第20話 異世界人と貴族領
悠真たちの予定は、まずロットン貴族領へ赴いての情報収集。次にグリフォンの目撃情報があったリオ河下流域とその周辺の森の探索。そしてその行程で集めた素材で幾ばくかの収入を得て、貴族領を観光して帰る、と言うものである。
彼らははじめ、これらの行程全てを、徒歩で行くつもりだった。しかしニーナに、悠真が居ないイコール収入が減るとかさんざん身勝手な文句を言われ、それにパーシーが賛同して片道は馬車で行く事になった。
もちろん、馬車と言っても商人の荷馬車に護衛として乗り込むと言うものだ。ニーナ、パーシーが伝手を使い交渉までした上で紹介されたので、余程早く帰って来てもらいたかったのだろう。ここのところ蓄魔石の魔力を供給していたのは悠真ひとりなので、それも理由のひとつかもしれない。
「ほんに、助かりましたわ」
ゴトゴトと揺れる馬車の御者台で、商人の老人ホフマン・ブラガーはそう言った。
御者ひとりで馬の操作と周囲の警戒はできないので、悠真たちは交代で御者台に座り、見張りを行っている。今は悠真の順番だった。
「息子と下男はティバールに残ってする仕事があったもんですから」
この人の良さそうな老人は、貴族領からティバールへの商品を急きょ追加する必要があって、ひとり戻る事になったらしい。息子や下男はティバールでの商品の買い付けや荷運びを行っているとの事だが、こういう体力勝負的な事は若い方、つまり息子に任せるのが普通ではないのだろうか。
そう言う事を悠真が問うと、老人は皺だらけの力こぶを手で叩き「まだまだ若いもんには負けませんわい」と笑った。
「そういや今更ですけど、獣人を嫌がらないんですね」
冒険者ギルドに来てから努めて敬語を使わないようにしてきた悠真だが、彼に対しては丁寧な言葉で接している。ホフマン老人の丁寧な物腰や言葉遣いに引っ張られているのだろう。
「そうですなあ。儂の若い頃なんかは、今よりは獣人と仲良くしとった時期もありましたからのう。息子はひとり戦争にとられてしまいましたが、それ以外は、儂は幸運にも獣人を恨むような経験をしてこんかったのですよ」
「はあ、そう言う人も居るんですねぇ」
いかに獣人たちの連合と敵対していても常に戦争状態いられるわけではない。いわゆる「次の戦争までの間の期間」である平和な時期もあったのだろう。
とは言えティバールで目にする光景などから、悠真は商人、というか町人はほぼ全員が獣人に対し差別的な考えを持っていると思っていた。だが彼を見る限り、その考えは改める必要があるかもしれない。
そんな感じで日中を過ごし、夜は不寝番である。この辺はエドガーとの旅でも経験した事なので、冒険者として経験の浅い悠真でも慣れたものだ。
「じゃあ俺はいつもの鍛錬してくるから、何かあったら呼んでくれ」
「マジメっすねぇ」
「一応不寝番が仕事なんだから、軽めにしとけよ」
「分かってる」
エドガーと旅した時は戦力として数えられてなかったし、ポーションがぶ飲みという裏ワザがあった。しかし今は歴とした戦力のひとりである。欠かさず鍛錬する事も大事だが、そちらを疎かにするわけにもいかない。
ゼットの言葉に首肯して、悠真は歩き去る。集中するため、そして炎をまき散らしても迷惑が掛からないように少し離れたところで鍛錬をするつもりだった。
「はっ、はあっ……!」
エドガーの三つの型を各十回(それぞれ十ほどの技を繋げたものなので、素振りに換算すると三百本くらい)済ませて、かつてほど弾まなくなった息をすっと整える。次は最近壁にぶつかった魔法の鍛錬だ。
ちなみにゼットとミグスが囲んで座っているたき火は悠真が熾したものである。またそこから少し離れた悠真が光源にしているのは、イグニスを大きめに燃え上がらせた、燃料の無い魔法の火であった。それくらいは既に悠真にもできるようになっている。
(イグニスを維持しながらやれば、普段とは違う負荷がかかるはず……)
