異界の神
「……?」
二度と意識が戻らないと思って意識を手放した筈だったが、どうやら当てが外れた様だ。
ゆっくりと瞼を開き、辺りに目をやる。
白い。
言葉に表すなら、その一言に尽きる。何も無く、ただただ白い空間に俺は座っていた。
何も無く、ただただ白い空間なのだが、不思議と心地良さを感じる。恐らくは、此処が天国なのだろう。
「違うわよ?」
「!」
突然目の前に、20台半ば辺りの女が現れる。高速移動とか、そんなレベルではない。突然そこに現れたのだ。
咄嗟に距離を取り、臨戦態勢に入る。何者かは解らないが、恐ろしく強いのは解る。
「強いって何よ!どうみても、綺麗!とか可愛い!とか他にあるでしょ!」
テレパス使いか…!さっさと仕留めなければ、情報を引き出されてしまうな。生物である以上は黒雷が通る。
全力を叩き込めば、少なくとも手傷は…。
「ちょ!何でそんな好戦的なの!?」
バチバチッと音を立てながら黒雷が女に殺到する。最大出力で放ったその威力は一撃で空母の電子機構を全てお釈迦にする程だ。無事ではないだろう。
「もお!いきなり何すんのよ!」
「なっ…!」
有り得ない物を見た。目の前の女は黒雷を地面へ叩き落としてみせたのだ。人間業ではない。改造人間にだって不可能だ。
こいつは一体…。
「ちょっと黙って話を聞きなさい!」
「!?」
突然手足を拘束される。見たことも無い攻撃だが、生憎黒雷は、手を使わずとも放てる。
「落ち着きなさい!」
「ゴハッ」
突然の衝撃で、数m程吹っ飛ぶ。恐らくは、念力。テレパスも使えると有っては上位のサイキッカーだろう。
だとすればこの空間は、幻覚か。成る程、黒雷が通じない訳だ。
「違う違う!私は神様!貴方の世界の神様じゃないけど!黒雷が通じないのは神様だから!」
女が突然喚きだす。神様だと?そんな存在がいる訳がない。
「本当よ本当!ほら、何も無い所から綺麗なお花が!」
幻覚の中で何でもできるのが、幻覚の強みだと理解しているのだろうか。そうやって懐柔しようとしても無駄だ。
さて、幻覚を破るか。対処法としては、誰かに起こしてもらうだとか、色々あるのだが、今からやるのは、強硬手段だ。
バチバチッ
そう、自らに最大出力の黒雷を浴びせる事で、脳の主導権を一度破棄させる。その後は、脳の電気信号を俺がコントロールすれば、幻覚を見せられる事等ないだろう。
「ちょ、何してるの!?」
「グギ…ガアアアア!」
幾ら電流には慣れてると言っても最大出力の黒雷は応えるな…。しかし、これで幻覚が…。
「何馬鹿な事してるの?」
「…」
何故だ?
「何故だ?じゃないわよ。」
これ程までのサイキッカーは見たことない。改造人間の中でも最強と名高い俺を手玉に取るとは、誇っていいぞ女。
「何満足気な顔してるのよ。兎に角私の話を聞きなさい。」
いいだろう。現状俺の命はお前の手の中だ。好きにしろ。
「うん。それじゃぁ、よく聞いてね」
ああ。
女が話した内容を要約すれば、此処は彼女が作り出した創造空間で、俺を持成す為に用意したそうだ。
愛の女神を名乗る、彼女は、前々から俺の様子を観察していて、死ぬのを待っていたらしい。ハイエナか何かだろうか。
その理由としては、俺の力は神々からしても特異の様で。雷を操れるのは、類稀なる存在で、是非とも手中に収めたいそうだ。
それならば、何故他の世界の神にこの世界の神は先に接触される様な事になったのかと聞くと、この世界の神には雷が仕える従者など必要ないかららしい。
そもそも神を名乗る存在ならば、雷を扱える存在を自分で作れと言ったが、それとこれはまた違うらしい。
「で、どうかしら?私の従者になって貰えないかしら。」
従者か。具体的には、何をするのだろうか。
「そうねー…。例えば、私が愛を司っている世界に降臨して、人々を導くとか?」
成る程、残念だ。俺には戦う事しかできない。他にも漫画やテレビなど、趣味はあるが、俺にできるのは戦闘だ。
「くぅ…。中々強情ね。なら、もう一度人生をあげるついでに、私が愛を司る世界を見ていく?」
ほう。もう一度か。白衣の男の内の一人がくれた小説の一つにそんな内容のがあったな。
理不尽とも言える力を持った男が異世界を蹂躙すると言った内容だったか。
「ちょ、何その物騒な小説。確かに、幾つか能力を与えられるけど、貴方は何かそういった力が欲しいの?
