6月18日(月) 彼岸優、思い出す
6月18日、月曜日。
やってきました2回目の水泳の授業。今日も私、彼岸優は水着に着替えてプールへ行きます。
ヒナは小田君に昨日ばっちり水泳を教えて貰った甲斐あって上級者コースへ。無事に小田君と一緒になれました。
そして金切君も、
「金切君、頑張って!」
「おうよ、優に恥かかすわけにはいかねーからな」
私の応援ににっこりと笑顔で返した後、金切君は笛の音と共に勢いよくプールの壁を蹴る。
昨日私が教えたバタ足ではあったが、元々の運動神経の良さもあいまって、
「36秒、中級。おお、先週に比べたらすごい進歩だな」
無事に中級コースにこれました。やったね!
ただ何故か秀は今週は全力全開で泳いで余裕の上級者コース。底野君と離ればなれになってしまいました。ひょっとして底野君と一緒になりたいから手を抜いていたという事実が認められなかったんだろうか、我が妹ながら可愛いねえ。
「流石は金切君、何でもできるんだね。私より速いじゃない」
「いやいや、優が昨日教えてくれたからだよ」
中級者コースのエリアで、プールに浸かりながら金切君と談笑。
イチャイチャしてんじゃねーよこらという殺意が近くで寂しく泳ぎの練習をしている底野君からひしひしと伝わってくる。男の嫉妬はみっともないぞ。
どうやら上級者コースで小田君とヒナが仲良さそうに談笑しているのを苛立ちながら見ている秀も同じような事を考えているようで。離れていて同じ事を考えるなんて、相性ばっちりじゃない。二人は本当に運命の糸で結ばれているのね、なんて乙女チックな事言ってみたり。
「おーい底野、三田、今日もシンクロしようぜ」
「おうよ石田、秀さんに魅せてやりますか」
「アタシ頑張っちゃう!」
2組の男子勢は先週に引き続きシンクロをし始める。映画ではかっこよかったけど、あまり上手でない人がやってもあんまり絵にならないね、というのはちょっと酷いかな。
そう、ああいうのをやって絵になるのは、
「金切君もあれに混ざって、シンクロやってみたら?」
金切君のような人間に決まっている。私は金切君におねだりするように言ってみる。
「え?い、いや、俺はまだ水に潜ってあんなに動くのはちょっと」
金切君は本当にまだ苦手なのか恥ずかしいのかうろたえる。
「そうですか、金切君も参加してくれるんですか、それじゃあちょっと借りますね」
しかし残酷にも底野君によって強制連行されてしまいました。
その後無理矢理シンクロをさせられる金切君を眺めながら、あ、正直微妙だな…と思ってしまいました。ごめんなさい。
水泳の授業も終わり、制服に着替えた私は更衣室で髪を乾かしながら金切君と一緒のプールに入ったという余韻に浸る。何だかちょっとストーカーっぽいよね、底野君じゃあるまいしそういうのは止めて、昔を思い出そう。
そう、あれは幼稚園の頃だったかな、金切君の家に遊びに行って、ビニールプールで遊んだなあ。あの時の金切君、小さくて可愛かったなあ。
幼稚園くらいの頃って、女の子の方が基本立場強いよね。
当時の私は、今と比べるとものすごくアグレッシブ。金切君私に逆らえませんでした。
当時から金切君の事が大好きで、その日もプールの中で金切君に馬乗りしてたなあ。金切君がそれで溺れちゃって、それを見ていた秀が慌てて私を突き飛ばして助けたんだっけ。いやあ、我ながら酷い事をしたもんだ、好きな人を溺れさせちゃうなんて…って
「わ、私のせいだああああああああ!」
「わ、どったの優」
更衣室で急に叫び声をあげる私にヒナもびっくり。けれど叫ばずにはいられない。
そう、金切君が水にトラウマを持つようになったのは、他でもない私が原因だったのだ。
更衣室を出た私が教室に戻ると、金切君が自分の席に座って下敷きで扇いでいた。
「金切君、本当にごめんなさい!」
「ど、どうしたんだ優、いきなり」
誠心誠意、教室の床だろうが私は金切君に土下座をかます。
「わ、私が溺れさせちゃったせいで泳げなくなったのに、泳げない金切君ダサいとか思っちゃって、私、最悪だよ、本当に」
自然と涙が溢れてくる。本当に最低な女だ。
「顔をあげてくれよ、綺麗な顔が汚れるぞ。別に俺は気にしてないし、大体優のおかげで克服できたんだからさ、優は悪くねえよ」
金切君はそう言ってくれたが、私は涙で顔が多分みっともないことになっているので、なかなか顔をあげづらかったり。
本当にごめんね、金切君。