加えてゴブリン事変以来一度も成功していない魔法の二重起動の練習にもなるかもしれない。と言うのが悠真の考えだった。
「ファイアスプラッシュ!」
前に向ける手のひらに火の玉が形成され、一定の方向性を持って爆発する。
何度か試している中で、悠真は体を流れる魔力に違和感を感じていた。
発動は上手くいくのだが、火の玉の形成から爆発までに多少ラグが生じ、集めた魔力が散って行くような奇妙な感覚がある。それは右手と左手で別の事をしようとした時に頭の中が混乱するような感じに似ている。ふたつの魔法へと流れるそれぞれの魔力が、お互いに干渉し合っているのだろう。
「これは……結構いけるかも」
練習のアイデア自体は良さそうだというのが悠真の感想であった。今はまだ上手くいっていないが、ふたつの魔力の流れを同時に扱う事で、相対的にそれぞれの魔力の流れを知覚しやすくなったのは大きい。
これまで愚直(速射・連射したり、逆に丁寧に魔法を発動させたりはしていたが)に初級魔法を撃っていた悠真だが、ハードルが高いかもと思って手を出していなかった二重起動の練習が、むしろ魔力操作の理解に繋がる事になるとは。悠真は自分には目的に向かって最短距離を走れるような要領の良さが無い事を知っていたが、こんな簡単な事ならと、少し時間を無駄にしたような気分になった。
実際のところは悠真の愚直な鍛錬の結果、ふたつの魔法の発動時に、それぞれに使われる魔力の流れを理解できるようになったのだが。それは悠真には知り得ない事である。
「ユーマはありゃあ、何してんだ?」
悠真からは少し離れたところにあるたき火のそばで、ゼットは首を傾げる。
「初級魔法をただ撃ってるだけじゃ……ねえんだよな?」
「当たり前っす。というか見りゃ分かんでしょうが。悠真のそばにある火はあれ、イグニスっすよ。恐らくは二重起動の練習っす」
「ふーん。俺ぁエンチャントしか使えねぇから、良く分からんな」
ゼットのように魔法はエンチャントだけ、と言う冒険者は多い。それは魔力と言う限りあるリソースをどこにつぎ込むかと考えた時、戦闘力と言う点では多くの場合、魔身技に軍配が上がるからである。最終的に魔身技を覚える事を前提にするならば、魔法習得のために費やす時間やお金は基本無駄になる。そのため属性判別キットだけ買い、呪文は先輩から必要なものだけ教わると言うのがスタンダードなのだ。
「ま、俺はもう起動型魔身技使えるようになったから、関係ないんだけどな!」
「まーたその話っすか……」
ゼットもまた、ゴブリン事変の修羅場を経験して成長していた。
習得したのは疾風と剛力。筋肉の理をふたつに分けたような魔身技だが、逆に言えば特化していると言う事だ。使用する魔力は同等だが、得られる威力は局所的に見れば、筋肉の理をはるかに上回る。
「そして俺もいつかは突破を……!」
筋肉の理のような万遍なく強化する起動型魔身技を使えるものは持続型魔身技を。逆に特化した起動型魔身技を使えるものは突破を。それぞれ使えるようになる傾向があるらしい。
もちろん魔身技の習得条件はあまり詳しく分かっていないのが現状なので、例外は多く存在する。とは言え可能性が高いと言われれば期待してしまうのも仕方の無い事だろう。
「はいはい。じゃあ貴族領に着いてからは、天才ゼットさんに稼いでもらう事にしましょうかね」
「へっへへへ、任せとけって!」
ゼットが魔身技を習得してから毎日のように自慢話を聞かされてきたミグスは、呆れたような表情で皮肉気に言った。だがまるでゼットには通用せず、むしろ嬉しそうである。それを見てミグスは諦めに近い心境になりながら、やれやれと大きなため息をつくのであった。
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ティバールを出て十日後、悠真たちは貴族領へと辿り着いた。
その旅路において野盗の襲撃は無かったが、一度だけ赤雄牛が街道に居座っていた事がありそれを排除した。
