6月24日(日) 鷹有大砲、エロゲーをする
6月24日、日曜日。
「……よし、ガラハちゃんは寝てるな」
現在時刻は午前2時。僕、鷹有大砲はリビングの布団でガラハちゃんが寝静まっているのを確認すると、こっそりとパソコンの前に座る。
「実は起きてたりしないよね?」
もう一度ガラハちゃんを確認。大丈夫、寝息も立ててるし起きそうにない。
今から寝ているガラハちゃんに夜這いをかける……のではなく、ガラハちゃんにばれないように僕はあることをするのだ。
「よし、やるぞ……」
昨日の夜に届いた、教科書と書かれた段ボール箱を開ける。
そこに入っていたのは教科書ではなく、一枚のCD。カモフラージュだ。
そのCDをパソコンに入れて、インストール。
ヘッドホンを装着して、実行ファイルをダブルクリック。
『イルカと恋のエンドルフィン!』
タイトルコールが流れる。よし、やるぞ、プレイ開始だ……。
『俺の名前は鯨つくね。今日からここ、潮風高校で教鞭をふるう新米教師だ……』
主人公のモノローグが流れる。
そう、僕は今からエロゲーをやるのだ。ガラハちゃんに隠れてこっそりと。
最近ガラハちゃんと同棲しているというシチュエーションのおかげでギャルゲーができなかったせいで反動が来てしまったのだろう、駄目だと思いながらもついつい最新のエロゲーをネットで注文してしまった。高校生になったし、エロゲーやりたい! という気持ちもある。
いや、誤解しないで欲しい。僕はエロシーンが見たくてこのエロゲーをやっているわけじゃないんだ。このゲームのシナリオを手掛けた人はギャルゲーで数々の感動的な話を作ってきている。僕はシナリオ目当てにやるんだ。どうせ数か月後にはエロのないコンシューマ版が発売されるだろうからそれまで待てという意見もあるかもしれないが、ファンとしていち早くシナリオを堪能したいんだ!
ストーリーは新米教師が生徒を攻略していくタイプ。とりあえずメインヒロインのイルカちゃんを攻略しよう。
共通ルートに3時間くらいかけたあと、ようやくヒロインのルートに突入。
教師と生徒という垣根を越えて、親身にヒロインに接する主人公。
そんな主人公にヒロインは男として好きになっていく。
そしてクライマックス、ヒロインに告白された主人公は……
他の教師と一緒にヒロインをレイプ。
その後妊娠したヒロインと主人公は結婚してめでたしめでたし。
「……は?」
スタッフロールを見ながら僕は茫然とする。待て待て待て。これバッドエンドか? しかしエンディングの後のエンドリストを見るときちんと、『イルカルートのグッド』と書かれている。
一体どういうことだ、いくらエロゲーだからって、こんな結末おかしいじゃないか。
「……ああああっ!」
ここで僕はある重大な事を思いだし、ようやくこのゲームのタイトルの意味を知る。
そうだ、イルカだ。イルカと言えば一般的に輪姦で生殖する生き物じゃないか!
してやられたよ、シナリオライターに。完全に僕の負けだ。
ほのぼのとした展開が好きな僕としては嫌な流れだったが、エロシーンに至るまでのシナリオは文句のつけようがなかったし、買って損したともコンシューマで出るまで待てばよかったとも思わない。さて、次はどのヒロインを攻略するかな……
「2周目をやる前に、朝ご飯ができております」
ガラハちゃんの声にそういえば夜中ずっとゲームをしていたからお腹が空いたなあ、時計を見ればもう朝の8時じゃないか。朝ご飯食べたら寝ようっと……って、
「ガ、ガラハちゃん……、ど、どこから見てた?」
何食わぬ顔で食事の用意をしているガラハちゃんに僕は冷や汗だらだら。
「ヒロインが、主人公に告白するあたりから」
よりにもよってエロシーンの直前かよ!
「違うんだよガラハちゃん」
「いえ、大丈夫です。ご主人も男の子ですからね、そういうゲームをすることくらい理解しております。……ただ、そういう性癖だとは知りませんでしたが」
やめてくれ、そんなお母さんのあらあら、息子もそういう年頃になったのねえみたいな優しい目で僕を見るのはやめてくれ……。
「その、ご主人」
「何、ガラハちゃん」
女の子にエロゲーしてるところを見られた(しかもレイプシーンあり)という男にとって最大級の屈辱に打ち震えてながら朝ご飯を頂いていると、追い打ちをかけるように、
「そ、その、ご主人が望むなら、私、そのゲームのヒロインみたいに、全力で嫌がりますから」
ガラハちゃんはもじもじしながら僕のためならそういうシチュエーションのプレイもしますみたいな事を言ってくるのだ。
「だから違うんだってばああああああ!」
結局この日は勘違いして発情してしまったガラハちゃんの誤解を解くのに費やす羽目になった。
もうこのエロゲーはやらないと心に決めました。