サンタクロースを信じていますか
僕はサンタクロースを信じていない。
それは勿論、サンタクロースの人柄を信じていないとかそういうことでなく、サンタクロースの存在自体を信じていないということだ。小学校低学年の頃から同じようなことを言っているような気もするが、たった一夜で世界中の子ども達にプレゼントを届けられるわけもないし、サンタの正体がビル・ゲイツでも無い限り、子ども達の欲しい物を買い揃えるのは経済的に無理だ。更に言えば夜分他人の家に無断で侵入するなど、犯罪以外の何ものでもない。
以上の理由からサンタクロースはいない、と証明したいところだが、いない者をいないと証明するのは以外と難しい。
僕は現在中学二年生だが、僕が大人になって誰かと結婚して、その人との子どもができ、その子に対し僕ら夫婦が何のプレゼントも用意しなかったとして、クリスマスの朝にプレゼントが無ければ、サンタクロースの存在は否定されると僕は考えている。
ただ、この証明を実行するためには、僕はあと最低四年――日本の法律での話だが――待たなければならないし、実際十八歳で結婚するわけもないので、現実的には結構先のことになりそうだ。
それにもしかしたらその頃には、サンタクロースの証明などどうでも良くなっている可能性もあるわけだった。
しかし、仮にそうだとしても、僕は今年もサンタクロースの存在を疑いながらクリスマスに臨むつもりだ――
クリスマスパーティーを終え、――パーティーと言っているが日本の一般家庭でやるものなどたかが知れていて、フライドチキンとケーキを食べ、映画を見たくらいだ――現在の時刻は十二時を少し回った頃だった。
母と父が声を揃えて僕に「先にお風呂入っちゃいなさい。そして今日は早く寝なさい」と言ってくるので、僕はちゃっちゃかお風呂を済ませ、ベッドに入った。
これから両親は、どこかに隠していたプレゼントを出し、僕が寝たのを見計らってプレゼントを置きにくるのだろう。これまた小学校低学年の頃は、サンタ(両親)が来るまで起きようと努力していたが、五、六年生の頃からは待っているのが馬鹿らしくなって寝るようにしている。
僕は、今が深夜一時だということを枕元の時計で確認した後、眠りについた――
夜中、僕は何かの音で目を覚ました。
廊下の方で、何かが歩いていると言うか、擦り引いているような音がしているのだ。
僕はまだぼんやりする意識の中、時計で現在の時刻を確認した。
深夜三時。
寝てから二時間が経っていた。僕は、時計の脇にある懐中電灯を手に取り部屋を照らし、プレゼントが置かれているかを確認した。やはり中学生になってもプレゼントは早く開けたいものだ。
しかし、残念なことにまだ部屋のどこにもプレゼントが置かれてはいなかった。
両親は僕が確実に寝ている時間になるまで待っているのだろうか。
だとすると、今廊下で音がするのは、父か母がプレゼントを持ってきたからなのだろう。
せっかくここまで夜更かしをして、僕に姿を見られないよう努力している両親をガッカリさせたくなかったので、僕は懐中電灯のスイッチを消し、しかしそれを握ったまま寝たふりをした。
廊下の音が徐々に僕の部屋に近づいてくるのが分かった。
なんだが僕は少し楽しくなってきて、クククッ…と笑いそうになったが、それをごくっと飲み込んだ。
ドアノブが静かに回り、カチャッと扉が開いたのが分かった。
その時だった。僕は固まった。
一瞬で異臭が――決して冗談を言ったわけでない――部屋中に広がったのだ。
血生臭い――嗅いだことはないが想像だけで言っていいのなら、死体の匂い。
明らかに異常事態だったし、明らかにクリスマスらしくもない。
何が起きているのか全く理解できず、僕はパニックになりながら懐中電灯のスイッチを入れ、扉の方を照らした。
するとそこには、赤い服を着て、背中にはこれまた真っ赤な袋を担いだ男が立っていた。
僕が悲鳴を上げると同時に、男はこちらに走ってきて、そして寝ている僕に何かを振り下ろした――
次の日の新聞では、このような見出しが一面を飾っていた。
「クリスマスに起きた悲劇。一家皆殺し」
記事の内容は、クリスマス当日の深夜二時半頃、全身を白色の服で包み、白い袋を担いだ犯人が家族三人で暮らす家に忍び込み、一家を皆殺しにしたというものだった。
犯人は犯行後、その家の固定電話から110番をし、「俺はサンタ。とある家族に死を届けた」と自首をした。現場に駆けつけた警察官が見たものは、全身が返り血によって赤く染まり、一家三人を詰め込んだ真っ赤な袋を担いだ、まるでサンタクロースのような男の姿だったと言う。
サンタクロースの存在自体も信じられないが、サンタクロースの人柄も、そう簡単に信じてはいけない――
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