レッドオックスはボアほどの耐久力は無いが、突進は同じくらい危険な敵だ。そのレッドオックスを、待ってましたとばかりに魔身技・ウインドエンチャント併用の双剣乱舞を披露したゼットが、ひと息の間に仕留めてしまったのである。
悠真もミグスもそれまで実際に目にしてなかった事もあり「天才ゼット(笑)」だったのが、認識を改めさせられる事になった。
武器の魔身技は魔法のエンチャントとは併用できないという特徴がある。そのため、肉体の(筋力増強の)魔身技と魔法のエンチャントの組み合わせは、武器と肉体の魔身技が両方使えない段階では最も火力の出る組み合わせである。ゼットの場合はそこから更に脚力と体の「キレ」を増強する疾風、それに相性の良い双剣と言う武器が加わるのだ。一撃の威力も手数も、瞬間的にはDランク冒険者からは逸脱したレベルと言っていいだろう。
もっとも、魔身技の複数同時使用は倍々で必要魔力が上昇するので、ゼットの双剣乱舞は一日に二回使えればいいところなのだが。
ロットン貴族領に入った悠真たちは、まず広大な農作地帯を目にする事になった。周辺が小さな森や丘、小川などに囲まれて起伏に富んでいるティバールと違い、恐ろしく広い農地の先に小さく市街を守る塀が見える。平原の中に存在すると言う点では悠真がこの世界に来て初めに立ち寄ったモート村もそうだが、規模があまりに違うので悠真は面食らった。
「うおお、でけえなあ」
「壮観だな」
「いつ見ても頑丈そうっす」
果たして塀に近づき、門が見えてくるとその大きさに感嘆の声を漏らす悠真。ゼットも同じように驚くが、ミグスは知ったような口ぶりである。
塀は均質な石のような材質で、門には装飾が彫り込まれている。ティバールの石組みの塀とは全く異なる趣であった。コンクリートじみた質感に一度は首を傾げる悠真。だがエドガーが土魔術は建築に活用される事があると言っていたのを思い出し、恐らくそれだろうとすぐに納得する。貴族領で初めて目にする事になったのは、土魔術の使い手の少なさから貴重な技術であるためだろう。
「ほっほほ、それでは、入りましょうかな」
ホフマン老人に促され、それぞれ冒険者登録証(別の町のギルドに行く時にようやく配布される代物である)を提示して門をくぐる。その先が、ロットン貴族領市街区「リルマール」である。
「それじゃ、私はこれで」
「ありがとうございました」
門を抜けたところでホフマン老人とはお別れとなる。仕留めたレッドオックスの肉は積載料含めて彼に引き取ってもらった。
気の良い老人とその馬車を見送り、悠真たちは目的地を目指す。
「……じゃあ、まずは冒険者ギルドっすね」
「そうだな。って行った事あるのか? さっき門を見た時もそれっぽい事いってたよな」
「もちろんっす。こう見えて一応、戦争経験者っすからね。このロットン貴族領から東は東の主戦場。押し込まれた時期にゃあここに立て籠ったりしたもんっすよ。ま、オレは途中で逃げ出しちまったもんで、アトムの申し子になっちまった訳っすが」
ミグスはそう言って自嘲気に笑った。逃亡兵のまま戦争が終結し、表の仕事ができず小悪党になり、しょうもない罪で捕まって余罪がばれ投獄されて、アトムの申し子になったらしい(ちなみに彼の年齢は二十四歳。当時は少年兵である)。
獣人・源獣人連合との戦争については、悠真は知っている話から人間が常に優位に立っていたイメージを持っていた。だがそもそも勝ったり負けたりしていなければ敵対し「続ける」と言う事も出来ないのだから、そう言う時期もあったと言う事なのだろう。
「ふぅん、ま、とにかく行こうぜ」
「そうだな。情報収集もさっさとしたいし」
ミグスを先導に、冒険者ギルドに向かう三人。
彼らはティバールの町よりもひと回りかふた回り大きい冒険者ギルドに入ると、早速冒険者情報の登録を行った。登録するのは配布された登録証のナンバーと、名前や種族など最初に登録した情報である。
