5月23日(水) 鷹有大砲、魔眼解放
5月23日、水曜日。
「くくく…」
「なあ眼帯、昨日の夕方からずっと突然笑ったりしてるけどどうしたんだ?」
僕、鷹有大砲は現在放課後にいつものようにバイト中。
バイト仲間の神音に心配されてしまうが、思い出し笑いが止まらないのだ。
昨日僕に騙されて本当の自分を曝け出してしまう薬を飲んだテレパシー少女秀さんは幼児化し、周りの人間に思い切り甘えていた。それがおかしくておかしくて。
「調子狂うなあ…お、客がきたみたいだぞ、これ先週来たやつじゃね?」
神音はそう言って店に来る人が映し出される魔法の水晶をのぞきこむ。
僕もそれを覗き込むと、なんとまあタイムリーなことか、秀さんだ。
「神音、僕は隠れてる。店番よろしく。僕はいないことにしといてくれ」
僕はそそくさとお店の奥へ。
「おいこら!糞詐欺師!金返せ!」
最高に機嫌が悪いのか秀さんは扉を蹴飛ばして店内に入ってくる。
「へいらっしゃい!どうした姉ちゃん、穏やかじゃないね」
「ここに眼帯つけた男がいるだろ、そいつを出せ」
「眼帯?何のことかなわかりませんね」
「出せ」
「はい、向こうにいます」
神音は最初は頼んだ通り僕を匿ってくれたが、秀さんが一睨みするとビビって速攻で僕を売りやがった。諦めて僕は秀さんの前に出る。
「やあこんにちは秀さん、どうかしたのかい?」
「てめえよくも偽物の薬売り付けやがったな」
ブチギレモードの秀さんは僕の胸倉を掴む。神音はビビって店の奥に隠れてしまう。
仕方がない、僕一人で彼女の相手をしよう。
「よかったじゃない、偽物で」
「あぁ?」
そう、本当に偽物でよかった。
「秀さん、目覚めたあとに薬が偽物だと知ってほっとしただろう?目覚めた時も周りの人が自分を嫌う事なく接してくれることに安心しただろう?これからは周りに嫌われようなんて馬鹿な事を考えるのはやめることだね」
だって彼女のテレパシーがそう伝えているのだ。
「ふざけんな、そんなわけがないだろう。私はあいつらとの縁を切りたくてあの薬を飲んだんだ。しつこく構ってくるあいつらに私も嫌気がさしていたんだ。人間に嫌われるあんたがうらやましいぜ、人間関係で悩むことなんてないしな」
「何がふざけんなだ馬鹿女。ふざけんなはこっちのセリフだ!」
「なっ!?」
自分がいかに恵まれているかわかっていないこいつにお灸をすえるため、僕は眼帯を外し、片目見開き+細目で秀さんを睨む。大体このくらいが人間が意識を保てるか保てないかの境界線だろう。僕の能力に秀さんはただただ幼児のように怯える。いつも強がっている秀さんが怯える姿が可愛いと思ってしまった僕はやはりサドなのだろうか。ついでに後方で神音がおいやめろアタシも影響受けてるんだと叫ぶが気にしない。
「もし薬が本物だったらさ、秀さんは今の僕のようになるんだよ。秀さんが孤独になろうとするのは周りに迷惑をかけたくないから、失望されて嫌われたくないからだよね。そんな秀さんが本当に僕みたいになりたいの?何だったら片目あげようか?」
勿論冗談だし片目移植したら能力も移動するのか知らないけど。
もう秀さんの精神も限界だろう、僕は再び左目に眼帯をつける。
「折角高校に入って良い仲間を持つことができたのに、わざわざそれを捨てよう、それから逃げようだなんて僕は絶対許さないよ。今だって腹が立って腹が立ってこの目で君を壊してしまおうかと考えているくらいだ」
「……」
秀さんは無言でお店を出て行った。ちょっと悪役になりすぎただろうか。
意識を保てるように調整したせいで、下手に気絶することもできず僕の能力を秀さんはただただ受け続けるということになる。この分だと明日も影響が出るかもしれない、ごめん。
「うへー…アタシももう限界なんだけど…」
巻き添えを喰らった神音がふらつきながらやってくる。悪い事をしたな。
もしあの薬が本物だったとしても、秀さんの周りの人間は秀さんを受け入れるのだろうか。
受け入れることができたなら、それは僕でもあんな恵まれた仲間を持てる可能性があるということだろう。
ま、そんな確認のために秀さんを使うわけにはいかないけどね。
「ごめんごめん神音、お詫びに今日晩御飯おごるよ」
「しょうがねえなあ、バイト終わったらジャイフルな」
僕にだって神音?という仲間がいるしね。