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6月10日(日) 鷹有大砲、流しっこ

 6月10日、日曜日。

 秀さんが昨日自室で水着に着替えた後鏡の前でポーズを取り、『何やってんだ私は…』と虚しくなるというテレパシーを受け取った時僕は大爆笑しながらも、ああ、水泳の授業か、と僕こと鷹有大砲はアンニュイな気持ちになる。

 水泳の授業をサボりたがる女子は結構多い。男子にいやらしい目で見られたくはないだろうし、自分に自信のない子だって貧相な体を見せたくないだろう。女の子なら、あの日、という言い訳だって使える。

 しかし水泳の授業をサボりたがる男子はなかなかいないだろう。僕のように、小学校時代同じプールにいると水が汚れると迫害を受けたり、両親から受けた虐待の痣が痛々しく残っているとかそういう理由がなければ。

 そんなわけで僕は中学校から水泳の授業には一切参加していない。

 先月のプールは神音という味方がいたから耐えれたのだ。

 そして現在は日曜日の午前9時。ガラハちゃんは変身レベルがあがったのか、先週は朝食を片づけるとすぐにカラスに戻って眠り込んでしまったのが、今ではもう少し耐えられるようだ。

「ガラハちゃん」

 朝食を片づけてテレビを見ているガラハちゃん(人間)に僕は声をかける。

「何でしょうか、ご主人」



「お風呂に入りなさい」

 直後ガラハちゃんの顔がぴくつく。

「い、嫌です」

 人間状態の時は毒舌にもならず純粋に僕に従おうとするガラハちゃんだったが、今回ばかりは反抗してくる。カラスの行水ということわざもあるし、ガラハちゃんが水が苦手だという事は何となくわかっていた。しかし、しかしだ。

「人間として生活するんだったら風呂に入れ!汚い!臭い!」

「うう…」

 ガラハちゃんが人間に変身して僕の部屋で暮らす以上、この点は見過ごせない。

 いくら美少女だからって、元カラスだからって、お風呂に1週間も入ってない女の子は駄目だ。

「わ、わかりました…しかしご主人、私は水が怖いのです、一緒に入ってください」

「…へ?」

 もじもじしながら上目遣いでそう頼み込むガラハちゃん。

 女の子に一緒にお風呂に入ってくださいと頼まれるなんて、ギャルゲーでもなかなかない。

「い、いやいや、ていうかガラハちゃん、僕がまだカラスの時に洗ってあげるよって言った時何て言いました?『女の子だとわかるや否やお風呂に誘うとは畜生にも劣りますねご主人の肉欲は。獣姦は衛生上よくないですよ』って言ったよねえ?あれすごく傷ついたから一字一句覚えちゃったんだけど!?」

「あ、あれはカラスの時でしたし、そもそもお風呂に入りたくなくて暴言吐いただけですし」

 そうは言うけど、やっぱり人間の女の子と一緒にお風呂に入るってのは抵抗があるなあ。

 …そうだ、水着だ。



 僕は近所の服屋で安い女性用の水着を買い(羞恥心なんてかなぐり捨てろ!)、アパートに戻ってガラハちゃんにそれを着用させる。別室で着替えてもらっている間僕も海パン姿に。

 水着という布きれだけでも、精神衛生上大分違う。女の子の水着ならこの間神音のを見ているしね、と思ったが…

「こ、この服、何だか窮屈ですね…」

 別室で着替えていたガラハちゃんが水着姿をお披露目する。ガラハちゃんは着やせするタイプだったようで僕が目測で測ったスリーサイズは違ったようだ。。

 そこそこ大きな膨らみが僕の顔を赤くする。神音の時に全然ドキドキしなかったのは、神音があまりにも貧相な体をしていて女として見ていなかったからなのだろうか。ごめんよ神音。

「に、似合ってるよ、ガラハちゃん」

「ありがとうございます、ご主人の刺青もカッコいいですね」

 刺青じゃなくて痣なんだけど黙っておこう。

 水着姿の僕とガラハちゃんはお風呂へ。シャワーを出すだけでガラハちゃんはビクビクと震えだしてしまう。カラスの時はツンツンしているガラハちゃんがビクビクしているのはとても可愛らしい。やはり僕はサドの素質があるのかもしれない。

 座らせてシャワーをかける。濡れて肌にへばりついたガラハちゃんの脇腹にある翼が、何だか異様に伸びた腋毛みたいだなあ、なんて思っても口にしてはいけないだろう。

 その後は石鹸をつけたタオルでごしごしとガラハちゃんの背中や足を洗ってあげたり、シャンプーで髪を洗ってあげたり。シャンプーハットなんて無かったのでそのまま洗ったが、怖かったのかガラハちゃん途中で悲鳴をあげて僕に抱きついてきた。

 むにゅっとした感触。なるべく平静を保とうと僕は神音の水着姿を思い浮かべる。うん、絶壁だ。落ち着いた。こんな事に利用してごめんよ神音。

「よし、こんなとこかな。垢も大分取れた」

 満足そうにガラハちゃんを見る。こすりすぎて肌の一部が赤くなっているが、それだけ汚れが取れたということだ。

「ありがとうございますご主人、なんだかさっぱりしました」

「それじゃ、ガラハちゃんは先に出て着替えなよ。僕はこのまま自分を洗うから」

 ガラハちゃんをお風呂の外に出そうとするが、ガラハちゃんはシャワーホースを手に取り、

「次は私がご主人を洗う番です」

 そう言って僕を椅子に座るように促してくる。

「いやいいよ、僕は自分で洗うから。ガラハちゃんと違って一人でできるから」

「私にも洗わせてください、やってみたかったんです」

「まあ、そこまで言うなら」

 促されるがまま、僕は椅子に座る。ガラハちゃんは僕がしたようにシャワーで僕を濡らした後、タオルに石鹸をつけて背中をごしごしと洗いはじめる。

 まだ慣れていないのか力を入れすぎて痛かったりするが、そこは許容しよう。

 ガラハちゃんが後ろから手を伸ばし、僕のお腹の辺りを洗い出す。

 あ、当たってる、当たってるって。当ててんの?見る見るうちに僕の顔が真っ赤になり、下半身に自然と力が入る。

「どうかしまし…ひゃ、ご、ご主人」

 ガラハちゃんも顔を赤くする。視線の先は僕の海パン。生理現象とはいえ、女の子にこういうところを見られるのは最高に恥ずかしい。これがマゾなら逆に興奮するのだろうけど、僕は逆に屈辱的な何かを感じた。

「しょ、しょうがないんだよ、こればかりは!」

 女にはわかってもらえないかもしれない、だがしょうがないんだ。

「わ、わかってます、そ、その、大きいですね」

 だからそういう台詞が余計に僕を悩ませるんだってばー!



「お、終わりました。すみません、下手くそで」

 その後シャンプーで髪も洗ってもらい、無事に洗いっこは終了。

「い、いや上手だったよ、ありがとう。それじゃ、今度こそ先に出て着替えてよ」

「それなんですが、そろそろ、限…界…」

 ガラハちゃんが煙に包まれ、お風呂の床にのぼせたガラハちゃんと、脱げた水着が散らばった。

 僕はお風呂から出て、ガラハちゃんの体をタオルで拭いた後、寝かせてあげる。

 しかし、ガラハちゃんって考えてみれば鳥の時はいつも裸だよなぁ…

 ガラハちゃんの水着を握りしめながら、そんな事を考えてしまう。こんな思春期の男子にありがちな事を妄想するとは、やはり僕は人間の男なのだろう。少し安心した。


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