「まずはお使いクエストの終了報告っすね」
「承ります」
受付のお姉さんにそう告げて、ミグスは袋から次々配達の品を取り出す。
配達系のクエストは単価が最低ランクであるため、複数同時受領するのが普通だ。またその時々で数がまちまちなので、それを主収入にするものは居らず、遠出する冒険者が旅費の捻出ついでに受ける事が多い。ちなみに今回は三人での旅という事もあり、八つのクエストを同時に受けたのだが旅程の食費は半分も賄えていない。
「資料室を借りたいんっすけど」
「ではこちらに記帳を。今空いてますのですぐ使えますよ」
その後しばらく時間を使い、悠真たちは貴族領近辺、リオ河流域、流域に存在する森に住む動物について情報を収集した。ミグスはこの辺りの事をある程度知っているようだったが、集積された情報として改めて資料を見てみる事にしたようだ。
情報収集は資料室にある窓から差し込む日の光が赤らむまで続けられた。主街地区リルマールに入ったのが昼過ぎだったので、四、五時間と言ったところだろう。途中ゼットが飽きて適当な依頼を探しに行ったりもしたが、悠真とミグスはおおむねの情報を集める事ができた。
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「ったく、納得がいかねぇ!」
キリの良いところで資料室から引きあげ、衝立のように並ぶ掲示板の裏でテーブルの席に着いていたゼットと合流すると、彼は何かに憤慨しているようだった。
「どうしたんだよ、ゼット」
「オレは大体察したっすけど……」
憮然とした表情のゼットを見て困惑する悠真に対し、ミグスはやれやれと言った感じだ。
「どう言う事だよ」
「大方他の冒険者に馬鹿にされたんでしょ。ティバールではあんまり無いってだけで、普通の事っす」
「普通だと!?」
ミグスに普通の事と言われ、声を荒げるゼット。しかしミグスは意外なほど冷徹な表情で続ける。
「ティバール含めた南の冒険者ギルドが異常なんっすよ。【大森林】の開拓地に指定されてる土地から離れてる分、優秀な人間の戦士や魔法使いが魔獣討伐のためにどんどん中央にとられてるっすから。そのせいで慢性的な兵力不足になって、獣人とも仲良くやるって形に落ち着いたのも最近の話らしいっす」
「……必要がなきゃティバールでも、俺たちは蔑まれたままだったってのかよ」
ゼットが悔しげに吐き捨てるように言う。
「当たり前でしょ。今じゃ誰もわざわざ言いやしませんが、獣人は戦争に負けたんっす。それに家族を殺されたもんにとっちゃ敵以外の何物でもないっすからね。……知ってるっすか? ゼット。受付のライラちゃんは両親を獣人に殺されてるっすよ?」
ミグスはそこで言葉を切ったが、その続きは悠真にも理解できた。
両親を獣人に殺されたライラが、ギルドを切り盛りする教官を助けるためとは言えどのような思いで受付に立ち、獣人に接しているのか。仕事でもなければ、必要に迫られなければ、あのような気さくな態度で獣人に接していないのではないのか。そう言いたいのだろう。
だが、悠真はそうは思わない。
「……けどまあ、だから獣人を今も恨んでるかって言うと、それは本人に聞かないと分からないんじゃないか?」
「ユーマ……」
「ホフマン老人みたいな人ばっかりじゃないとは思うが、だからと言って誰もがずっと恨んだままって決めつけてしまうのもどうかと思うぞ。もしかしたらライラも、乗り越えたからこそなのかもしれない。まあ、獣人がそれに甘えちゃダメだろうし、実はライラが恨みをフツフツと溜め込んでるかもしれないが……」
表面上に出ていない事は事実としないのが悠真のスタンスである。もちろん様々な事を考え巡らせはするが、「相手からの発信があるまではあくまでも想像」であると捉えて備え行動する。少し察しの良い人間なら推し量れて行動に移すような事でも、彼は「推し量った限りは事実ではなく推測」として慎重になる。それは悠真が察しの良い人間と同じように推測できていたとしても同様である。察しが良くない自分を自覚する悠真が、それでも人と上手く付き合っていくための、彼なりのやり方であった。
