長い森
どれ位眠っていたのか解らない時間を眠って過した様な気がする。
瞼を開き、辺りを確認すると、巨大な樹木が聳え立つ森の様だ。鳥や虫の鳴き声が絶えず聞こえる。
どうしてこんな所にと、一瞬思ったが、即座に神を名乗る女の事を思い出す。あの女に俺はもう一度人生を与えられ、
彼女の世界に招かれたのだ。
「へえ、綺麗な世界だな」
前の世界とは違い、緑豊かな世界の様だ。最も前の世界にも目にしていないだけで、豊かな地域はあった様だが。
取り合えず、持ち物を確認する。
AN-94にバール。大型のサバイバルナイフに幾つかの投擲用ナイフ位か。後は特に目立った物は無いだろう。
さて、生まれ変わった訳だが、今後はどうすれば良いのだろう。思えば、任務で戦場に出るか、実験室で実験される位しか生き方を知らない。
サバイバル訓練は受けているので、この規模の森ならば暫く食い繋ぐ事は可能だが、それでは詰まらない。白衣の男の一人も別の世界に行ったら無双したいと切に話していた事だし、彼の分もこの世界を楽しもう。
当面は、世界に馴染む為、情報収集から始めよう。だが、こんな森の奥では情報も集められないだろうから、食せそうな動植物を採取しながら、人里を目指す事にする。
目的が決まれば後は、実行するだけだ。枝から枝へ飛び移り、移動を始める。
「行くぜぇ!」
大きな声を出して、自分を鼓舞する。さぁ、行こう。まだ見ぬ世界へ。
出発してから数時間後、俺は森の広さに心が折れそうになった。
数十体の改造人間でもずば抜けて身体能力が高い俺は、軍用車並の速さで移動できる。
しかし、そんな俺が数時間走っても森から抜けられる気配はない。
更に数時間が経ち、ペースを落とさず走っているが、全く森を抜ける気配がない。
もしかして、方向が悪いのか?
少し進路を変えて移動する事にする。
更に数時間経ち、日が落ちてきた。道中数匹の猛獣が襲ってきたが、難なく撃退できた。
熊の様だったが、頭に角が生えていたので、別の猛獣だろう。
夜が更けてきたので、樹上に移動し急速を取る事にする。
食料は、生肉だが問題無いだろう。血腥く、ぶちっと言う食感が口いっぱいに広がる。
嫌いではないが、焼いた方が美味いな。だが、火をおこせる物が無いので仕方がない。
黒雷で起こすのも考えたが、枝程度では消し炭になってしまう。
意外と欠陥だらけの能力なのかも知れないな。
さて、食事中だったが、お客さんの用だ。
「そこにいる奴、大人しく出てきな」
隠れている者は反応を見せない。
「今すぐ出て来た方が身の為だぜ?」
バチバチっと黒雷が音を立てる。これに恐怖するなら何らかのアクションを起こすはずだ。
まぁ、出てこなかったならそこら中を黒雷で消し炭にしてやればいい。
「えー!雷!?」
気の影からひょこっと顔を出してきたのは、30cm程の人形の様な物体だ。
小さな羽根が生えているが、羽ばたく事無く空中に浮いている。どういう原理なのだろうか。
「わー!雷だー!皆見てごらんー!」
人形の様な物体が、声を上げると、辺りの木の影から人形の様な物体が複数表れる。捕捉した限りでは、6体か。
敵意があるかも知れないので、黒雷で音を立てて威嚇する。
「わー!本当に雷だ!」
「すごーい!どうしよどうしよ!」
人形の様な物体達は、楽しそうな表情を浮かべながら俺の周りを飛び回る。
だが、不思議と黒雷の範囲内には入ってこない。本能で身の危険を感じているのだろうか。
「ねーねー!お兄さん誰ー?」
楽しそうな表情で飛び回りながら、名を聞かれる。
名前くらいなら名乗ってもいいか。
「コード444『黒雷』だ」
「コーオよんー…?」
「コード444『黒雷』だ」
「あははー!言いにくいー!」
どうやら、人形の様な物体は、俺の名前を言えない用だ。
「あぁ?じゃぁお前らは何だよ」
「私達ー?私達は妖精だよー!」
妖精?成る程、確かに聞いた事がある妖精の容姿に類似している点が多数ある。
「名前はねーのか?」
「名前ないのー!」
名はないのか。ならば、どうやって個人を識別しているんだ?
まさか「コード232『妖精』」と呼んでいる訳ではないだろうし。
「なら、お兄さんがつけてー!」
「俺が?」
「うんー!つけてつけてー!」
名前か。此処で名前をつけてやる事に何か意味があるのだろうか。こういうタイプの正確の奴は大体次会う頃には、俺と出会った事すら忘れているタイプの奴だ。
「はやくはやくー!」
「待て待て!急かすな!」
取り合えず、こいつらを黙らせるには名前を付けるしかないか。
コード…いや、コードから離れろ……良い名を思いついた。
「よし、なら左から、シグ、エム、エケイ、ガリル、ハク、ロジーだ!」
「あたししぐー?」
「私エムなのー!」
「エケイー!えへへ!」
「ガリルー!」
「ハク!」
「ロジー?」
それぞれ、嬉しそうな顔をして飛び回る。適当に飛んでいる様で、枝や葉に当たらない様に飛んでいる。
「えへへー!じゃぁ、お兄さんにも名前つけてあげるねー!」
「何がいいかな、何がいいかな?」
「こーよんひゃーよんよんこくらーだっけー?」
「あはは!何それー!」
妖精たちが、俺に名前を考えている。微笑ましいな。
「はーい!私考えたー!」
「おしえておしえてー!」
「コークス!」
「いいねー!お兄さんは今からコークスねー!」
何やら、妖精達の間では、俺の名前がコークスになった様だ。折角だから貰って置くか。
「そうかそうか!ちょっとお前らに聞きたい事があるんだけど、いいか?」
「いいよー!」
「よっしゃ!じゃぁ、森から出んのはどうしたらいい?」
「んーとね!私達が6人で作るゲートを潜ると出られるよー!」
成る程、此処は何か特殊な森で、こいつらは番人みたいな存在なんだろう。俺に接触してきたのも、危険かどうかの判断をする為だったと言うわけだ。
「なら、ゲートを作ってくれ!俺は森から出たいんだ」
「えー!」
「えー!」
これはダメか…?いや、最悪、半殺しにして言う事を聞かせればいいか。
「いいよー!」
「おお、いいのか!」
良いのか。いや、良いんだ。そうだ、別に気にする様な事じゃない。
この森から出れればそれでいいんだ。
「じゃーゲート作るねー!みんなー!」
「はーい!」
妖精達が、何やら呪文の様な物を唱える。すると、何かがそこに集まり、大きな音と共に、俺が一人通れるくらいの門が出来た。
「おお、さんきゅ!助かるぜ!」
「いいのー!名前付けてもらったおれいー!」
「えへへー!」
俺も名前を貰ったから、それで貸し借り無しかと思ったが、どうやら彼女らは気にして無い様だ。
「じゃあねコークスー!」
「また来てねー!」
「機会があったらな!」
「えへへー!約束ー!」
妖精達に見送られながら、門を潜り、俺は森から抜ける事ができた。
誤字指摘等あれば、宜しくお願いします。




