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5月22日(火) 彼岸秀、子供になる

 5月22日、火曜日。

『あ、レアドロップきました!これで3つ目です』

『いいなぁ桃子…俺は全然出ないぞ…』

『さなぎ、お前が狩ってるの全然別のモンスターだぞ』

 私、彼岸秀は部室でネットゲームをしていた。

 …何が部室でネットゲームをしていた、だ。私は何をやっているんだ。

 こんなくだらない馴れ合いをお前は好むのか彼岸秀?

 いい加減に気づけ、私は孤独なんだ。こいつらだって私に飽きれば捨てる。

 特に横の男、底野正念。こいつは昨日あろうことか野球で私からヒットを打ったらデートしてよとふざけた賭けを持ちかけ、全三振したのだ。口では偉そうな事を言っても、私にかける想いなどその程度だ。

 …これじゃまるで私がヒットを打ってほしかったみたいじゃない。

 ああ、もやもやする。意味が分かんない。私はどうすればいいの?

 …そうだ、先週買った薬だ。

 関わりたくない人の前で飲むと、不快なオーラを出してその人に嫌われちゃう薬。

 あの眼帯男から漂う不快オーラは本物だった。私からあのオーラが出ればこいつらも私を気味悪がり、離れていくだろう。それでいいんだ、それで。

 私が彼等を失望させることもなければ私が彼等に裏切られることもなくなる。

 私はカバンからその薬を取り出し、飲んだ。



◆ ◆ ◆


「で、どうしましょうかこのお子様は」

 なぎささんが面倒くさそうに言う。

「遊んで遊んで!」

 俺、底野正念に秀さんがしがみついて遊んでくれと催促する。

 未だに事態がよくわからないが、どうも秀さんは謎の薬を飲んで幼児化してしまったようだ。

「…こんな状態の秀は初めてみるわ。いつもの幼児化とは違う、悪い状態じゃないと思う」

 話を聞いて駆けつけてきた優さんはそういう。

「いやー彼岸秀がこんなになるとはなぁ、よしよーし、ママでちゅよ~」

「うるせーしね!」

 稲船の番長は秀さんをなでようとするが殴られる。腕力は健在だ。

「この薬何なんでしょうか…まだちょっと残ってますね、だれか試してみます?」

 桃子さんは少し残った薬を手に取りそんな事を言いだすが、全員首を横に振る。

「ま、そのうち元に戻るんじゃねーの?まあ戻らなかったらその時はその時」

「ぱぱーおうまさんして」

「…俺が父親役なの?まあいいか…」

 達観したなぎささんは四つんばいになり、それに秀さんが乗る。なぎささんひょっとしなくてもマゾなんじゃないだろうか。

「彼岸さん彼岸さん私は何ですか?」

「ままー」

「え、私なぎさちゃんの妻ですか嫌ですよ…ってひゃあ!」

 桃子さんが自分の役割を聞くと秀さんは嬉しそうに桃子さんのメロンに顔をうずめる。俺も幼児化したいなあ、と思っているのは俺だけじゃなくてなぎささんも同じだろう。

「なあなあ俺は俺は?」

「うるせーしね!」

 また殴られた。何故か稲船の番長には冷たい秀さん。本能的に拒否しているのだろうか。

「ひょっとしたらこれは秀の本心なのかもね。やっぱり強がってても寂しがり屋で家族愛に飢えていたってことかしら」

「おねえちゃんもしね!」

「嫌われたものねぇ…ま、あんたから親を奪ったようなものだし当然か」

 優さんは残念そうだ。さて、肝心の俺はどうなんだろうか。

「秀さん、俺は?」

「ともだち!」

 秀さんはまた俺にしがみつく。彼氏じゃなくて友達かぁ…まあ友達だと思ってくれるだけでも嬉しいけどさ。



 そしてしばらくの間幼児化した秀さんの遊びにつきあうことに。なぎささんは嬉しそうにおうまさんごっこをして桃子さんに顔面を思い切り蹴られていた。

「しかしどうすれば元に戻るんだろうなあ」

 思いきり蹴られた顔を痛そうに押さえつつなぎささんがそういう。

「そうだ!キスですよ!キスで呪いを解くんです!」

「そうね。私もそう思うわ」

「よし底野、一発やったれ!」

 女性陣が何やら結託してとんでもないことを言っている。き、きききききキス?

「きす?きす!」

 しかも秀さんもノリ気だ。秀さんが俺の真正面に立って目を閉じる。

 あれか?キスしてくれってことですか?

「「「「キース!キース!」」」」

 気が付いたら周りの人が全員煽りやがる。これは覚悟を決めるしかないのか。

「…いくよ、秀さん」

 秀さんに向き合って、俺も目を閉じる。そして、



「…何が、いくよなんですか?」

 魔法の解けた秀さんに景気よくぶん殴られた。



 そして部活も終わり、最近は気を利かせてくれたのか俺と秀さんが二人きりで帰れるように部員の帰るタイミングを合わせてくれる。

「…まったく、ああいうノリ、私嫌いなんですよ」

「いや本当にごめん…」

 帰り道、俺は何度も秀さんに謝る。

 ちなみに秀さんにはこう説明してある。

 変な薬を飲んだ秀さんは突然眠ってしまい起きる気配がない。

 どうやったら起きるのだろうかと考えていると白雪姫だキスをすれば眠りから覚める!と少女漫画脳の桃子さんが言いだし、周りに煽られて俺はキスせざるを得なくなる。

 そしてキスする寸前に秀さんが目を覚ましたと。

「…ところで私、本当に寝てただけですか?その、オーラとか出てましたか?」

「オーラ?そんなものなかったけど」

「…偽物つかまされたか」

「あの薬なんだったの?睡眠薬?」

「あなたには関係ない話です」



「ママー」

 俺達の近くで小さな女の子が母親に甘えていた。

「…何笑ってるんですか?ロリコンですか?」

 秀さんはそういうけど仕方ないじゃん、あの小さな女の子みたいになった秀さんを思い出しちゃうんだから。


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