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6月1日(金) 十里なぎさ、女装決定

 6月1日、金曜日。

 どうやら年に何回か図書委員が集まって報告やらなんやらをするらしく、今日の昼休憩に1年5組の図書委員である俺、十里なぎさはここ第3会議室へ。図書委員なんだから図書室で会議しろって?図書室は飲食禁止なんだよ、お昼休憩なんだからご飯食べながら会議もやりたいじゃん?って理由だと思うよ。

「これより図書委員会を開始します。出欠を取るので1年1組から各自名乗り出るよう」

「1年1組、花菱です」

 進行役の教師がそう言うと、1組の図書委員が名乗り出る。

 その後2組、3組の図書委員も名乗り出て、次は相方の要さんの番なのだが、

「…くー」

「…4組の要と、5組の十里です」

 この通りお休み中なので俺が代弁する。時間より少し早目に俺と要さんはここにきており、要さんは少し寝るので始まったら起こしてくださいねと言っていたのだが起こせないなあ、やっぱり。こんなに幸せそうに寝ている彼女を起こせる男がどこにいようか。

「全員いるようですね、結構。ではまずは4月、5月の本の貸し出し状況について…」

 普段鬼教師と呼ばれる先生でも要さんは起こせないようだ、まあ寝てるだけなら害は加えないし、むしろ癒しになるよね。というか起きていたら面倒くさい、というのが要さんの中身を知る者としての感想だ。

「誰が面倒くさいですって!?…あれ?ここは…って図書委員会始まってるじゃないですか!なぎさちゃん起こしてくださいって頼んだのに何で起こしてくれないんですか!…あ、ごめんなさい」

 俺の心を読んだのか要さんはパチリと目を覚まし、一人漫才をした後に恥ずかしくなってうつむいてしまう。ほらみろ面倒くさい。

 貸し出し状況とそれに応じた今後搬入する本の方向性、本の貸し出しやら図書室でのマナーについてなど、それっぽい事を話し合っていく。と言ってもほとんど先生と上級生がやってるだけで俺達下級生は見ているだけなのだが。

「大体こんな所だな。…ああ、最後に金曜日の放課後の図書委員がうるさいと言う苦情が3通も来ている。担当しているのは誰だ」

 話す話題も無くなり、やっと解放されると思っていたがどうやら最後に爆弾があったようだ。

 金曜日の放課後の図書委員、俺と要さんである。

「申し訳ありません、以後気を付けます」

 俺と要さんで漫才をしているというのもあるが、さなぎが図書室にやってきてはしゃぐという問題もある。完璧に俺の監督責任なので真摯に謝る。要さんの方を見ると、

「…すー」

 都合が悪いので寝たふりしている。何気にすごい度胸だよなぁ…

「…気を付けるように。それではこれにて解散。ちゃんと食べたゴミは片づけろよ」

 ぞろぞろと図書委員達が教室を去る。俺も自分の教室に戻ろう。

 今日は残念ながら写真販売会に参加することができなかったので、教室で友人の不動にどんな写真があったか聞くことに。

「なあ不動、何か俺好みの写真とかあったか?」

「それは知らないけれど、俺も一枚買ったぜ」

「え、まじかよ。何の写真?」

 不動はニヤニヤしながら写真を一枚財布から取り出し見せつけてくる。

「すね毛がチャームポイントの可愛い子がゴスロリ服を着た写真が出回っているらしいからプリントされたのを一枚買ってみたよ、一体誰なんだろうなぁ?くくく…ってああ!」

 不動からその写真をひったくってビリビリに破きゴミ箱へ。ふざけんな。

 多分発信源はさなぎだろう。友人の少ない要さんの携帯から友人の多いさなぎに写真が送られた結果あれよあれよと広まってしまったようだ。残りの休憩時間で出回った写真を回収しようかと考えたが、写真の人物が俺だとバレるのも恥ずかしいのでやめておこう。



 5時間目が終わり、休憩中にトイレに行こうと教室を出るとさなぎと出くわす。

「あ、お兄ちゃん。まさかあんなことになるなんてごめんなさい」

「やっぱり写真を送信しまくったのはお前か。ったく、女装趣味だと思われたらどうする?」

 ちなみにその例の服は自室の部屋に飾ってある。オフで着て鏡の前でポーズなんて決めたことはないからな、本当だぞ?

「えへへ…そんなことより桃子知らね?」

「そんなことよりってなぁ…って要さん?教室にいなかったのか?」

「そうなんだよ、5時間目中ずっといなかったんだ、お兄ちゃん今日の昼休憩に一緒にいたんだろ?」

 昼休憩には図書委員会に出ていたので、行方不明になったのはそれからか。

 委員会終わってすぐに自分の教室に戻ったから俺も要さんのその後は知らない。

 要さんの行動を推理してみる。委員会の最後に苦情が来ていると注意されて、その時に要さんは寝たふりをして…ん?

