6月5日(火) 大雨警報が出る
6月5日、火曜日。
雨の日は、自然と早く起きてしまう。糞姉は逆に雨の日はなかなか起きないらしいが。
そんなわけで私、彼岸秀が目が覚めた時時計はまだ5時前だった。
昨日よりも雨が酷くなったようで、雷も鳴っている。
つけっぱなしのパソコンで天気予報を確認すると、大雨警報が出ていた。
確かうちの学校は6時半の時点で警報があると休みになったはずだ。
雨の音がうるさくて二度寝する気にならない。軽くシャワーを浴びた後、ネットゲーム『聖トロール学園』にログインする。
『おはよう、秀さん』
すでに底野正念がログインしてたようで、ウィスパーしてくる。
『おはよう。この分だと学校は休みかしらね』
『今日は2時にベッドに入ったんだけどさ、雨がうるさくて眠れなくて、結局徹夜中なんだよね。だから学校が休みだと嬉しいな』
『馬鹿ね』
しばらく二人で狩りをして、6時半になった。私は天気予報のページを確認する。大雨警報だけでなく暴風警報も出ていた。倍満ね。
私がリビングに降りると、母親が朝食とお弁当を作っていた。
ニュースをつけて天気予報を見ながら、連絡網の電話を待つ。
プルルルル、と電話が鳴る。私は受話器を取った。
「もしもし、彼岸ですが」
「もしもーし、その声は妹さんかな?優のクラスメイトの稲妻です、今日は警報出てるから学校はお休みですラッキー、優はまだ寝てるのかな?」
「ええ」
「ほいほい、それじゃあ私が代わりに優の次の人に連絡しておくよ、じゃーねー」
電話が切れる。これで1組の方の連絡網は終わったが、私のクラスの方が残っている。
連絡網のプリントを確認する。私の前の人は…げ。
すぐに電話が鳴った。私は嫌々受話器を取る。
「もしもし、彼岸ですが」
「おはよう秀さん。警報で学校は休みだよ。次の人は…三田だね」
「私あの人苦手なのよ、代わりに連絡網回しといて」
「しょうがないなぁ…」
ガチャ、と受話器を置いて部屋に戻ろうとするが、一応親に伝えておくか。
「あの、今日は学校休みになったんで、お弁当はいいです」
自分から母親に話しかけるのは久々だ。
部屋に戻った後、再び底野とネトゲーに興じる。
「いってきまーす」
糞姉が家を出たようだ。そういえば学校が休みだと連絡するのを忘れてたな。
「優、今日は警報で学校が休みだぞ。連絡網来なかったのか?」
「え?え?そうなの?あはは…ごめんね、そうとは知らずにチャイム鳴らしちゃって」
家の前で繰り広げられるそんな会話を聞きながら、ちょっと顔がにやけてしまう。
『それにしても平日のこの時間にネトゲーって、新鮮だね』
午前10時、底野正念がそんな事を言う。
確かに普段する事のない時間帯だ。全体的に人は少ないが、廃人が多いのか平均的なキャラのレベルは高い。
『おっ、やってるな』
『おはようございます』
『ふはは!学校が休みでも部活はやるってことだな!』
十里なぎさ、要桃子、稲船さなぎがログインしてくる。暇人ね、あなた達も。
その後は5人で効率的に戦闘や生産を楽しんでいたが、
『あの、すいません』
街で一人のPC…愛パッチホークに声をかけられる。さっきキャラを作ったのかレベルは1だ。
『どうした少年、何の用だ』
『ついさっきこのゲーム始めたんですけど、友人もいなくて心細くて…お願いします、パーティーに入れてくれないでしょうか?』
パーティーを代表して対応する稲船さなぎに彼はそう答える。
『んー、部活の皆でわいわいやってたんだけどなぁ…まあ俺は構わないぜ、皆は?』
稲船さなぎの問いかけに皆うなずく。私も賛成だ、初心者ながらステ振りをよく考えているし、少なくとも稲船さなぎよりかは役に立つだろう。
こうして愛パッチホークがアルバイトの時間なので失礼します、と落ちるまで6人でネトゲーを楽しんだ。外を見ると、あれだけ降っていた雨はあがっており、綺麗な虹がかかっていた。
『外に綺麗な虹がかかってるわね』
『へえ、秀さんも虹が綺麗だとか思うんだ、女の子だね』
『なっ…!』
感傷的になっていることを底野正念に指摘され、パソコンの前で私は顔を赤くしてしまう。