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5月25日(金) 要桃子、十里家へ。

 5月25日、金曜日。

 おはようございます。要桃子です。

 もう5月も終わりなんですね、早いものです。

 さて、学校に行きましょう。そうだ、今日はメガネをかけていこう。

 なぎさちゃんから貰った赤いメガネをかけて、鏡の前でターンする。

 私は自分の容姿に自信を持っている、鏡の中の私は天使のようだ。

 勿論ターンに失敗して足をくじくなんて事はしない。目は回ったけど。

 家を出て、自転車で駅に行き、電車に乗って、学校近くの駅で降りて。

「うっす桃子」

 私を待ってくれたさなぎちゃんと合流し、焔崎へ。

 最近授業に全然ついていけない。ついていけないので眠たくなってしまい寝てしまう。

 教師は私を起こしてくれない。そのせいで更に授業についていけない。

 とんでもない悪循環だ。困ったなあ…

 まあ私なら勉強できなくても何とかなるんじゃないだろうか、ポジティブシンキングだ。



「今日はメガネなんだね」

 放課後、図書委員の仕事のために図書室に行くと、既になぎさちゃんがいた。

「メガネフェチのなぎさちゃんにはたまらないでしょう?…ってあれ?」

 気が付いたらなぎさちゃんがいない。図書室内を見渡すと、背の低い女子生徒が高い所にある本を取れないということで脚立を持っていき手伝っていた。仕事熱心なことで。

 …嫉妬なんてするわけないじゃないですか。

 手伝いを終えてなぎさちゃんがカウンターに戻ってきます。

「今日もご機嫌斜めだね要さんは。アメ食べる?」

 いつも常備しているのかポケットからアメを取り出して寄越してきます。

「そんなもので女の子の機嫌取れるなんて思わない事ですね、ガリ、ガリ…って苦い!何ですかこの飴!」

「ハッカだよ」

「女の子にハッカのアメ食べさせるなんて嫌がらせですか!?」

 口がスースーするじゃないですか。

「図書室では静かにしてください」

 図書室で試験勉強をしていたであろう上級生の人に怒られてしまいました。

 私図書委員なのに。それもこれもなぎさちゃんのせいです。



 静かにしろと怒られたので静かに本でも読むことにします。

 主人公は貧乏な女子高生。ある時クラスにお金持ちの男が転校してきます。

 金持ちという理由で目の色を変えて接するクラスの女子とは対照的に、主人公は全くなびきません。

 ある時主人公が不良にからまれ、それをその男に助けられて惚れてしまいます。

 男の内面に惚れたとはいえ、相手はお金持ちで自分は貧乏人。

 お金欲しさに近づくような賎しい女としか周りも男も見てくれないだろう、と主人公は恋心をあきらめてしまいます。

 ある日その男の家がトラブルに巻き込まれ、一転して男はお金持ちではなくなります。

 露骨に態度を変えるクラスメイトの女子。

 しかし主人公だけは内心喜んでいました、これでやっと自分の気持ちを伝えることができると。

 男を放課後の屋上に呼び出して、告白する決意を固めた所で物語は終わり。

 こういうその後の展開を読者に任せるのは嫌いじゃないです。

 ただ、1つ気に食わないことが。

「作者は男性なんでしょうけど、女性を馬鹿にしてますよね。お金持ちってだけで目の色変えて接するようなプライドのかけらもない女ばかりだと思っているんでしょうか?」

 横で貸し出した本の管理をしているなぎさちゃんに同意を求めます。

「突然そんな事を言われても意味がわからないけど、どうだろうね。案外そういう女ばっかりなんじゃないの?」

「なぎさちゃん男尊女卑ですか?ドン引きですね」