「心当たりがある、こっちだ」

 さなぎを引き連れて第3会議室に行きドアを開けると、思った通りお姫様が寝ていた。

「すー…すー…んにゃあ」

 寝たふりをしていたと思い込んでいたが実際はあの時既に寝ており、5時間目の間もずっとここで寝ていたことになる。あの場にいた人間、教師含めて誰か起こすだろうと思って放置してしまったのが不幸な出来事だった。

「幸せそうだけどいい加減起こさないとなあ」

 俺は要さんを揺さぶって起こそうとするが、さなぎに阻止される。

「待てお兄ちゃん、面白いから放置しておこう」

 悪魔のような笑みを浮かべるさなぎ。仮にも親友じゃなかったのかお前は。

 まあ確かにいつまで寝るかというのは俺も興味がある。要さんを会議室に置き去りにして、6時間目の授業を受けに教室へ戻る。



 6時間目の授業を終えて、帰りの会と掃除も終えて、いつも通り図書室へ。

 要さんの姿はない。指定席に座って宿題として出された英文の和訳をしながら図書委員の仕事を全うしていると、

「おい」

 ドスの聞いた声と殺気。この学校でこんな殺気を出す奴は彼岸妹くらいしか知らない。

「どうした彼岸妹またさなぎが何か…って、か、要さん…」

 顔をあげるとしかしてその正体は寝起きのお姫様の仁王立ち。いつもの天使のような顔はどこへやら、まるで般若だ。

「気が付いたら、会議室に一人ぼっちだったんですけど。時計見たら午後5時って表示されてるんですけど。これどういうことですかねえ?」

「お昼休憩の終わりらへんから、大体3時間くらい寝てた事になるね」

「な・る・ね・じゃ・ねー!硬い机で3時間も寝たせいで首が痛いじゃないですか!なんで放置するんですか!」

 彼岸妹やさなぎという口の悪い女とつるんでいたせいか最近要さんの口調も悪くなってきてる気がしてお兄さん複雑な気持ちだよ。

「最初は起こそうと思ったんだけど、さなぎが面白いから放置しておこうって」

「さなぎちゃんに責任押し付けるな!仮にもお兄ちゃんだったら妹をたしなめて私を起こすのが筋ってもんでしょう?」

 確かにそうかもしれないが、やはり俺がここまで責められるのは納得いかない。反撃してみるか。

「大体学校は寝るとこじゃないんだよ?それを誰かが起こしてくれるだろうしで寝るとかどうかと思うな」

「ぐっ…うっ…うう…」

 正論?を言われてしまい言葉を返せず、目に涙を浮かべはじめた。彼岸妹並に要さんも情緒不安定だなあ…とか考えている場合じゃない。要さんが騒ぐので注目を浴びてしまった(また苦情が来そうだ)上に泣かしてしまったというこの状況、ファンクラブに本当にリンチされるかもしれない。俺は図書室のカウンターの奥に要さんを連れて行く。



「ごめんごめん要さん、言い過ぎたよ、俺が悪かった。飴あげるから機嫌直して」

 珍しいので買ってみた外国のペロペロキャンディーを手渡す。要さんはそれをガリガリと噛み始め、次第に落ち着いてきたようだ。

「ガリ…ガリ…うう、私だってわかってますよ、いつも夜更かしし過ぎてる上に授業真面目に受けようとしない私が悪いんだって。でも普通の生徒は寝たら先生に怒られるじゃないですか、そうやって授業中は寝ちゃいけないって学習するじゃないですか、でも私は寝ても放置されるんですよ、酷い放置プレイですよ」

「うんうん、ごめんね、今度からは心を鬼にして要さんを起こすよ。後ペロペロキャンディーは噛まないでね、破片が下に落ちて掃除しないといけないからね、ただでさえ図書室は飲食禁止だし」

「本当に起こしてくれますか?」

 ペロペロキャンディーを持った美少女の上目遣い、更に涙目。これはヤバイ、反則すぎる。

「うん、起こすよ」

「女装してくれますか?」

「うん、女装するよ…ん?」

 さっきまで涙目だった要さんは気が付けばすごくニコニコしている。どうやら嵌められたらしい、学習しないよな男って。

「それじゃあ今度演劇部に行きましょう、きっとなぎさちゃんに似合う服がいっぱいありますよ、それまでにスネ毛はちゃんと剃ってきてくださいね。さて、仕事仕事」

 要さんは上機嫌そうに鼻歌を歌いながらカウンターの席に座り、珍しく仕事をし始めた。

 良いことだ、やっぱり要さんは笑顔が似合う。

 その対価がペロペロキャンディーと俺の女装予定だが、安いもんだよな。

「なぎさちゃーん、この書類の読み方わからないんですけど」

「はいはい、今そっちに行きますよ」

 6月のスタートとしては、上出来な結末なんじゃないか?


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