今の段階で、私が愛を司る世界でも三指には、確実に入ると思うけど…。」
欲しい力か。強いて言うなら銃を使ってみたい。
「銃?貴方の世界には有ったと思うけど?」
確かにあった。しかし、黒雷のせいで此方から撃つ場合を弾丸を打ち落としてしまって、使えなかった。
「…なら、特別に貴方に使える銃を用意するわ。それでどう?」
成る程、それは非情に魅力的だ。だが、俺は整備の仕方も知らないし、構造も理解していない。後、銃剣も使ってみたいな。
「わがままね…。」
此方としては、条件が飲めないなら交渉を蹴っても良い。
「はいはい。解ったわよ。それじゃぁ、こんな感じでいいかしら?」
女が指を鳴らすと、目の前に銃が現れる。形状から見て89式5.56mm自動小銃か。確か日本国で主力のアサルトライフルだ。
野戦を意識して作ってあるらしいが、個人的な見解は、もう少し設計を頑張って欲しいと言った所だ。
「貴方の記憶を読んで作ったのだけど、そんなんで良かったのかしら?」
ボキッ
「…」
「何で折るのよ」
強度が足りないな。少なくとも俺が扱うには、もっと強度がないと無理だな。せめてこのバール位の強度が無ければ変形してしまう。
「銃何てそんな物でしょう?まさか、近接戦闘でも使うつもり?」
勿論だ。俺のいた所では、近接戦闘は銃剣装着の上で相手に殴り掛かるといった戦法が主流だ。
他にも銃剣突撃、10数回表彰された国もある。
「そ、そう…。それじゃぁ、兎に角強度を上げてみるわ。」
折れていた89式5.56mm自動小銃が消え、次の銃が現れる。
M4A1か。米軍での主力アサルトライフルで、取り回しの良さから各特殊部隊からも採用されているらしい。
ボキッ
「…」
「…次ね」
次に出てきたのは、Sig550だ。スイスが採用しているアサルトライフルで見た目がカッコいい。
グニャッ
「…」
その後、幾つのも銃をへし折りつつ、自分の好みの銃を探す。
「知識の神に知識を借りたわ。これならどう?貴方の記憶を読んだ限り、かなりの好みだと思うけど。」
おお…。目の前の銃を見て、思わず声が漏れそうになる。目の前に現れたのはAN-94と呼ばれる銃で、ロシアがAK-74Mの
後継機として、製作された銃だ。この銃は、一度しか御目に掛かった事はないが、非常に印象深い。
よし、形状はこれに決めよう。グレネードランチャーも装着可能だが、必要ないので、銃身の下に銃剣を装着する事にする。
俺の熱烈な説明を聞いてくれた彼女には、感謝の言葉をいくら述べても足りないな。
その後、試し撃ちをしたり、銃弾の威力を向上したりと、色々な実験を繰り返し、漸く納得の行く物となった。
「ふぅ、それじゃぁ、そろそろ私が愛を司る世界に招待するわね」
そうだな。そろそろ頃合だろう。
「ふふ、もう一度の人生楽しんでいらっしゃい」
突然激しい眩暈に襲われ、その気持ち悪さから俺は意識を手放した。
誤字指摘等あれば、宜しくお願いします。