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5月27日(日) 怪忍クナイ第8話『兵糧丸で大儲けでござる!』

 5月27日、日曜日。

 俺、稲船さなぎは珍しく朝7時半に目が覚める。いつもは大体8時20分くらいなのだが。

 いい機会だ、いつも寝てて見れなかったアニメを見よう。

 確かこの間プールに行った時にヒーローショーをやっていた、怪忍クナイだったよな。

 テレビのスイッチオンっと。



 ◆ ◆ ◆


『怪忍クナイ 第8話 兵糧丸で大儲けでござる!』

 普段はどこにでもいるサラリーマン、篠部忍。しかし、彼にはもう1つの姿があった。

 それこそが、悪の秘密結社とらふぐの中間管理職である怪忍クナイである。

「あー…嫁さん欲しいでござる…」

 クナイはもうすぐ30歳。独身の暮らしに耐えきれず、恋人を作ろうとするも、彼は人の女を寝とることに異常な興奮を覚える性癖だったのだ。

 そのため毎回毎回カップルを見つけてはその女性を無理矢理恋人にしようとし、男に撃退される。隠密行動は得意だが戦いは向いていないのだ、怪忍クナイは。

 今日も彼はアパートで夕飯の兵糧丸を食べていた。

「はぁ…兵糧丸は小さい量でたくさんカロリーが取れるのはいいけど、何だかなぁ…。サバイバルするような状況だって滅多にないし。…そうだ!」

 彼は思いついた。地震などで国民の防災意識が高まっているこの時代、兵糧丸のような携帯保存食は売れるのではないか。

 彼は悪の秘密結社の科学力を駆使し、美味しくて携帯できて保存もきく、そんな兵糧丸の開発に取りかかった。理系の大学出身であった彼の研究者魂に火がついたのだ。

 初めは失敗の連続だった。

「くっ…駄目だ、これじゃコストが高すぎる!」

 彼は連日研究室にこもり、ほとんど寝ずに開発に取り組んでいた。

「キ、キー…」

 部下の戦闘員達が自分を心配してくれている、彼らの上に立つものとして、こんなに嬉しいことはない。

「へへ…完成したら、お前らに最初に食わせてやるでござるよ、この兵糧丸をな…」

 そんな彼をこっそりと見守る姿があった。秘密結社総帥の娘でくのいち怪人のシュリだ。

「…かっこいいとこ、あるじゃん」

 知らず知らずのうちにクナイにはフラグが立ちはじめていたのだが、それが活かされるのはまた別のお話。

 そしてついに、彼は完成させた。完璧な兵糧丸を。

 彼の開発した兵糧丸『すいとん』はまたたく間に大ヒット。

 悪の秘密結社としても資金が入り、クナイは昇進が決まった。

 後半へ続く!



 怪忍クナイの愛用している、『どろろん手裏剣』と、『ござるクナイ』、セットでなんと1200円!お求めはお近くのおもちゃ屋で!



 後半スタート!

 一気に大量のお金を手に入れたクナイ。あまり贅沢をしない彼であったが、これで本来の目的を果たすことができると小躍りする。その目的とは…

「いやー、札束を見せびらかしたらほいほいついてきたでござるよ、ちょろいもんでござるな!これでようやく拙者にも春が訪れたでござる!」

 彼は居酒屋で一緒に飲んでいたシュリに楽しそうに語る。彼の本来の目的は不倫であった。

 自らが勤めている会社の同僚、サチコを前々からいいなと思っていたが、彼女は既婚者。

 そこで金の力で強引に不倫して寝とろうとしたわけだ。

「…ふぅん」

 シュリはものすごく機嫌が悪そうだが、クナイは全く気付いていない。

「おっと、そろそろ彼女と台場でデートでござる。お金はここに置いていくでござるよ」

 ウキウキで居酒屋を去るクナイ。シュリはクナイが去った後、電話をかける。

「もしもし、サチコさんの旦那さんですか?…ええ、はい。実はサチコさん、同じ会社に勤めている篠部忍という方と不倫を…はい、お気の毒ですが…今日台場でデートだそうで、はい」

 くのいち怪人である彼女にとっては、他人の電話番号など簡単にわかるのだ。



「いいのかい、旦那さんをほおっておいて」

「いいのよ、あんな男。稼ぎは安いし。やっぱり稼げる男って素敵よね」

 居酒屋から出た後、サチコとデートを楽しむクナイ。

「サチコ!…貴様よくもサチコを!」

 と、シュリから連絡を受けたサチコの旦那さんが乱入。

「あ、あなた!違うのよ、これは!」

 必死に弁解するサチコ。

「ああ、わかってる。その男がお前を無理矢理連れだしたんだろう、お前が不倫するなんて俺は全然信じていない。貴様、よくもサチコを!」

 旦那さんはクナイに殴りかかる。

「ふっ、拙者にそんな攻撃が当たると思ってぶげあ」

 やはり戦闘は得意ではないクナイは、右ストレートをモロに受けて気絶してしまった。

 地面に横たわるクナイを無視し、男はサチコを抱きしめる。

「大丈夫か、サチコ」

「ああ、あなた、ごめんなさい、私本当に不倫していたの。あなたの稼ぎがあまり良くないからって、気の迷いで…私最低よね」

「…いや、サチコは悪くない。俺、頑張ってもっと働いてもっと稼ぐからさ」

「あなた…!」

 こうして二人の愛は、より強くなった。



 数日後、不倫がばれたクナイは自らの会社をクビになってしまう。

「酷いでござる、酷いでござる…!不倫したのはサチコもなのに、何で拙者だけがクビなんてござるか!納得いかないでござる!稼いだお金もほとんどサチコに貢いでしまって手元にないし、昇格もうやむやになるし、とらふぐの中間管理職だけじゃ暮らしていけないでござるよ!」

 居酒屋でクナイは男泣き。間接的に彼をクビにしてしまったシュリは流石に罪悪感を感じてしまったようだ。

「ふーん、だったら永久就職でもしちゃえば?そ、その、例えば総帥の娘と結婚して、とらふぐを継ぐとかさあ」

「は?何訳の分からない事言ってるでござるか?」

「な、なんでもないよ!べーだ」

 折角人が勇気出したのに、この鈍感…とボソッとシュリは呟いたが、クナイの耳には届いていないようだ。続く。



『クナイでござる。何とか新しい働き口を見つけたでござる。どうやらホストクラブというところらしいでござるよ?あ、あれ?何でシュリはそんなに怒っているでござるか?次回怪忍クナイ第9話 シュリを接待するでござる! 来週も見て欲しいでござる!』



 ◆ ◆ ◆


「……」

 なんだこれ。


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