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5月21日(月) 彼岸優、亀裂

 5月21日、月曜日。

 先日のダブルデートは成功したと言って良いだろう。私、彼岸優は金切君に上機嫌で野球知識を語らせることができたし、小田君もヒナに野球知識を語って感心されていた。

 そしてこういうのは一気に畳み掛けるが吉。

 そう、今日の体育は授業は野球!好感度アップ作戦まだまだ続くよ!

「金切君、柔軟とキャッチボールやろ?」

「ああ、いいぜ」

 私は金切君と一緒に、

「よしよし、向こうはうまくいったね。さて小田君、余り者同士私達もやろっかラロッカポロロッカ」

「は、はい」

 小田君はヒナと一緒に二人組。完璧な作戦だ。

「お、優。大分ボール投げるのうまくなったな」

「えへへ、金切君のおかげだよ」

 金切君と一緒にキャッチボールをしたり、トレーニングにつきあったりしていたおかげか私の身体能力は大分あがった気がする。金切君さまさまだ。



「うっし、じゃあ男子の試合でも見るか。戦力考えて適当に男子は組関係なくグループ決めたからな。…まずは紅組、金切!」

 どうやら今日は組対抗ではないらしい。呼ばれた金切君が準備運動を始める。

「底野!」

 底野君は金切君と同じチームのようだ。あれ、そういえば確か底野君、金切君からヒットを打ったら秀とデートするって賭けをしていなかったっけ。同じチームじゃ打てないじゃない、可哀想に。しかし金切君の実力はとびぬけている。均衡な戦力になるのだろうか。

「次に白組、彼岸秀!」

「はぁ?」

 自分の名前が呼ばれてその辺で体育座りをしていた妹の秀は立ち上がって怒りながら体育教師に詰め寄る。

「先生、私は女です」

「わかってる。だが戦力を考えるとお前が白組にいないとつまらん」

「……」

 しばらく考え込んでいたが男子の野球に混ざることにしたのだろう、秀も準備運動をしだす。

「小田!」

「うっす」

 小田君は白組のようだ。いつもバッテリーを組んでいた金切君と小田君は離ればなれになってしまったが、これがどう影響するか。

 紅組はピッチャーは当然金切君だが、キャッチャーは底野君がやるようだ。秀のキャッチボールの相手をしていたからキャッチング技術があるはずだとのこと。

「よろしく彼岸秀さん。持ち球は?」

「…大小のシュートと、シンカー。直球はともかく変化球はコントロールが悪い」

「オーケーオーケー」

 白組は秀と小田君のコンビのようだ。

 さて、私はどちらのチームを応援すべきか。

 金切君のいる紅組を応援すべきかもしれないが、逆に考えるんだ。

 ここは白組を応援するべき。そして白組が勝ったら落ち込む金切君を慰める。完璧。

 小田君はかっこいい所をヒナに見せる事が出来る。趙完璧。

「ヒナ、白組を応援しましょう」

「え、紅組じゃなくて?何か考えがあるんだね、わかったよ、といっても私は実況するけど」

 金切君と底野君には悪いけど、今日の私達はあなた達の敵よ!



「プレイボール」

 審判が試合開始を告げ、何故か用意してある放送席から最近流行りの野球アニメのオープニングが流れる。

「はい、というわけで毎度おなじみ放送部の青い稲妻こと稲妻日名子と」

「放送部の役立たずでおなじみ石田守でお送りします」

 ああ、そういえば小田君には石田君という恋のライバルがいたんだった。同じ部活というだけでそんなにヒナと石田君は互いを意識しているわけではなさそうだが、何が起こるかわからないのが恋愛、彼にも注意しないといけないだろう。

「なんといっても今日は金切良平対彼岸秀という怪物の対決です。石田さん、どちらに軍配があがると思いますか」

「そうですね、2組が勝つと思います」

「はい、今日の試合の詳細すら知らない石田さんはおいといて紅組のバッテリー金切良平と底野正念が投球練習を終えたようなので白組の攻撃が始まります」

 金切君がいつもより遅い直球を投げる。白組の男子3人はそれを何とかバットに当てようとするも飛ばない。あっという間に三者凡退だ。

「うーん、全部直球でしたね。流石に底野正念は素人、金切良平もコントロール重視で投げているのでしょう。しかしそれでもいとも簡単に抑えるのは流石ですね石田さん」

「紅組が直球しか投げられないというのが果たしてハンデになるのか。白組のバッテリーは彼岸秀、小田玄武ですね」

 え、小田君の下の名前って玄武だったんだ。今知った。

 秀、小田コンビは私の足を怪我させた事もある凶悪な変化球を駆使して大人げなく3者3振に切って取る。それにしても何だか秀がウキウキしている。変化球を捕ってくれるのが嬉しいのだろうか。底野君を見ると何だか不機嫌そうだ、小田君に嫉妬しているのかな?

