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5月31日(木) 稲船さなぎ、忍者が見えない

 5月31日、木曜日。

「今日で5月も終わりだな、6月は祝日ねーからたいぎーよなあ」

「そうだな」

 5月最終日、俺稲船さなぎと彼氏の片木黒須はいつものように一緒の電車に乗っていた。

 まあそれなりに5月は楽しかったけど、何かを忘れているような気がする。

 なあ、何を俺は忘れているんだっけ?と電車の外の忍者に問いかけるが、忍者はいない。

 なんだよ俺の妄想なんだからちゃんと毎回出てこいよ、五月病かよ。

 …五月病?

「そうだ!大事な事を忘れてた!」

「どうしたさなぎ、何を忘れていたんだ」

 俺は早速お兄ちゃんに電話をかける。電車の中で通話するなって?まあ大目に見てくれよ。

「もしもし、さなぎか。どうした?」

「お兄ちゃん、俺今日病欠するから」

「その割には元気そうだな、何の病気だ?」

「五月病」

「おい、ふざけ」ピッ、ツー、ツー、ツー。

 これでよしっと。俺は黒須に向き直って微笑む。

「というわけで学校サボろう」

「お前なぁ…」



 というわけで、二人で学校サボってやってきました市内!

「うっひょー、背徳感がたまんねーぜ!なあなあどこいく?ゲーセン?デパート?」

 駅前にいるのはサラリーマンが多い。毎日お仕事お疲れ様です。

「今まだ9時だぞ、大抵の店は開いてないって…」

「じゃあコンビニでゲーセン開くまで立ち読みしよう!」

 黒須を引っ張って近くのコンビニへ行き漫画雑誌を読む。

 知ってるか?俺達がこうやってコンビニで立ち読みすることで外にいる人に宣伝している訳だ。つまり立ち読みをしても褒められることはあれど咎められる事など有り得ん。

「お、黒須。原付買うのか?」

 黒須はどんな雑誌を読んでいるのだろうと黒須の方を見ると、何やら熱心にバイク雑誌をみていた。

「ああ、16になったら免許取ろうかと」

「いいねえ、俺も取るかな。俺の方が誕生日早いし」

 俺の誕生日は7月5日で黒須は9月6日。俺は夏休み中に免許を取る事も可能だ。

「早く一緒にツーリングしたいぜ」

「そうだな」

 黒須と一緒にツーリング。ああ、想像しただけでわくわくするな。

 …でも原付って30キロまでしか出せないんだっけ、ちょっとダサイな。

 早くバイクに乗りたいぜ。でもお兄ちゃんが反対するんだよ、原付もバイクも駄目だ、お前は絶対に事故るってしきりに言ってさあ、俺がそんな簡単に事故る女に見えるか?

 女性ファッション雑誌を手に取る。こいつらよりも俺や桃子、まあついでに彼岸秀の方が圧倒的に可愛いよな、ファッション界に進出するか?

 他に見るところは…な、高校1年生の処女率ってこんなに低いのかよ!

 くそう、やっぱり危機感を抱いちゃうなあ。

「黒須、そろそろゲーセン開くだろ。一番乗りしようぜ」

 コンビニから出て駅前のゲーセンへ。一番乗りだと思っていたが既に老人がパチンコを打っていた。定年退職して暇なのかなあ?

「お、ダンスゲーがある。見てろよ黒須、俺の華麗なステップ魅せてやるぜ」

 黒須の見守る中ダンスゲームに100円を投入し、曲を選ぶ。怪忍クナイのオープニングなんてもの収録してるのか…あれこないだ見た時妙に頭にこびりついたからこれにしよう。

「よっ、ほっ、へい!」

 リズムに合わせてテンポよくステップ。今の俺は一流ダンサーだ。

『クリアランク C』

 まあ、ギリギリだったけどな。1曲目で初見の曲選ぶんじゃなかった。

「2曲目は黒須も一緒にやろうぜ!」

 強引に黒須をステージに立たせて2曲目のポップな曲を選ぶ。

「わっ、と、と、うおっ?」

 次々と流れてくる矢印に黒須は右往左往。ははは、情けないなあ、全然踊れてないじゃないか。

『プレイヤー1 クリアランク C』

『プレイヤー2 クリアランク A』

 …あれ?何で俺の方が得点低いんだ?

「くっ…今日は調子が悪いんだ、ゾンビ倒すぞゾンビ!」

 黒須を引っ張って今度はゾンビを撃つゲームへ。

「なあさなぎ、マシンガンをライフル持ちするのはどうなんだ?」

「俺はスナイパーだからな」

 黒須のハートを狙い撃ち!あ、やべえ黒須のキャラ撃ってしまった、ごめん。



 ゲーセンでたっぷり遊んだ後、ファーストフード店でハンバーガーを食べる。

 店の中には俺達以外にも制服を着た生徒がいた。サボりって結構いるなあ。

 何と言うか学校サボる俺達ってすげえだろ?とか思ってたけど、そうでもない。

 結局俺達もそこらへんにいるやかましいチンピラとやっていることは何一つ変わらないのだろうか。気持ち大人になった気がする。大人になるという事は悲しい事。

 その後スポーツアミューズメント施設でバッティング練習してみたり、卓球してみたり、何だか一か月前同じ事をしたような気がするなあ。

「日も暮れたな、そろそろ帰るか」

 黒須がそう言うので時計を確認するともう7時だ。たっぷり遊んだなあ。

「そうだな、帰るか」

 そして俺達は最寄りの駅まで電車に揺られる。



 今日はこないだみたくラブホテルに連れて行こうとするなんて痴態は晒さない。

 俺が黒須との性行為を望んでいるのは、単に俺が性欲の強い発情期の猿のような存在だからなのだろうか、それとも大人の恋がしたいからなのだろうか。

 大人になりたくないのか、大人になりたいのか、一体どっちなんだ、俺は。

「なあ黒須、早く大人になりたいか?」

「まあ、免許とかは早く取りたいな」

「そういう意味じゃねえんだけどな」

 黒須に聞いてみるも質問の意図を理解していないようだ、まだまだだなこいつも。

 都合のいい時だけ大人扱いされたいなんて考えるのは、子供である証拠なんだろうか、それとも人間って大体そう思っているんだろうか。窓の外の忍者に問うもやはり出てこない。

 ひょっとしてあれか?あの忍者は大人になったら見えなくなる妖精か何かだったのか?

 なあ、俺は大人になったのかよ?ネバーランドにはもう行けないのかよ?教えてくれよ、ピーターパン!

「おいさなぎ、突然泣き出してどうしたんだ」

「何でもねえ、何でもねえんだよ…」

 こんな事で泣き出す俺が大人なはずがない、俺はまだまだ子供なんだ、そう自分に言い聞かせて俺は黒須にすがりつく。そのうち眠ってしまったようで、気が付いた時には俺は黒須におんぶされて自分の家まで送られたらしい。えへへ。


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