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6月17日(日) プールDEデート(下)

「神音、さっきのは一体何なんだい?」

「あれか?いや何、ゴール地点とアタシを強力な磁石のようなものにして、一気に引き寄せられるようにしたんだよ。更に能力の使い道が増えたってわけ」

 昼食の焼きそばを食べながら、神音にさっきの水泳勝負の件について問いただす。インチキじゃないか。それと性懲りもなく焼きそばとソフトクリームを一緒に食べるな。ソフトクリームが零れ落ちたが、胸が小さいのでかかることなく地面に落ちた。何だか可哀想。

「ここのきつねうどん、あんまり美味しくないわね…」

 キツネさんも性懲りもなくきつねうどんを食べている。プールの食事に何を求めているんだ。

「さて、本番は水着コンテストですよ、アタシと店長がいれば、クナイのBDは貰ったも同然!ふはははは!」

 神音は無い胸を張って高らかに笑う。

「それなんだけどさぁ…これ」

 僕は水着コンテストのチラシを神音とキツネさんに見せてやる。

 正確には『父高プール毎年恒例・水着美少女コンテスト』であり、その名の通り参加資格は、

『参加できるのは18歳未満の女性に限ります』

 その一文を見た瞬間、キツネさんが固まる。

「いやいや大丈夫ですよ、店長17歳で通りますって」

「流石に無理でしょ…」

 神音はキツネさんをフォローするが、僕は現実を伝えてしまい、キツネさんにとどめを刺してしまう。キツネさんは今にも金髪が白髪になりそうな落ち込みっぷりで、

「私だって、妖狐の中では若い方なのに、うう、うう…神音ちゃん、大砲ちゃん、私はまだやれるって事を証明するためにナンパされに行くわ、二人でデート楽しんでらっしゃい」

 ふらふらとその辺をゾンビのように徘徊する。傷心オーラもあって、すぐに男にナンパされた。

 大丈夫ですキツネさん、まだまだやれますって。

「おいこら眼帯何そんな満足そうな顔してんだ!戦力減っちまったじゃねーか!」

「いやキツネさんはまだまだやれると思うけどさ、流石に17歳は無理があるって。想像してみなよ、コンテストで自己紹介する時にキツネさんが17歳って言った時の会場の空気を」

「うう…確かに想像したら何か物凄い酷いことになった。仕方がない、アタシ一人で頑張るとするか」

 そろそろコンテストの時間だ。神音はアタシの雄姿を見届けておけよ!と言い、参加の手続きをしに行った。

 僕は会場の席に座って、コンテストの開始を待つ。

「秀さんとは、どこまで進んだんだい?」

「そんな事聞かないでくださいよ、金切さん」

 僕の前の席で、秀さんの彼氏の底野君と、秀さんの双子の姉の彼氏?の男が談笑していた。

 別に僕もあの会話に混ざりたいとか、そう言う事は考えていない。本当だからな?

「ただいまより、父高プール、水着美少女コンテストを開催いたします!まずはエントリーナンバー1番…」

 司会進行のお姉さんに続いて、参加者達が一人ずつ自己紹介。

「エントリーナンバー3番、彼岸優です。父高プール最高です!」

「エントリーナンバー8番、彼岸秀」

 前の二人の連れがいないと思っていたら、コンテストに参加していたのか。あれ、秀さんさっき誰が水着コンテストなんかに出るかとかいうテレパシーを送っていたはずなのに、底野君にあっさりと説得されてしまったのか、可愛いねえ。

「以上を持ちまして、全参加者のアピールタイム終了です。会場の皆様に投票用紙をお配りしますので、それにこれだ!と思った子の番号を書いて…」

 あ、あれ?神音は?神音出てきてないぞ?

「ふ…ふふふ…」

「うおっ!?」

 気が付けば、僕の隣には神音が座っていた。もう死にかけ状態で、目が虚ろ。

「ど、どうしたんだ神音、何があったんだ」

 ここまで元気のない神音は始めて見る、心配になった僕は神音をゆさぶる。



「事前審査で落とされた」

 神音はぽつりとそう言うと、虚ろな表情のまま、涙を流し始めた。

 事前審査?つまり、神音は門前払いを食らったってことか?

