6月23日(土) 要桃子、さなぎに
6月23日、土曜日。
「はぁ……はぁ……」
私、要桃子はさなぎちゃんのベッドで目を覚まします。身体中が汗だくです。
というのも、見た夢が最悪だったからです。
昨日お昼寝した時に見た夢がベースでしたが、違うところは出てきたなぎさちゃんが裸の王子様だったとこです。忘れたくても忘れることのできない、なぎさちゃんのプリケツ。
まさに梅雨の夜の淫夢。昔見た漫画で主人公がさらわれたヒロインの事を思いだそうとしたらパンツしか思い出せないとかそんなのがありましたけど、今の私はまさにその状態。
結局お風呂にも入れなかったし、最悪の気分で部屋を出て美味しそうな匂いのする食堂へ向かいます。
「おはよう要さん。ご飯できたら起こしに行こうと思ってたんだけど。今のうちにシャワーでも浴びてきたら? ていうか顔赤いよ、風邪でもひいたの?」
食堂では裸ではなくダサい私服のなぎさちゃんが調理中でした。
「おはようございます。……お言葉に甘えてシャワー浴びてきますね」
逃げるように食堂を出てお風呂。駄目だ、どうしても昨日見たなぎさちゃんの裸の後ろ姿が忘れられない。無心になろうと湯船に浸かった結果のぼせてしまいました。
「随分と長風呂だったね。料理冷めちゃったよ」
食堂では既になぎさちゃんが自分の料理を食べ終えてお皿を洗いに行くところでした。
「女の子にそう言う事聞いたら嫌われますよ……喉乾いた」
のぼせて喉の乾いた私は棚にあったぶどうジュースの瓶を取って飲みます。
一口飲んだ瞬間ものすごくまずくてむせかえってしまいます。
「っ……げほっ、げほっ、何ですかこのぶどうジュース、腐ってるじゃないですか」
皿洗いをしていたなぎさちゃんに詰め寄りますが、なぎさちゃんは私の持っている瓶を見てしまったという顔になります。
「要さん、それ飲んだの?」
「すごくまずかったからちょっとだけですけどね。 ひょっとして年代物のワインだったんですか? でもこれもう賞味期限切れてるとかいう問題じゃないですよってお父さんに伝えた方がいいですよ、ぶどうの味なんて全然しませんでしたもん」
「ちょっとだけだったらすぐに元に戻るか……要さん、それぶどうジュースじゃなくてね」
「わ、何ですかこれ、煙が」
突然私の体を煙が包みます。何だか自分の体が霧散して再構成されていく感覚。そして気づいた時には、
「な、なぎさちゃんが小さくなってる……」
目の前のなぎさちゃんをかなり見下ろす形に。普段のなぎさちゃんと私の身長は数センチくらいしか変わらないのですが、今は30cmくらい違ってそうです。
「違うよ。要さんが大きくなったんだよ。鏡見てみなって」
なぎさちゃんに促されるまま鏡を見ると、
「あれ、さなぎちゃんじゃないですか。胸大きくなりましたね」
そこにはさなぎちゃんがいました。普段と違って胸は私くらいあります、バストアップに成功したんでしょうか?
「どう説明したものやら……」
「理想の自分? 今の姿が?」
「そうだよ。要さんはさなぎに憧れてたからベースはさなぎになったんだね」
朝食を食べながらなぎさちゃんの説明を受けます。
私がさっき飲んだ薬は、一定時間理想の自分になれる薬みたいです。
にわかには信じられない話ですけど、どう見ても今の自分は胸の大きなさなぎちゃんですし、信じるしかないみたいですね。
「どのくらいこのままなんですか?」
「丸々一本飲んだ時は半日かかったけど、要さんくらいの量なら1、2時間で元に戻るんじゃないかな」
そのくらいで元に戻る事が出来るなら、安心してさなぎちゃん目線を楽しむことができますね。
「丸々一本飲んだ時は……って、なぎさちゃんもこれ飲んで理想の自分になったんですか?」
「え? ああ、まあね」
明後日の方向を向いて口を濁すなぎさちゃん。
「ひょっとして、水泳の時の偽なぎさちゃんって」
「……秘密にしてくれ」
しおらしくなるなぎさちゃん。なるほど、あの偽なぎさちゃんはなぎさちゃんの理想の姿だったんですか。いかにも背の低い童顔男の考えた理想の男性像ですね。
「それにしても、さなぎちゃんはいつもなぎさちゃんをこんな風に見下してたんですね」
今の私はなぎさちゃんよりも30cmも背が高い。なぎさちゃんの遥か上から眺め降ろすのは快感ですね。なぎさちゃんの前にたってふふん、と鼻を鳴らします。
「『見下す』じゃなくて『見下ろす』だろ……それにしても要さん、胸にコンプレックスがあると思ってたからしぼむと思ってたけど据え置きなんだね」
「どこ見てるんですか変態!」
「ぐぎゃあ!」
なぎさちゃんの真正面が大体私の胸の辺りになっていることに気づき、恥ずかしくなってなぎさちゃんを蹴飛ばします。おお、さなぎちゃんの体すごく動きやすい。
「すごいです、体が軽いです」
その場でくるくると回転したりバレリーナみたいなことをしたりとさなぎちゃんの動きやすい体を満喫。
「いてて……要さん、あんまり調子に乗らない方がいいよ」
「これが調子に乗らずにいられますか? なぎさちゃんを見下ろせるし、動きやすいし、最高ですよ」
気分がハイになった私はその辺をはしゃぎまわります。ああ、いつもの自分と違う感覚って新鮮で楽しいです。
ビリリリッ
「……?」
何かが破けた音がした事に気づき私は立ち止まります。
なぎさちゃんを見ると、顔を赤くしながらこちらを見ないようにしていました。
「どうしたんですか? なぎさちゃん」
「いや、要さんが着てる服、小学校の時のさなぎの服だからさ、その身長ではしゃぎまわると破けるんじゃって言おうと思ったんだけど、手遅れだったみたいだね」
自分の姿を確認すると、確かに私の服が破けてますね。下着が見えてます。
なぎさちゃんの前で。
「いやああああああああああああ!」
「うう……それじゃ、お世話になりました」
「忘れ物ない?」
その後無事に元の姿に戻った私は制服に着替えてなぎさちゃんの家を出ます。
あれだけ激しかった雨もあがって、嘘みたいないい天気。
「それにしてもなぎさちゃんの裸は見るし下着は見られるしもう散々です」
駅まで歩きながらついつい独り言。
「まあ、楽しかったですけどね」
恥ずかしい思いもしたけれど、まあ楽しくなかったかと言われれば嘘になりますよ。
お昼ご飯は美味しかったし、晩ご飯は美味しかったし、朝食は美味しかったし。
……あれ、ご飯以外の感想が出てこない。これじゃ私食い意地張った女みたいじゃないですか。
そんな事考えたらお腹が空いてきました。もうすぐお昼ですね。
ついでにお昼ご飯を頂こうと、私はなぎさちゃんの家にUターン。