不思議なカフェ
これは、私が見た夢を元にした物語です
何処かの街の裏通り
路地をいくつか曲がった先に、そのカフェはある
おそらく戦前に建てられたであろう、洋風の建物
カラン…
と、カウベルのような音がするドアを開けて中に入る
明るい店内には、いつもロマンスグレーの髪の、英国紳士のようなマスターがいて
香り高い紅茶を淹れていた
余り珍しくない
ごく普通のカフェ
ただし、他のカフェと違うのは、店内に多くのタンスが置いてある事だった
タンスは、作りも大きさもバラバラだ
真新しい箪笥もあれば、細かな彫刻が施されたアンティーク風のチェストもある
一見タンスに見えるライティングビュローもあれば、金具が豪奢な仙台タンスまである
それらのタンスが、何故そこにあるのかわからないが…
埃一つなく磨きあげられたタンスは、上に乗せられている本やランプと共に、独特の雰囲気を醸し出していた
私がそのカフェに通いだしたのは何時からだったのか。
今となっては忘れてしまったが
気づけば毎日のように、通っていた
どれだけカフェに通っただろうか
ある時、私は、マスターから小さな鍵を渡された
マスターは言った
「 それはタンスの鍵ですよ 」
と
見れば、店内のタンスには、それぞれ小さな鍵穴が付けられていたのだ
それは、天板だったり、棚を支える横板の隅だったり
様々な場所に、目立たないようにもうけられている小さな鍵穴
思い立って、もらった鍵を一つのタンスの鍵穴に挿し込み、軽く回すと…
引き出しになっているはずのタンスの前面が音もなく開いて
奥に別の空間が現れた
浅い奥行きのタンスには似使わない…
そこそこの収納量の空間だ
私は一つのタンスのとある空間に、あるものを入れた
そして、カフェに来る度に取り出して
カフェの中だけで使っていた
ある日
いつものようにカフェに行き、いつものタンスの鍵穴に鍵を入れて回したのだが…
中にあるはずの物がなくなっていた
別のタンスと間違ったのか
と、思って
いくつかのタンスの鍵穴に鍵を挿し込んでみたものの、どのタンスの中も空っぽ
助けを求めてマスターの方を見たが…
マスターは、ちらりちらりと私の方を見るだけで、何の助言もしてくれないのだ
躍起になった私は、更にいくつかのタンスの鍵穴に鍵を挿し込み、開けてみた
でも…
どれも空っぽか、私が入れていたのは
その時、ふと気付いた
私…
そこに何を入れていたんだっけ…