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6月28日(木) 稲船さなぎ、兄とキス

 6月28日、木曜日。

 平穏なプールの授業に魔物が出現した。

「うう……やっぱり恥ずかしい」

 はちきれんばかりの果実を紺色のスクール水着に閉じ込めてやってきた桃子だ。

 ついに桃子がプールの授業に参加したのだ。

「お前……空気読めよ。参加するなよ。女子全員日陰者じゃねえか」

「さなぎちゃんが参加した方がいいって言ったんじゃないですか!」

 恥ずかしいのかもじもじしている桃子。その仕草が更なるエロスを引き起こす。

「お兄ちゃん的にはどうなんだ? 桃子の水着姿が他の男子に見られてるわけだが」

「ん? ああ、そうだな」

 近くにいるお兄ちゃんに感想を聞くが、何だかお兄ちゃん上の空だ。

「おいおいお兄ちゃんどうしちまったんだよ、ヤク中みたいな顔だぜ」

 お兄ちゃんに限って麻薬なんかに手を出すはずないと思ってるけど、どうも最近お兄ちゃんの様子がおかしい。これは女の勘ってやつだ。

「そんなに酷い顔してたか?」

「すごく気持ち悪い顔してましたよ。女の子の水着見て気持ち悪い妄想して夢の世界にトリップでもしてたんでしょうけど」

 桃子がお兄ちゃんを詰る。なるほど、桃子の水着姿が魅力的すぎてお兄ちゃん放心状態だったのか。まあ放心状態になるのも仕方ないよな、周りの男子も前屈みになってるし。

「そいつはすまなかったな。さて、俺達も準備運動するぞ。特にさなぎ、お前は入念にストレットしろよ。毎回足をつってるからな」

 そう言うとお兄ちゃんは準備体操をしだす。やっぱり今日のお兄ちゃんどこかおかしい。

「絶対おかしいよな、今日のお兄ちゃん」

「そうですよね、私が水着着たのになぎさちゃんスクール水着着てないじゃないですか!」

 そこかよ。ま、お兄ちゃんも平静保っているだけで心の中では桃子にメロメロなんだろう。sその後恒例のクラス分け。俺もお兄ちゃんも桃子も全員中級コースだ。

 ぷかぷかと水に浮く桃子。やっぱり胸がでかいと浮力がすごいんだな。

 水に浮かぶ桃子の顔と二つの果実。なかなかシュールな光景だ。お兄ちゃんがプールに浸かりながら桃子を眺めていた。俺はこっそり水に潜ってお兄ちゃんの下半身を確認する。

 良かった、ちゃんと反応してた。あんまり反応してないからお兄ちゃんひょっとして女の子になったんじゃないかと心配してたんだぜ。

「はぁ……プールは気持ちいいですけど、やっぱり恥ずかしいですね。男の人にいやらしい目で見られてるんじゃないかと思うと」

 桃子がアンニュイにつぶやく。何を言うかと思えば。

「いやらしい目で済んだらマシだと思うぞ。お兄ちゃん何か今頃頭の中で桃子のスクール水着からしたたる水滴をなめてるよ」

「ひぃっ! な、なぎさちゃん変態すぎですよ!」

 桃子は怯えてお兄ちゃんから距離を取る。

「勝手な事を言うなよ……」

 スクール水着からしたたる水滴フェチにされてしまったお兄ちゃんは俺を訝しげに見るが、

「んだよお兄ちゃん、下半身はきっちり反応してた癖によ。ええ? 正直になれよ、脳内で桃子のスクール水着を脱がせて犯したんだろ?」

「俺は脱がさない派だ。つうか授業中にそういう話題はやめてくれよ。要さんがノイローゼになっちまうぞ」

 変態であることは間違いないようだ。まあ、男は皆そんなもんだよな。黒須だって今頃俺で妄想しまくってるよな?

