度も行ったことがない──
「そうだな……例えば、視力がいいやつが居たとする。だが“やつ”は、視力があまりよくなくて、見間違いをする。だが、それを知らずに話す。するとどうだ、ズレが応じて話を合わせようとする。『視力落ちたかなぁ』とかなんとか──」
それって……
「お前は……紫野を、知ってるか……?」
声が震える……。
そんなことはないと、頭の中で繰り返す──
「知ってるよ。おれの友だちだ」
「そ、そいつも……っ、他にいるのか……?」
ない、絶対に、そんなこと──
「だから、言ったでしょ? 一人じゃないって」
「じゃあ……おれが話した紫野は──」
偽物……?
嘘だ、紫野はおれの友だちで────
ヤツと目が合う。
ニヤリと歪に笑った。
背筋に、厭な汗が伝う。
「……紫野は、本物の紫野はっ……」
「だから、本物とかそういうのはないんだって。言ったでしょ? おれは“アナタ”で、アナタは“おれ”なんだから。他の人たちだって、皆そうなんだよ──」
違う……違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うっ!!
だからおれは! おれはっ……! おれは…………! おれは……、“おれ”は……──?
*
「あれ? 霜行。お前小説なんか読んだっけ?」
「ん? あぁ……、最近読み始めたんだよ──」
あなたは、本当に“あなた”でしょうか──
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