6月25日(月) 彼岸優、授業参観のチラシを貰う
6月25日、月曜日。
「おお、金切すごいじゃないか。2週間で初級から上級へ行くなんて」
その日の水泳の授業、水へのトラウマを何とか克服した金切君は持ち前の運動神経の高さを活かしてあっという間に上級者コースへ。私は置いてかれてしまいました。
「ははは、ざまあみろ」
「底野君、溺れたいの?」
「がぼ、ごぼぼぼ、だずげで……」
同じく秀に置いてかれている底野君が私を笑ったので、水の中に沈めてやります。
ただ腹いせに底野君を沈めているわけではありません。私と底野君がいちゃつくことで、秀に嫉妬させるという計画なのです。
「おい糞姉、またトラウマ植え付ける気か」
案の定秀がわざわざ中級者コースの所までやってきて底野君を救出しました。
「げほっ……ごほっ……ほ、本当に死ぬかと思った……ありがとう秀さん」
「ふん」
底野君の無事を確認した後秀は用は済んだと言わんばかりに所定の位置へ戻る。
「駄目じゃない底野君、そこは溺れたフリして人工呼吸させないと」
「あのね優さん、そういうのいいから。人の恋路を邪魔する者はなんとやらだよ」
邪魔してないのにい。
「金切君流石だね、あっというまに上級者コースなんて」
「優のおかげだよ」
水泳の授業が終わった後、教室で休憩中に金切君と談笑。
私のおかげっていうけれど、そもそも金切君が水にトラウマ持つようになったのは私のせいなので見事な自作自演である。
「小田君すごいね、水泳大会で優勝できるんじゃない?」
「い、いえ! 自分なんてまだまだです」
教室に小田君とヒナが二人して入ってくる。あの二人の仲はなんだかあっという間に進展していったなあ。
「……」
それまで楽しげに私と会話していた金切君であったが、突如ムッとした顔になる。
「金切君? どうかしたの?」
「え? あ、ああ、腹痛くてな。トイレ行ってくるよ」
わざとらしく席を立ち、教室の外へ出ていく金切君。きっと本当にトイレに行ったわけではないのだろう。どうも最近、金切君と小田君の仲があまりよろしくないらしい。
原因は何なんだろうか。ひょっとして金切君は本当にヒナの事が好きで小田君に嫉妬しているとか? そうは思いたくはないが……
まあすぐに元通りになるでしょ、とポジティブシンキングしながらその後の授業を受ける。
帰りの会で一枚のプリントが配られる。それは今週末にある授業参観と保護者懇談会のプリントだった。
「授業参観かあ、昔は親にいいところ見せたいって思ってたけど、この年になると親が来るの恥ずかしくなるよね」
「俺の母さん、やたらと息子がお世話になってますとか言うからなあ……正直恥ずかしいからやめてくれって毎回言ってるんだけど」
金切君の部活を教室から眺めた後、金切君と二人で帰りながら授業参観について話し合う。
金切君のおばさんは本当に昔からそんな感じだからなあ、私には息子をこれからもよろしくねとか言ってくれるから私は好きだけど。
「それじゃ、また明日」
「おう」
金切君と別れて家に入る。リビングでは秀が不機嫌そうに一枚の紙を眺めていた。
「ただいま秀。何それ、ひょっとしてラブレター?」
「……ふん」
私を睨みつけると、秀はプリントをビリビリに引き裂いてゴミ箱に入れ、自分の部屋へと去ってしまう。私はビリビリになったそれが何なのか確認すると、授業参観のプリントだった。
「まったく秀ったら」
秀は授業参観などのイベントを、親に伝えた事がない。授業参観に来て欲しくないみたいだ。しかし私は親に伝える。親は授業参観に来る。そして私の様子だけ見るわけにはいかないので秀の様子も見に行く。秀は不機嫌になる。
たまには秀の意思も尊重して、このプリントを親に渡さずにいようかなあとも思ったけれど、それじゃやっぱり駄目だよね。大体金切君のおばさんと私のお母さんはいつも世間話してるからバレバレだよ。
姉として、何とか秀にもう少し家族とコミュニケーションを取ってもらいたいものだ。
底野君に頼らない、家族の私がするべきことなんだろう。