 酷い、酷過ぎる。確かに神音は胸はないし、秀さんのような子に比べたら美少女じゃないかもしれないけど、だからって門前払いするなんて。

「神音…元気出せよ、クナイのBDなら、僕もお金出してやるからさ、買いに行こうぜ」

「同情はよしてくれよ、アタシは水着美少女コンテストに出ることすら叶わない、そんな女なんだよ!う、う、うわああああん」

 神音は僕にすがりついて泣き出した。何事かと、前の二人とはじめとする周囲の人間の視線を集めてしまう。僕はそそくさと神音の手をひいてその場から逃げだして、ウォータースライダーの設備の裏側へと連れて行く。

「ここなら思いきり泣いても大丈夫だよ」

「うっ、うっ、えぐ、ええええええん」

 こういう時は、泣き止むまで泣かせてやった方が良い。人目を気にせず、数分間思い切り泣く神音。僕はそんな神音の頭を撫でながら見守る。

「二人とも、一体何があったの?」

 キツネさんが僕達の姿を見つけたのか駆けつけてきた。

「キツネさん、それがどうも神音のやつ、コンテストに参加しようとしたら門前払いされてしまったみたいなんですよ」

「まあ酷い!神音ちゃんこんなに可愛いのに」

 怒りを露にするキツネさん。

「企画者のおっさん達が、アタシを見るなりプッて笑って、このコンテストは水着美少女コンテストだよ?とか言ってきて、そりゃあさ、アタシだって美少女じゃないとは思ってるよ。参加したのだって商品欲しさだよ。だからって、だからって、うう、うっ、うっ」

 神音は悔しそうに咽び泣く。酷過ぎる。断るなら断るで、もっと言い方ってものがあるっていうのに。

「キツネさん、ちょっとトイレ行ってくるんで、神音頼みます。それと神音、さっき神音が貰ったボール、貰っていいかな」

「えぐっ、うん、やるよ」

 神音からボールを受け取ると、僕は水着コンテストの会場へ。既にコンテストは終了していたようで椅子やセット片づけられており、近くにある小屋の中から企画者と見られるおっさん達の下品な笑い声が聞こえる。

「いやー、それにしても今年はレベルが低かったですな」

「それは参加者に失礼ってもんでしょう、ははは」

「特に自信満々に参加しに来た子、あれは身の程を知れってもんですな…おや、ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ?」



「くたばれ」

「「「ぎゃああああああああああ!」」」

 小屋に入った僕は、サングラスも眼帯も外して主催者共に天罰を与える。近くにいた人も巻き添えをある程度受けたかもしれないが、神音のために我慢してほしい。

 その後僕は、秀さんの姿を探す。自動販売機の近くで彼氏と一緒にジュースを飲んでいた。その手にはコンテストの商品である、クナイのBD。

「いやー秀さん惜しかったね、絶対優勝すると思ってたんだけど」

「それよりさっき物凄い不快な感じがしたんだけど…ひぃっ!?」

 僕が二人に近づくと、怯える秀さんと不審者だと思ったのか秀さんをかばって僕を睨みつける底野君。秀さんはまだ僕の能力がトラウマらしい。さっきのでぶりかえしてしまったのだったら、ごめんよ。お詫びと言ってはなんだけど、僕はボールを秀さんに手渡す。

「秀さん、突然だけどこの前山田選手の400号ホームランボールと、そのBD、交換してくれないかな?」

「え?ほ、本当に?いいの?」

 秀さんにとってはこのボールの方が余程欲しいだろう、無邪気な少女のように喜んでBDを手渡す。それじゃあ邪魔して悪かったね、と僕はその場を後にして、神音の元へ。



「ただいま神音、落ち着いた?」

「…うん」

 神音とキツネさんの元へ戻ると、神音は泣き止んだようでこちらに精一杯の笑みを浮かべる。

「はいこれ」

 僕は神音に、先ほど手に入れたクナイのBDを手渡す。

「え…?な、何でお前がこれを」

 目を丸くする神音。秀さんが都合よくテレパシーでクナイのBDより野球グッズが欲しかったなあ…と伝えてきたのは本当に幸運だった。

「ちょっと飛び入りで女装してコンテストに参加して貰って来たんだよ」

「え、本当なの?写真とか残ってない?」

 冗談に決まっているのに、真に受けたキツネさんが反応する。空気読んでください。

「へ、へへへ…ありがと、眼帯。さて、考えてみりゃ今日全然泳げてなかったな。眼帯、店長、泳ぎに行きましょうぜ。アタシこのBDをロッカーに入れてきますから流れるプールのとこで待っててください!」

 神音は元気よく笑ってロッカーへ走り出す。やっぱり神音は元気が一番だね。

「これにて一件落着ですね。さて、僕達も泳ぎに行きましょう、キツネさん」

 敵討ちもできたし、秀さんはホームランボール、神音はBDを手に入れて、これ以上ないってくらいにハッピーエンドだ。満足そうに僕は流れるプールへ向かいだす。



「女装…見たかったわ」

 キツネさん、まだそれ引っ張るんですか?何物欲しげに僕を見てるんですか?しませんよ?




