6月16日(土) 十里なぎさ、スクール水着を着る
6月16日、土曜日。
今日は放課後、俺、十里なぎさの家でさなぎと要さんと一緒に水泳をする予定だった。
しかし、
「あ、お兄ちゃん?俺六月病で休むから。気を利かせてやったんだから頑張れよ」
登校中に携帯電話が鳴ったかと思うと、妹がやたらと元気な声で病欠を伝える。
サボりたいだけじゃねーかと呆れながら学校へ向かうと、正門の所に要さんが。
「あ、なぎさちゃん。さなぎちゃんが、何だか物凄い苦しそうに電話かけてきて、病気だから休むって。心配ですね…」
「あー、うん。そうだね…それで、今日はどうする?さなぎはいなくなっちゃったけど」
一年生の廊下まで二人で歩く。恐らくさなぎは俺と要さんを二人きりにさせようとしたのだろうけど、要さんは俺と二人きりは嫌だろうし、無理強いするつもりなんてない。
「うーん、なぎさちゃんと二人っきりですか…まあスクール水着見たいですし泳ぎましょう」
俺と二人きりになることよりも俺のスクール水着姿が見れない方が嫌だなんて、女の子の気持ちはよくわからない。
「それじゃ、放課後に迎えに行くよ」
4組の教室で彼女と別れ、俺も5組の教室へ入って授業を受ける。
放課後になり彼女を迎えに行くためカバンを持って教室を出ると、丁度面倒くさそうな顔をして隣の教室から出てくる要さんと鉢合わせ。
「あ、私今日は一人で花壇付近の掃除しないといけないんですよ、手伝ってください」
「はいはい」
頼まれたら断れない性格なので、要さんと一緒に花壇へ向かう。要さんくらい可愛ければ、クラスの男共が率先して手伝うと思っていたがそうでもないようだ。
「あ、また花壇荒らされてます。酷いですね、誰がやったんでしょう?なぎさちゃんですか?」
花壇に植えられていた花が数本、無残な姿になっていた。掃除が大変そうだ。
「多分、キツネじゃないかな」
2週間前に狐の妖怪がここで花を食べていたところさなぎに追い回されるという事件があった。
どうやら懲りずに花を食べているらしい、今度あったら説教しておこう。
「動物ならしょうがないですね。花って美味しいんでしょうか?」
要さんは動物なら仕方がないと納得したが、あれは動物なのか人間なのか。
「俺も昔はつつじの蜜を吸ってたよ」
つつじの蜜は甘くておいしい。小学校の頃は帰り道にさなぎとそこらじゅうのつつじを吸いまくったもんだ。
「え、気持ち悪いですね」
男が花の蜜を吸うという絵柄は要さん的にはNGらしく顔をしかめる。
「まだ俺が小さくて無邪気な頃の話だよ」
「なぎさちゃん今でも小さいから、なぎさちゃんの小さい頃のイメージがそのまま今のなぎさちゃんなんですよね…なぎさちゃんみたいな小学生いたらドン引きです」
要さんに酷い事を言われながらも掃除をしていると、近くの茂みからキツネがひょっこりと顔を出し、俺達の姿を確認すると撤退して行った。また花壇を荒らすつもりだったのか。
掃除を終えて、要さんを連れて学校を出て俺の家へ。
家の中に入って大体5分くらいでプールにつく。更衣室で要さんと別れた俺は、服を脱いで、昨日買った誰かのスクール水着に着替える。ああ、ものすごく恥ずかしい。でも、男の海パンよりも、スクール水着の方が露出は低いんだよな…と一瞬考えてしまうが、だからといってスクール水着を着て恥ずかしくないわけではない。鏡の前で無駄に似合った自分のスクール水着姿を見てため息を漏らす。さて、勇気を出して彼女にこの姿を見せに行くか。
更衣室を出てプールサイドで準備体操をしていると、遅れて要さんがやってきた。
「お待たせしまし…う…ふふふふ…あははははは、何でそんなにスクール水着が似合っているんですか、反則ですよ、あはははははは、スネ毛剃ってないのが、逆に、おかしくて」
要さんは俺の姿を見るなりキャラ崩壊して大爆笑。そこまで笑わなくてもいいじゃないか…
そしては俺はというと、要さんの姿を見るなり息子が反応しそうになる。
先月のオリエンテーションの時のぴちぴちの水着も素晴らしかったが、スクール水着の魔力はすごい。子供っぽさを演出するスクール水着に、はちきれんばかりのメロンがアクセントを加えて、それはそれはもうすごいことになっている。
「それにしても広いプールですね、学校のプールより大きいんじゃないんですか?」
学校のプールは25mだが、家のプールは50m。本格的なプールだ。
「どんなに設備が良くても使わなかったら意味がないよ。だからじゃんじゃん使ってくれ」
昨日一晩かけて掃除して水を入れたのだ、ばっちり要さんに楽しんでもらわないと頑張った甲斐がない。
「それじゃ早速…って何ですかこれ、水がぬるいですよ?」
「温水プールだよ、知らないの?」
ちょっと設備のいい学校だったら、プールは屋外ではなく屋内にあって温水プールとなっていることも多い。残念ながらウチの学校はプールにお金をかけていないようで、水泳部は冬は地獄だと言っていた。