 これだから男は。

 そんな感じで今日も図書委員の仕事おしまいです。今日も私は何もしていない気がしますけどいいんです、私が図書室にいることで癒しを皆さんに与えているんです。

 …最近私の性格が嫌な女になってきている気がする、気を付けよう。

「おっすお兄ちゃんに桃子。なあなあ、今日お兄ちゃんの家に行っていい?」

 戸締りなどの確認をしていると、さなぎちゃんがやってきました。

「まあ、構わんけど」

「いやー、元我が家が楽しみだぜ。桃子も行こうぜ?」

 なぎさちゃんの家ねえ…

「いいですよ、どんなダンボールハウスか気になりますし」

 そんなわけで、放課後になぎさちゃんのお家に行くことになりました。



 学校を出て、駅への道とは逆方向に歩いて10分。

 生意気にも高級住宅街にあるというなぎさちゃんの家にやってきました。…家?

「な…ふざけてるんですか?」

 思わず思った事が口に出てしまいました。

「ふざけてはないけど…」

「これが家?どう見てもお城じゃないですか?ダンボールハウスじゃなかったんですか?」

 敷地だけで近所の大学くらいあるんじゃないかと思うくらい広そうです。

「あれ?何か家が小さくなってねえか?」

「そりゃお前が大きくなったからそう見えるだけだろ、3年前と全く変わってねえよ」

「なるほどなぁ…お兄ちゃん一人で住んでんの?」

「ま、そんなとこだな…いや」

 なぎさちゃんがドアを開けようと鍵を差し込むと、どうやら鍵は開いていたようです。

「どうやら今日は親父がいるみたいだ」

 家の中に入ります。外観も豪華だったけど内装も豪華です。

 なぎさちゃんについて行くと、客室らしきところに到着しました。

 そこには一人の男性が座っています。

「おいこら親父、いい加減家に入るときは鍵をかけてくれよ」

 そうやらさなぎちゃんとなぎさちゃんのお父さんのようです。なぎさちゃんに似てます。

「なぎさか。女性を二人連れ込むとはお前もえらくなったものだな」

「おいおい、自分の娘も気づかないのかよ。まあ俺も気づかなかったけどさ」

「…さなぎか。まあゆっくりしていけ」

 おじさんは私を見てそう言いました。どうやら人違いしているみたいです。

「違うわ!こっちの金髪がさなぎだ!」

「…本当にさなぎなのか?」

 なぎさちゃんに怒られて、今度はさなぎちゃんを見ます。しかし信じられないようです。

 一体昔のさなぎちゃんはどんな子だったのでしょうか。

「久しぶりだぜマイダディ!焔崎の番長、稲船さなぎだ!」

「…まあ、ゆっくりしていけ」

 おじさんはポケットから胃薬を取り出して飲みました。よくなぎさちゃんもやっています、やっぱり親子って似るんですね。

「親父は無視しよう。つってもこの家特に面白いものはないんだけどな、うーん」

 客室から出て、なぎさちゃんは悩みだします。

「こんなに立派な家なのにですか?」

「立派なのは外装と内装だけだ。実用性は皆無。使ってない部屋だらけだ。ひょっとしたら誰かが隠れて住んでいるのかもな」

「なあなあお兄ちゃん、俺とお兄ちゃんの部屋行こうぜ」

「…俺の部屋には入れさせん。お前の部屋か、まあ一応当時のまま大抵残ってると思うが」

 なぎさちゃんに案内されてさなぎちゃんの部屋に辿り着きました。

 それにしても部屋に辿り着くまでに数分もかかるなんて、本当に不便ですね。

「うおー、懐かしいなあこの部屋。うわあぬいぐるみこんなに持ってたんだ」

 さなぎちゃんは久しぶりの自分の部屋に大はしゃぎ。それにしても、ぬいぐるみは一杯あるし、ファンシーな部屋です。これがさなぎちゃんの住んでいた部屋なんて信じられません。