「それより桃子、一緒にシンクロやろうぜ」

 すっかり怯えてしまった桃子を別の事に集中させて何とかしようとシンクロを持ちかける。

「シンクロ! いいですね、憧れてたんです」

 目を輝かせる桃子。俺と桃子という二大天使のダンスでプールの男子全員の目を釘付けにしてやろうぜ! 俺と桃子は水中にもぐり、まずはくるりと足を水面から出そうとして、

「あああ痛い痛いいがばばばば」

「足がごぼぼぼぼぼ」

 二人して足をつり、溺れてしまう。ただでさえ足を出そうとしてほとんど逆立ち状態で体勢的にヤバいのに、思いきり水を飲んでしまった。

 しかもシンクロやってると思われてるから溺れているなんて周りの人間は気づいてくれそうにない。まずい、意識が……



「んあ、ここは……そうだ、俺溺れて」

「良かった、意識取り戻したんですね」

 気が付くと、俺はプールサイドに寝そべっており、半泣き状態の桃子がこちらを覗いている。

「ったく、何回溺れりゃ気が済むんだ、二人とも助けるの大変だったんだぞ」

 呆れ顔のお兄ちゃん。どうやら俺も桃子もお兄ちゃんに助けてもらったようだ。

「……お兄ちゃん、何か顔が真っ赤だけどどうしたんだ?」

「い、いや、それはだな」

「そ、その……」

 お兄ちゃんだけでなく、桃子も顔を赤らめる。一体何があったんだろうと推測し、とある仮定に辿り着いた。

「ま、まさかお兄ちゃん桃子に人工呼吸したのか? そうかそうか、お兄ちゃんと桃子がキスか、そりゃあ顔を真っ赤にしても仕方ないよなあ」

 お兄ちゃんと桃子を冷やかす。桃子を助けるためという大義名分でキスができるなんて、お兄ちゃん本当に役得だな。

「いや、まあ人工呼吸はしたんだけどな」

「私じゃなくて、その……」

 しかしお兄ちゃんも桃子もそれを否定する。人工呼吸はした? でも桃子じゃない? ふむふむ、つまり……

「……え、俺?」

「残念ながら……」

 俺が自分を指差すと、お兄ちゃんは気まずそうにそれを肯定する。

「ちょ、ちょっと待てよ、俺彼氏持ちなのに実の兄に唇奪われたのかよ!」

 俺も顔を真っ赤にして慌てふためく。少女漫画とかにありそうな展開だ。

「そんな言い方はやめろよ……最初は要さんに頼んだんだけど、女同士なのに恥ずかしがってやってくれないからさ、早くやらないと手遅れになるかもしれないから焦って、結局、俺がな」

「だ、だって女同士でキスなんておかしいじゃないですか」

 顔を赤くして体をくねらせる桃子。実の兄妹がキスするよりはまだマシだと思うんだが……

「そっか、俺、お兄ちゃんに穢されちゃったんだ……うう、悪い、黒須」

 ポロポロと目から涙がこぼれる。ていうか何で水泳の先生とかに頼まなかったんだよ、まだそれなら割り切れたのに、相手が身近にいるお兄ちゃんだなんて。

「な、何でマジ泣きするんだよ、小さい頃は一緒にお風呂入ってたりしてたし、お前よく俺に抱きついたりしてただろ、気にし過ぎだって」

「うわ、なぎさちゃんキモい……」

 弁明のためにお兄ちゃんは昔の事を持ち出すが、今の俺にはそれは逆効果だと気づいていない。お兄ちゃんもまだまだ女心がわかっていないな。

 丁度授業の時間も終わったようなので、俺は急いで口をすすぐ。お兄ちゃん菌を洗い流さないといけないのだ。

「そこまでされると傷つくんだけど……妹を助けただけなのにあんまりじゃない?」

「この一件がきっかけでさなぎちゃんとなぎさちゃんはお互いを男女として意識するようになるんですね……」

 ばい菌扱いされてショッキングなお兄ちゃんと、勝手に俺達をレディコミの登場人物にする桃子。いやそれは有り得ないから、お兄ちゃんを男として見るとか無理だから。



「すまねえ黒須、俺、唇他の男に奪われちまったよ」

 帰りの電車の中、俺は黒須に謝る。お兄ちゃんが悪いという風潮になっているがそもそも俺がお兄ちゃんの忠告通り準備運動をせずにプールではしゃいだ結果だ。お兄ちゃんに悪い所があるとすればデリカシーの無さであり、基本的に非は俺にある。

「どうせ溺れて人工呼吸されたんだろ、気にし過ぎじゃないか?」

 黒須はそれを笑って受け流す。お前、自分の彼女が他の男に唇を奪われたってのに気にしないだなんて、それはそれで傷つくな。

「でもその相手、お兄ちゃんなんだよ……」

「兄妹じゃないか。俺だって小さい頃姉ちゃんとキスしてたよ」

 聞きたくなかった新事実。兄弟のいる人間からすれば割とよくあることなんだけど、兄弟いない人間からすれば引かれるんだよなあ。

「こんにゃろ、口直しだ」

「わっと、むぐっ……」

 俺は無理矢理黒須の唇を奪う。これでお兄ちゃん菌は黒須菌に上書きされたから多分大丈夫だろう。久しぶりの黒須の唇の味は……

「……臭くね?」

 何かこう、唇だけじゃなくて全体的に黒須が臭い気がする。

「さっきまで剣道してたんだから仕方がないだろ……」

 なるほど、つまりこれは黒須の汗の匂いであってむしろ積極的にかがなければいけないということか。でもちゃんと制汗剤とか使えよ、彼氏が汗臭いとか俺でもちょっと嫌だぜ?



 家に帰ると母親がいた。俺は冷蔵庫に貼ってあったプリントをつきつける。

「母さん、今週の授業参観、来てくれるよな?」

「土曜日は疲れてるから寝たいんだけど……」

「来てくれるよな? 可愛い子供のためだもんな?」

「わかったわかった、行くわよ」

 母親に授業参観の約束を取り付ける。俺としては平日仕事頑張ってる母親にはゆっくり休んで欲しいところだが、お兄ちゃんが絶対に来させろというのだ。考えれてみればお兄ちゃん母親にあってないはずだもんな、そりゃ母親に来て欲しいよな


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