「そんなものがあるんですか…温泉みたい、これだったら一年中泳げますね」
「ま、泳がないけどね」
俺も要さん同様にプールに入る。スクール水着をつけて水の中に入った感触が新鮮だ。
「ところで、要さんは泳げるの?」
「…浮くだけなら」
要さんは水の上に寝っころがる。巨乳の人は浮きやすいって本当だったのか。
「何だかラッコみたいだね」
水泳をしている女の子を褒めるには人魚みたいだねというのが妥当なのだけど、ぷかぷかと水に浮かぶ彼女はラッコにしか見えない。
「失礼ですね…私だって、さなぎちゃんみたいにカッコよく泳いでみせます」
要さんはプールの壁に足をつけて勢いよく泳ぎだすも、
「あ、あれ?前に進まない」
バタ足をしようとするもすぐに犬かきになり、途中で足をついてしまう。
「しょうがないな、教えてあげるよ」
「うう…なぎさちゃんに泳ぎを教わるなんて屈辱です…」
とりあえず、バタ足の練習をしよう。要さんの手を掴んで、バタ足と息継ぎの練習。
要さんの手、柔らかくて気持ちいいな。
息継ぎで顔をあげる度に、俺の目の前に要さんの顔が。どきどきするな。要さんが息継ぎをした瞬間、要さんの息が俺にかかる。水泳って素晴らしいね。
「それじゃ、そろそろ手を離すよ」
そろそろ一人でも泳げるだろうと手を離して見守る。要さんはそのままバタ足ですいすいと泳ぎ、壁までたどり着く。
「…すごい!すごいですよ!なぎさちゃん水泳のインストラクターの素質ありますよ!」
要さんは目をキラキラと輝かせてこちらまで泳いで戻り、なんと俺に抱きついてきた。
「な、要さん!?」
要さんのメロンの感触が水の中で薄いが、それでも俺を真っ赤にさせて息子を反応させるのには十分だ。反応したそれが要さんのふとともに当たり、こすりつけるような形に。要さんは我に返り、顔を真っ赤にしてばっと離れる。
「ご、ごめんなさい、なぎさちゃんスクール水着だったから、女の子と勘違いして」
そういう問題なのだろうか。不幸中の幸いか、俺のそれが要さんのふとももに当たっていることは気づいていないようだ。
その後は要さんが楽しそうに泳ぐのを見ながら水中ウォーキング。いつのまにかクロールで泳げるようになっていた要さんの脇がとても扇情的だった。
「ふー…たっぷり泳げました、これで痩せますかね?」
プールからあがって着替え、客間で要さんにジュースを出す。3時間くらい泳いで、要さんは満足そうだ。こくこくとスポーツドリンクを飲んでいるのが愛らしい。ふわふわとしたいつもの髪もいいが、濡れた髪というのも乙なものである。
「痩せたかったの?」
「そりゃあ女の子ですから。…ここだけの話、最近なぎさちゃんがお菓子ばっかり私に食べさせるから、少し太ったんですよね。なぎさちゃんのせいですよ」
さなぎによれば要さんは元から間食が多いらしいが。と言っても要さんは一部を除いて太っているようには見えない。女の子が気にする程、男は気にしないということだろう。
「さなぎも俺もあんまり太らない体質なんだよなあ。さなぎなんてあんだけ食ってんのに身長の割には体重が軽すぎる」
今年のさなぎの身体測定の結果を見ると、さなぎは体重が45しかなかった。身長が170を越えているのに痩せすぎだ。スタイルがいいと言えば聞こえはいいが、兄としてはもう少し健康的な体になって欲しい。
「なぎさちゃんは、体重いくつなんですか?」
「俺?40だよ」
さなぎより軽いが、身長も小学校高学年くらいしかないのだから仕方がない。
要さんはそれを聞いて、目を虚ろにして不気味に笑う。
「…ふ、ふふふ…そうですかそうですか、なぎさちゃん私より軽いんですか…ふふふ…」
「要さん何キロなの?」
「言うわけないじゃないですか、変態!」
怒って飲み終えたスポーツドリンクのペットボトルをこちらに投げてくる。流石に女の子に体重聞くのはNGだよね、なぎさ反省。でも要さんは胸が大きいからその分体重が増えるのは仕方がないんじゃないだろうか、あれだけで2、3キロはありそうだ。
「ごめんごめん。で、来週もまた水泳の授業休むの?」
「うう…」
これ以上女の子に体重の話はしない方がいい、と話題を変えてみる。要さんはうなだれる。
「恥ずかしいとか、そんな理由で授業休むのは私も良くないと思ってるんですけど、やっぱり恥ずかしいんですよ。今日だって、スクール水着のなぎさちゃんだったからほとんど女の子として認識できましたけど、あれがたくさんの男に見られると思うと…私一人だけ恥ずかしい思いをするのは忍びないので、なぎさちゃんもスクール水着で授業に出て恥ずかしい思いしてくれませんか?」
「断る」
そりゃあ俺がスクール水着で授業に出れば要さんへの注目なんて吹っ飛ぶかもしれないが、そこまで俺は我が身を犠牲にできん。
あ、スクール水着姿のなぎさちゃんの写真撮り忘れてました、もう1回着てくださいとねだる要さんの要望をスルーしつつ、彼女を帰す。抱きつかれた余韻が少し残っており顔が赤くなる。




