6月19日(火) 底野正念、踊る
6月19日、火曜日。
「なーなー、ゲーセン行こうぜ」
俺、底野正念と愉快な仲間達が今日も部室でネットゲームをしたり読書をしたりと部活動を満喫していると、稲船の番長がそんな事を言う。
「ゲーセンですか、いいですね」
読んでいた本をパタンと閉じて嬉しそうな要さん。
「それがさー、怪忍クナイのファンになっちまったんだけど、UFOキャッチャーでクナイの人形があるらしいからさ、それを狙うついでに今日は皆で遊ぼうぜ」
怪忍クナイと言うと日曜にやっている特撮だったか。一昨日それのBDを秀さんは手に入れたが、眼帯男の持つホームランボールとそれを交換していたな。
「ゲーセンか。しばらく行ってないし、預けてたメダルの更新もしないとな。俺も付き合うよ」
なぎささんも乗り気のようだ。
「じゃあ俺も付き合うかな。秀さんはどうする?」
「まあ、別にいいけど」
本当は行きたくてしょうがないんじゃないかと思っているけど、それは口には出さない。
そんなわけで、今日は5人そろって学校近くのゲームセンターへ。
高校から徒歩で約10分、俺と秀さんとの縁が始まった場所へ。
「さーて、俺は早速UFOキャッチャーするぜ!」
「私も何か人形取りたいです」
番長と要さんは早速UFOキャッチャーにコインを入れてはしゃいでいる。さて、目的の物が手に入るのにいくらかかるだろうか。
「さて、久々に遊びますか」
なぎささんは預けていたメダルを引き出してメダルゲームをするようだが、10枚しか引き出していないじゃないか。メダル10枚で遊べるのかな?
「秀さん、俺達はゾンビ撃たない?」
「何で私があなたと」
「そっか、じゃあ俺一人でプレイするよ」
秀さんを誘うも断られてしまった。
一人寂しく筺体にコインを入れて、マシンガンを手に取る。
向かってくる大量のゾンビをずばばばばーんと撃っていると、気づけば隣には秀さんが。
マシンガンをバズーカ持ちしているけどやりやすいのだろうか?
「秀さん、マシンガンはこうやって持つんだよ」
「大きなお世話」
どう見ても持ちづらそうだけど、俺よりプレイ上手いしいいか。
しばらく秀さんと無言でゾンビを撃つ。
こういうゲームをやっていると性格が残虐的になって犯罪をするようになるとたまに言われているが、実際のところどうなのだろうか。
秀さんは確かにすぐに手が出る子だとは思うけど、犯罪をするようには思えない。
結局のところ単なる偏見でしかないんだろうな、多分。
「くくく……」
と思っていたのだが、悪役笑いをしながらゾンビを掃討する秀さんを見ていると、前言撤回したくなってしまう。
「秀さん、楽しそうだね」
「……っ、べ、別に」
指摘されて我に返ったようで顔を赤くしながら無言になる。指摘しなかったらどうなっていたのだろうか。
秀さんの華麗なプレイの甲斐あって、1コインでクリアすることができた。
「今更だけど秀さん一緒にやらないんじゃなかったの」
「うるさい」
そそくさと格闘ゲームのコーナーに逃げる秀さん。ひょっとして照れてる?