 続いて2回表は4番の秀の攻撃から始まる。

 バッターボックスに立つ秀に底野君は何か耳打ちをしているようだ。

 持ち前の乙女地獄耳を使った結果、

「ねえねえ秀さん。金切良平からヒットは打てないから代わりに秀さんからヒット打ったらデートしてよ」

「…絶対無理だけどね」

 こんな会話をしているようだ。

 金切君の投げたボールを秀は打ち返す。ボールはセンターの頭上を少し超えた辺りに落ちる。

 結果はツーベース。金切君と秀の対決、今のところは秀の勝ちか。

 5番の小田君含む後続を抑えてお次は秀が金切君に投げる番だ。

 最初の1球は直球。金切君は見送る。ストライク。

 次の1球は左に曲がる。金切君は見送る。ボール。

 3球目も左に曲がる、金切君はスイングするが先程と違いあまり曲がらずに空振り。2ストライク。

 4球目はやや高めに直球。あからさまなボール球。

 5球目。秀の投げた左下に曲がるボールを金切君は捉える。ボールは真っ直ぐにぐんぐんと伸びて行き、学校の金網を越えて外の道路に落ちた。ホームランだ。

「いやー彼岸秀もすごいが金切良平はやはりすごい!初めての変化球に完璧なタイミングを合わせる、なんというか野球ゲームのコンピュータみたいですね石田さん」

「いやー自分は専らサッカーゲームばかりしてるんでわかんないですね」

 ヒナと石田君が漫才をする中うなだれる秀。流石に悔しかったのだろうか。

 何とか立ち直り後続を切る。その後も凡打と三振の嵐で次の見せ場は秀の第二打席。

 ホームランを打たれて焦っているのか秀らしくない不安定なスイング。その結果三振してしまう。そして次のバッター小田君は、

「悪いけど負けられないんだ今日は。彼岸秀さんの敵討ちも兼ねてね」

 不敵に微笑みバッターボックスへ。金切君もバッテリー相手だからか本気を出したようで気迫がすごい。金切君が思いきり投げたボールを小田君は、

「あらよっと」

 まるでそこにボールが来るのを予想していたかのようなスイング。剛球を勢いそのまま跳ね返した感じのボールはこれまたぐんぐんと伸びて学校の外へ。特大のホームランだ。

「おおっとここでまさかの番狂わせ!小田玄武がかつての相棒からホームラン!これには金切良平も動揺を隠せない!石田さんインタビューどうぞ」

「えーただいま入りました情報によると、一打席目は見極めに徹していたみたいですね。どうやら金切、底野ペアのリードは全て金切が決めているようですけどそれは小田のリードを真似したものらしく、簡単に予測ができたそうです」

 なるほど、小田君もなかなか策士だ。



「ゲームセット!白組の勝ち!」

 そして調子を取り戻した秀と、紅組のリードを読みに読む小田君のペアが一枚上手だったようで試合は白組の勝利に終わる。小田君は活躍できて、金切君はいい感じに落ち込んで、作戦大成功だ。

「ほえー、小田君ってすごいんだね」

 ヒナの小田君に対する好感度もかなりあがっただろう。

 私は金切君を慰めようと彼に近づく。しかし、

「…一人にしてくれ」

 金切君は普段見せたことのない冷たい目で私を睨むと、グラウンドの片づけをしにいった。



 その後授業が終わり、いつものように金切君と一緒に帰るときはすでにいつもの金切君に戻っていたけど、あの冷たい目がどうにも忘れられない。

「ん?どうした優。人の顔を凝視して、何かついてるか?」

「う、ううん、別に?」

 幼馴染の私ですら今まで見た事のなかったあの表情。まるで秀のような冷たい目。

 何だか事態が悪い方向に進みそうな気がする。大丈夫だろうか?



 え、底野君と秀の勝負?全三振だったよ、情けないね。


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