「ギルドの連中もそう言う事で獣人を罵ったりしないし、普段は上手くやってるんだ。関係ないヤツの言葉とか、ちょっとした決めつけでそれが崩れるのは勿体無いんじゃないか?」
悠真の言葉に、ふたりは考え込むように押し黙る。
終戦から十年経ち情勢が変わってきている中、国有奴隷の源獣人はともかく生活域を同じくする人間と獣人の関係も変わってきている。獣人の居る町、獣人の居る生活が普通になってきているのだ。
その獣人を終戦直後と同じように抑圧し続け、不満は当然のように膨れ上がっている。しかも当初獣人の不満のはけ口になる予定だった源獣人は、国有奴隷としての運用上の関係からあまり獣人と関わる事が無いため意味を成していない(ミアのように源獣人を引き連れて歩くなどと言うのは特殊例なのだ)。
そうした状況の中で、様々な理由から獣人との融和を考える場所、地域もちらほら現れ始めていた。ティバール冒険者ギルドを含め、そう言う場所、地域での人間と獣人の関係は非常に微妙なものだ。特に宣言があったわけでも無いところで、お互いに少しずつ歩み寄りながらという現状、配慮無き言葉で簡単に歪みが出てしまうのも無理は無い事だろう。
それに諍いとなってしまったが、ゼットもミグスも、お互いが嫌いなわけではないはずだ。こうして一緒に旅をしているのだから、察しの悪い悠真でもそれくらいは分かる。
悠真の言わんとする事が伝わったのか、ミグスがおずおずと口を開く。
「そうっす……そうっすよね。ライラちゃんの話は、オレの推測っす……ゼット、気にしないでもらえるとありがたいっす」
「いや、ユーマの言う通り実は事実……かもしれないしな。俺も能天気に、しょうもない事で怒っちまって、悪かったな。ユーマも……すまねぇ」
「謝るなよ。偉そうに言ってた俺もライラの事知らずに、獣人も差別しない、とか言ってたからなぁ。それに、関係ない奴ならともかく、ティバールの奴らが似たような感じで獣人を馬鹿にしたら、流石に俺もぶん殴るかも知れない」
悠真が苦笑するようにそう言うと、ようやく三人の間にいつもの空気が戻ってくる。
「いーや、ユーマは殴らんな」
「まあ、殴らないでしょ、ユーマは」
「な、なんでだよ……」
調子を取り戻し、ニヤニヤと笑いながら言うふたりに対し、悠真は怪訝な顔で理由を聞いた。
続く言葉は悠真にもなんとなーく分かったが、言われない限りは事実にならない。察しても聞かずにはいられない自分の性質を恨めしく思いながら聞く悠真の肩を、椅子から立ち上がったゼットは慰めるようにポンポンと叩いた。
「へへへ、臆病と慎重の間を行ったり来たりしてるからなぁ、ユーマは」
「お、お前っ、ゴブリン事変でみんなの中心に立って勇猛果敢に戦った俺に向かって! その言い草は無いだろ!」
小馬鹿にした言い草に反論する悠真の肩に、今度はミグスの手が置かれる。
「ユーマ、その言い方だとまるでユーマがリーダーだったみたいに聞こえるっす。ユーマは立ってる場所がみんなの真ん中だっただけっす。ちなみに途中から納剣してたのも、オレぁ忘れて無いっすよ」
「勇猛果敢な戦士なんて言う夢は諦めて、知略キャラの魔法使いにしとけって。その方が性に合ってるだろ?」
「ちきしょう……分かった、そこまで言うんなら分からせてやる! 勝負だ! 勝負しろ!」
「ああ? いいぜぇ。ちょうどここは冒険者ギルドだ。修練場に行こうじゃねぇか。天才ゼット様の絶技をお見舞いしてやるぜ」
「晩飯までにケリつけるっすよ、ふたりとも」
わぁってるよ! と言いながら、受付のお姉さんに修練場を狩りに行く悠真とゼット。
「あ、レギュレーションは魔法と魔身技無しで」
修練場へと向かう途中、そんな事を言って、また臆病とからかわれる悠真であった。