さて、他の面子はどうなってるか見てみるか。
「さなぎちゃん、もう1500円も使ってますし諦めましょうよ」
「ふっざけんな!ここまで来たら取れるまでやるに決まってんだろ!」
UFOキャッチャーでギャーギャーいいながらコインを投入する番長。
どうやらクナイの人形はまだ取れていないらしい。
「コツがあるんだよ、ほら、こうやって」
見てて悲しくなってきたので、二人の間に割り込んで代わりにボタンを操作。
すんなりと人形を掴んで落とす事に成功。大見得切ってたし、一発で成功してよかった……。
ついでに要さんの欲しがってたテディベアも取ってやる。
「おー、底野にもいいとこあるんだな」
「地味だと思ってましたけど、秀さんも今のテクニックを使えばメロメロですね!」
二人ともさあ、感謝の言葉は選ぶべきだと思うよ?俺を何だと思ってるのさ。
「人形もゲットできたし、俺もメダルゲームで遊ぶか。お兄ちゃんどこだ?」
「あ、あんなところで競馬ゲームやってるみたいですよ。おっさん臭いですね」
二人に続いてなぎささんの所へ。メダルは1000枚近くに増えていた。
「すごいですねなぎささん。メダル10枚から増やしたんですか?」
「ああ。少ない元手から増やすのって、マネーゲームみたいで楽しいんだよ。で、増やしたメダルは馬を育てるのに採算度外視でつぎ込むって訳だ」
馬の育成にメダルをつぎ込みながらなぎささんが答える。
「これが将来十里を継ぐ男の素質か……そんなわけでメダル貰ってくぜ。桃子、向こうにあるメダル落としで遊ぼうぜ」
「それじゃあなぎさちゃん、また1から増やして私達に貢いでくださいね」
なぎささんのメダルをふんだくって二人は和気藹々とメダルゲームを遊び始める。傍若無人にも程があるよ、まったく。
「男は辛いね」
「なぎささん、強く生きてください」
小悪魔な二人に弄ばれた二人はがっちりと握手を交わす。再びメダルを増やしに行ったなぎささんと別れて、俺は秀さんのいるであろう格闘ゲームのコーナーへ。
今日稼働したばかりの格闘ゲームをプレイしていたので、俺はその向かいに座る。
「秀さん、俺が勝ったら」
「汚い手でも使って見ろ。リアルにKOされる羽目になりますから」
「あはは、そんな事するわけないじゃないか。稼働したばかりなんだし、条件は一緒。俺でもワンチャンあると思ってね」
コインを入れて、デザインが好みなキャラを選択して秀さんと対戦。
ワンチャン無かった。
「秀さん本当に今日がプレイ始めてなの?実はロケテしてたとか?」
「はん、あなたとはセンスが違うのよ」
得意げに鼻を鳴らす秀さん。今日は随分と上機嫌だな。
「くっ、だったら俺が勝つまで勝負だ」
コインを連続で投入。良い子は真似しないように。
その後秀さんと何度も対戦して連戦連敗。
10戦目くらいで秀さんが明らかに手を抜きだし、15戦目で秀さんが初めて使うキャラ+手加減、こちらが何回か使ったキャラで勝負してようやく勝った。
「つ、疲れた……」
「本当に勝つまでやるとは思わなかったわ……」
俺と向かいの台に座っている秀さんはため息をつく。UFOキャッチャーに大量につぎ込んだ番長の事を馬鹿に出来ないな。
その後秀さんと一緒に適当に店内をぶらぶらしていると、ダンスゲームのコーナーで番長と要さんを見つける。
「む、無理ですよこんな恥ずかしいポーズ!」
要さんは上下もしくは左右をいっぺんに踏むのを恥ずかしがっているようだ。
わかるよその気持ち、俺も最初は大股開きが恥ずかしかったよ。
最終的に行きついた結論は、後ろにあるバーを手でつかんで、ブレイクダンスの要領で足だけを動かすんだ。そうしたらそんなに恥ずかしくないしギャラリーも盛り上がる。
「甘いな桃子、恥ずかしさなんて捨てろ、今の俺達は戦場のダンサーだ!」
一方番長はノリノリで踊っているが、譜面を完全に無視している。
結果として二人とも曲をクリアできずにゲームオーバー。
「二人とも初心者なのに難しい曲選ぶからだよ。お手本見せてあげようか、秀さん」
コインを投入して秀さんにキラリと笑ってみせるが、
「何で私が付き合わないといけないんですか一人でピエロのように踊ってください」
残念ながら断られてしまった。
「それじゃあ俺が」
コインを入れて、俺の横になぎささんが立つ。
「見せてやりましょうか、漢の踊りってものを」
なぎささんに不敵に笑ってみせる。
「そうだな、魅せてやるか」
なぎささんも俺を見てニヤリを笑う。
最初からクライマックス、最高難易度の曲を選び、深呼吸。
溢れるように流れてくる矢印を、激流に身を任せるかのごとく流れるように処理していく。
「やりますね、なぎささん」
「そっちこそ、なかなかやるじゃないか」
二人の踊りがシンクロナイズ。どうだ、この踊っている姿を見れば秀さんは俺に惚れるし、要さんだってなぎささんに惚れるだろうとチラッと周囲を確認すると、
「頑張れさなぎちゃーん」
「ふんぬおおおおおおおおおおお!」
「30kg……意外と非力なのね」
女性陣はあろうことか、俺達の踊りよりも握力測定に集中していた。
「なぎささん、男は辛いですね」
「全くだね、底野君」
踊った後、汗だくになりながら俺達は笑いあう。
ゲームセンターで良い所見せて女性陣の好感度アップ大作戦は失敗したが、男の友情を深める事ができただけでもよしとしよう。