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5月29日(火) 彼岸秀、おかず交換

 5月29日、火曜日。

「それじゃあ、いってきます♪」

 私、彼岸秀が朝リビングでニュースを見ていると、糞姉がうきうきしながら家を出る。

 糞姉は恋する幼馴染、金切良平と少し疎遠状態だったが、今日の朝からまた一緒に学校にいけるらしく、それに私も協力してしまったというわけだ。

 ああ、何だか腹が立つな。倒れた金切良平なんて放っておけばよかったか。

 もういい、糞姉の事なんかしらん。机の上に置いてあるお弁当をひったくって家を出る。



「折角高校に入って良い仲間を持つことができたのに、わざわざそれを捨てよう、それから逃げようだなんて僕は絶対許さないよ。今だって腹が立って腹が立ってこの目で君を壊してしまおうかと考えているくらいだ」

 先週の水曜日に眼帯野郎に言われた言葉がフラッシュバックする。

 良い仲間を持った?私が?しかもそれから逃げている?超能力者だか知らないが、思い違いも甚だしい。

「怪忍クナイって日曜の朝の特撮が面白いんだよね、それじゃまたバイトでな」

「僕は日曜は朝まで徹ゲーしてるからなあ…それじゃ、また」

 噂をすればなんとやら、駅前で眼帯野郎と以前店にいた店員と出くわす。

 …あいつ彼女いるのかよ、何だかすごくやるせない気持ちに。

 眼帯野郎は駅へと去っていく店員を見送った後こちらに向き直り、

「まだ彼女じゃないよ。君と同じくね」

 そう言って学校へと去っていく。心を読まれてしまったようだ、他人に心の内をのぞかれるのは非常に不愉快だからやめてくれ。

「やあ、秀さんおはよう」

 今度は駅から出てきた底野正念に声をかけられる。うっとうしいやつめ。

「おはよう。もうすぐ6月ね、祝日がなくてアンニュイだわ」

「おまけに梅雨だしね、5月よりも5月病になりそうだよ」

 …何普通にウキウキと世間話してるんだこんなやつと。まだ彼氏でもなんでもないのに。

 …いやいや、まだってこれじゃ将来そうなる事を私が望んでるみたいじゃない、そんな馬鹿な。

 眼帯野郎に変な事言われたから動揺しちゃった、そうに決まってる。

 少し前を歩く眼帯野郎がくすくすと笑っているのがわかる。腹が立つ。



 学校について、底野正念はクラスの友人と仲良く喋り、私は自分の席でそれを眺める。

 仲の良い友人なんていらない、大切な人が1人いれば。…だからこれじゃ私が底野正念を大切な人だと思ってるみたいじゃない、馬鹿馬鹿しい。

 4時間目の授業が終わり、昼食の時間だ。

 底野正念は友人と机をくっつける。私は自分の机にお弁当を広げる。寂しくなどない。

「おい底野!彼岸秀!」

 突然クラスに乱入してきたのは、稲船さなぎ。やかましい女だ。

「どうしたんだい、番長」

「今日は部室で食うぞ。たまにはと思って俺もお弁当作ってみたしな。お兄ちゃんも桃子も今日は弁当だし」

「ああ、いいよ。それじゃ悪いけど俺は番長達と食べてくるよ。秀さんはどうする?」

 底野正念はこちらに笑みをふりかける。眩しい、私をそんな目で見ないでくれ。

「…」

 私は無言で教室を出て、稲船さなぎと底野正念についていく。

 そう、私は頼まれたら断れないタイプ。決して自らの意思で行動しているわけではない。

 部室へたどり着く。中には十里なぎさと要桃子が既にいた。

「ほら、私の言って通り彼岸さん来ましたよ。賭けは私の勝ちですね」

「ば、馬鹿な…」

 どうやらこの2人は私が来るか来ないかで賭けをしていたらしい。哀れにも十里なぎさのお弁当は半分以上要桃子に奪われてしまった。

「おい彼岸妹、お前のせいで俺の弁当半分になってしまったじゃないか。一緒にお弁当を食べようとするなんて、随分と丸くなったもんだなあ?お兄さん嬉しいよ」

 十里なぎさは歯ぎしりをしながら祝福してくる。本当に嬉しいのか?

「よし、それじゃあ全員揃ったことだし、いただきます!」

 稲船さなぎはそう言って手を合わせる。意外とマナーがなっていることで。

「いただきまーす。んー、他人から奪った卵焼き美味しいです」

 要桃子は十里なぎさの作ったであろうおかずを美味しそうに食べている。

「いただきます。秀さんのそれ、美味しそうだね。このコロッケと交換しようよ」

 底野正念は私のエビフライとコロッケの交換を持ちかけてきた。



「まあ、構いませんけど。…いただきます」

 たまには、こういうのもいいのかもしれない。


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