「ほら、昔のお前のアルバムだ」

 なぎさちゃんが一冊のアルバムを持ってきました。『さなぎ&なぎさ』と書かれています。昔のさなぎちゃんとなぎさちゃんが収められているようです。アルバムの中のさなぎちゃんは今のさなぎちゃんとは完全に別人です。なんというかおどおどしていて、小動物みたいで可愛らしいですね。周りが私に向ける目もこんな感じなんでしょうか?それにしても…

「どこにもなぎさちゃんの写真ないじゃないですか」

 そう、アルバムの名前とは裏腹にさなぎちゃんの写真しかないのです。

「…両親は全然写真撮ってくれなかったからな、このアルバムの写真は全部俺が撮ったんだ。だからうつっていないし、写真もそれなりに成長した状態のしかないだろ?」

 言われてみれば小学校入学以前の写真がありません。この頃からなぎさちゃんは写真を撮る係に徹していたのでしょう。なんだか可哀想ですね。

「でもお兄ちゃんが写ってるアルバムもあったはずだぜ?他の人に撮ってもらったやつとか。探せばあるんじゃないか?」

「あ、それ見たいです。そのアルバム探しましょう」

「はぁ?俺の写真なんて見たって特に面白くもねえってのに」

 なぎさちゃんは乗り気でないみたいですが、私もさなぎちゃんもノリノリです。

 3時間くらい書庫とかを探して(それにしてもこの家広すぎです)、やっとそのアルバムを見つけました。

「…なぎさちゃん、昔から何1つ変わってないじゃないですか」

 小学4年生になったなぎさ、というタイトルの写真を見てびっくりしました。

 今のなぎさちゃんと何1つ変わっていないのです。この時既に体の成長が止まったのでしょう。

 他の写真もほとんど今のなぎさちゃんと変わらなくて、何だか笑ってしまいます。

「もういいだろ、そろそろ帰らないと終電が行っちゃうぞ。俺は明日用事があって朝早く家を出ないといけないからもう寝たいんだ、帰りな」

 時計を見ると、もう23時を回っています。アルバムを探すのに大分手間取ってしまいました。

「え、もうこんな時間ですか、このアルバム探すのにかなりかかっちゃいましたね。…なぎさちゃん、この写真もらっていいですか?」

 折角苦労して見つけたアルバムなのだ、戦果がないとやっていられない。

「俺の写真?好きにしろよ」

 私はアルバムから一枚、なぎさちゃんがピースサインをしている写真を貰っていくことにしました。

「んじゃ、俺も自分のアルバム持って帰るか。それじゃあお兄ちゃんまたな!」

「…待て。駅まで送っていく」

「意外と紳士なんですね、なぎさちゃん」

 私達3人は家を出て、駅に向かいます。

「写真と言えば」

 私は携帯電話を取り出して、フォルダに入っているとある写真をアップにし、さなぎちゃんに見せてやります。

「さなぎちゃん、これ可愛いと思いません?」

「うおっ?何だこの写真、いつ撮ったんだ?」

「先週ですよ、すごく可愛いですよね」

「何だ?猫の写真か?」

 なぎさちゃんも興味も示したのか携帯を覗き込んで、

「……」

 顔面を真っ青にします。そう、先週撮ったなぎさちゃんの女装姿です。

「桃子、送ってくれよ。待ち受けにしよう。ていうか引き延ばして部室の扉に貼ろう」

「いいですね、それ。部活のアイドルですね」

「や、やめろおおおおおおお!」

 暗い夜道、なぎさちゃんの叫び声がこだましました。



 その後駅について、さなぎちゃんと反対方向の電車に乗って、自分の家に帰ります。

「ただいまー」

「あらあら桃子、遅かったわね…あら、何か落としたわよ?」

 家に帰って両親にただいまと言っている間に、何か落としてしまったみたいで、パパがそれを拾い上げます。

「な、なんだこの男の写真は!桃子、これは誰なんだ!?」

 どうやらなぎさちゃんの写真みたいです。

「お父さんにはおしえな~い」

 私はパパから写真をひったくると、自分の部屋に戻ってそれを保管しました。


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