 ◆ ◆ ◆ ◆


「大分水の中で息を止められるようになったね」

「ああ、優のおかげだよ」

 私は今日一日、プールで金切君の水泳の特訓につきあった。

 途中で水着美少女コンテストというのがあったので、参加してみろよと金切君に言われたので私は参加。まさか秀まで参加するとは思わなかったが、3位になって商品の電気ケトルをゲット。微妙。

 特訓の甲斐あって、金切君は大分水に慣れたようだ。

「それじゃ、そろそろ泳ぎの練習した方がいいかな、まずはバタ足あたり」

 水に慣れただけでは泳げない、泳ぎの練習をしなければ。

 金切君の手をとって、バタ足の練習。私の目の前で息継ぎをするために顔をあげる金切君。

 うーん、想像しただけで涎が出るね。

 ちょっと子供用プールでは深さ的に泳ぎづらいので、ちょっと大きなプールへ。

「それじゃ、頑張って!」

 金切君の手を掴む。金切君は水にもぐり、横になって足をパシャパシャと動かす。

 そして数秒ほどすると顔をあげて息継ぎ。その度に、私と目が合って、私は恥ずかしくなって目をそらしてしまう。

「手、離すね」

 本当はずっと手をつないでいたかったけど、そういうわけにもいかないだろう。私が手を離すと、金切君はすいすいとバタ足で全身し始め、やがてプールの壁へ到達した。

「すごいすごい!金切君!バタ足完璧じゃない!」

「優の教え方がうまいんだよ」

 プールからあがって、金切君とハイタッチ。うんうん、これで明日の水泳の授業は、バタ足ながらもちゃんと中級コースに行けるんじゃないだろうか。もともと運動神経抜群だし。

「…金切君?」

 ふと、金切君から異様なオーラを感じ取った私は金切君の顔を確認する。それは先月、秀や小田君のチームに野球で負けた時に見せた顔だ。一体何が原因かと金切君の目線の先を辿る。

「小田君ホント泳ぐのうまいねー」

「い、いえ!稲妻さんも、人魚みたいで素晴らしいです!」

 そこには、ヒナと小田君が楽しそうにプールで遊んでいた。

「あいつらも、来てたんだな」

「そ、そうだね!何だか二人とも、あっさりと仲良くなってるし、もう私達の手助けいらないかもね!」

 私が呼んだのではなく、あの二人は自然とデートに来たということにしておく。

 金切君の表情は、何だかすごく不機嫌そうだった。何で?

「さて、そろそろ遅いし帰ろうぜ。今日は俺のために悪かったな、飯おごってやるよ」

「え、うん」

 金切君はいつもの爽やかそうな表情に戻って私に微笑むが、その内面にはドス黒い何かがあるような気がして私は怖かった。本当は時間いっぱいまで金切君とプールで遊びたかったけど、金切君が怖くて逆らうことができなかった。水着から私服に着替えた私は、金切君と一緒にプールを出て、近くにあるパスタ屋でご飯を奢ってもらった。金切君と一緒にディナーだし、パスタはすごく美味しかったのに、私はいまいち嬉しくない。金切君が不機嫌そうだったから。



 その後電車に乗って最寄の駅へ行き、家の前で金切君と別れてドアを開け中へ。

 道中ずっと金切君は不機嫌そうだったが、それを必死に隠して私に笑いかけているようで、それが逆に私は心配だ。

「ただいま」

 とはいえ、私は私にできることをやるのみ。明日の水泳の授業、きっと金切君は中級者レベルにあがるだろうしそこでポイントを稼がなきゃ。

 リビングでは、秀が嬉しそうに今日の戦利品である野球関連のグッズを磨いていた。

「ところで秀、あんた怪忍クナイのBD貰ってたわよね、あれ見たいから貸して」

「あれならもう他人にやった」

 がびーん。見たかったのに。

「それにしても金切君、何で泳ぎが苦手なんだろ。水にトラウマがあるみたいだけど、どこかで溺れたのかなぁ」

 冷蔵庫から牛乳を取り出して飲みながら私がぼやくと、

「…は?糞姉、本気で言ってんのか?」

 秀は私を信じられないといった目で見る。

「え、秀、金切君が水苦手になった理由知ってるの?」

「いや、忘れた。糞姉は覚えているもんだと思っていたからな。ただ、本人には聞かない方がいいと思うぞ」

 意味深な事を言って、秀は自分の部屋へと去る。

 うーん、金切君何で水が苦手になったんだろう、私と関係あるのかな?


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