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5月20日(日) 十里なぎさ、デートする

 5月20日 日曜日。

 前回のあらすじ。チビで冴えない俺、十里なぎさは学年ナンバーワン美少女と名高い要桃子さんにデートの約束を取り付けられてしまった!

 というわけで約束通り縦川駅に12時に到着。要さんの姿を探すと、駅前の噴水の前で鳩にたかられていた。

「ひぃ…やめて、こ、来ないでください!」

 要さんの元に近づく俺など眼中になく、そう叫びながら群がる鳩と戦っている。

 周りから見れば俺が嫌がる美少女に近寄る変態に見えたのだろう、要さんに声をかけようとした俺は、

「君、嫌がってる子に何をしようとしているんだ!」

 と警察に詰め寄られてしまいました。



 何とか事情を説明し警察から解放され、噴水の前で仕切り直し。

「まったくなぎさちゃんが変態っぽい格好してるから早速ムードが最悪ですよ」

「え、俺の格好そんなに変かな?」

 いきなり服のダメ出しをくらってしまう。服くらいかっこいいのを着ようと思い、親のクローゼットから高級なものを拝借してきたのだが。

「なぎさちゃんみたいなのがそんな高そうな服着たって何の意味もありませんよ?なぎさちゃんは1着1000円くらいのがお似合いです」

 仮にもデート相手にここまで言う資格が彼女にあるのだろうか。お返しとばかりに彼女の服装をまじまじと眺めるが…

「完敗です。非の打ちどころがない」

「そんなにじろじろ見ないでくださいセクハラですか?」

 いやあ俺だけでなく周りの人間もじろじろ見ちゃうよこれじゃあ。

 なんて言うんだっけ、ゴスロリだっけ。あまりファッションに詳しくないけど白と黒をベースにしたフリフリの服に身を包んだ彼女はまさに黒と白の羽をつけた堕天使。天使で悪魔な彼女にぴったりだ。靴下も白と黒のボーダー。彼女のファッションは全て白と黒で統一されており、こだわりを感じる。なるほどただ高い服を適当に着ただけの自分とは月とすっぽんだ。

 そして何より制服と比べるとメロンがわかりやすい。

「で、デートって言ってたけど何をするんだい?」

 要さんにプランを聞くが、

「え?考えてないんですか?私とデートできるのに夜ずっと悩みながら最高のプランを考えようとかそういうことしなかったんですか?」

 デートプランは男が考えるのが当たり前、なぎさ覚えた。

「つっても俺縦川詳しくないし」

「全くしょうがないですね、そうくると思って今回は特別に私がプランを考えておきました。もしなぎさちゃんが女の子とデートする時は例え相手に誘われても自分でプラン考えるんですよ?こっちです」

 要さんはそういうと俺の手をひっぱって案内する。いきなり手をつなぐなんて大胆すぎやしませんかね。



「映画館だね」

「そうですよデートと言ったら定番ですよ映画です」

 彼女に案内されてやってきたのは駅からちょっと離れた映画館。

 確かにデートと言えば映画だろう。さなぎも彼岸妹もデートで映画を見たというし。

「それで、どの映画を見る予定なんだい?」

 要さんは普段から恋愛小説ばかり詠んでる恋愛脳なのでこの『恋の海でごわす!』あたりだろうか…と思ってよく見たらこれ相撲モノかよ!

「はい、これを見ましょう」

 彼女が指差した映画のポスターには、

『呪呪呪呪呪っ!』

 というおどろおどろしいタイトルと白目を剥いた女性の絵。

「これホラー映画じゃないか、何考えてるの」

 本当にこれでいいの?と要さんに問いかける。

 そう、俺も要さんも怖いのが大の苦手でこの間のオリエンテーションの肝試しは二人とも絶叫しまくり互いに抱きついたりして大変だったのだ。

 されど要さんは誇らしげに、

「ふふふ、オリエンテーションの時は正直なぎさちゃんよりも私の方が怖がっていましたからね、あれから特訓したんです。負けませんよ?」

 と言ってのける。勝負しに来たの?デートに来たんじゃなかったっけ。

 まあ仕方がない、チケットを買うために受付に並ぶ。流石の俺でもここは俺が奢るのが当たり前だと心得ている。

「すいません、この4番のを大人2ま「大人1枚と子供1枚で」」

 チケットを買おうとすると要さんが割り込んできて何か問題発言をしたような気がする。

「はい、大人1枚子供1枚ですね」

 受付嬢はそれを了承してチケットを持ってくるため少し席を外す。

 その間に要さんは、

「流石はなぎさちゃん。小学生って言っても通用するんですね」

 とにやにやと笑う。正直屈辱だ。

 チケットを持ってきた受付嬢に料金を支払い、チケットを手渡される。

 俺に大人のチケット、要さんに子供のチケットが。

「……」

 要さんはわなわなと震えている。

「その、交換しよう」

 自分の大人のチケットを差し出すも、

「ポップコーンとコーラLサイズ」

 そう言って要さんはずんずんとシアターへ向かってしまった。



 さて、こうして見ることになった映画『呪呪呪呪呪っ!』だが、はっきりいってホラー映画ではなかった。霊が見える少年と可愛い幽霊の女の子が織りなすほんわかラブコメディー。全然怖くないじゃないかと余裕で見ていたが、

「ひぃ…うぅ…」

 要さんはがたがた震えている。ひょっとして彼女はホラー映画だという刷り込みのせいで怖くないシーンでも怖がっているのではないだろうか。折角要さんの好きそうな内容なのにまともに見れないのは可哀想だが、怖がる要さんが可愛いのでほっておこう。

 物語後半、幽霊少女にデートがしたいと言われてデートをする主人公。しかし周りの人には幽霊少女は見えず、主人公は一人でデートの真似をしている痛い男だと思われてしまう。しかしそれでも彼女を喜ばせるためにデートに付き合う主人公。

 デートの最後にはキスをしようとするが霊体なので触ることができない。それでも主人公は幽霊少女を抱きしめようとする。その時強い光に包まれ、彼女の感触が。主人公は思いきり彼女を抱きしめキスをする。そして再び強い光に包まれると、そこに少女はいませんでした。彼女は成仏したのです。

 …と思いきや少年が家に帰ると普通に幽霊少女が。

「まだ成仏できません!子供が欲しいです!」

 めでたしめでたし。



 いい映画だった。今度原作読もう。

「いやー面白かったね」

 映画館を出て、要さんに同意を求めるが、

「怖くて全然頭に内容入りませんでした…」

 とのことで。多分ホラー映画じゃなくて恋愛映画だよと紹介して見せれば怖がらずに見れただろう。

「で、次はどうする?」

「3時ですね、遅いですけどお昼ご飯にしましょう」

 次の予定を聞くと彼女はそういってまた俺を引っ張っていく。

 引っ張られること数分、辿り着いたのはこじゃれたパスタ屋。スパゲッティと言ったら女の子に笑われる、謎の食べ物パスタ。

「ここ一度行きたかったんですよね、でも一人で入るの怖くて怖くて」

 なるほど、俺をダシにしてここで食べたかったのか。しかし一人で入るのが怖いだなんて小心者だな。

「俺は一人で焼肉もバイキングも行ったことがあるよ」

「ドン引きです」

 うぐぐ…

 店内もおしゃれだ。客層はセレブっぽいマダムが多い。しかしこちらも要さんは完璧なファッションだし、俺だって服の値段だけなら超セレブ。負けてない、負けてないぞ!

「ご注文は何になさいますか、お嬢様にお坊ちゃま」

 紳士っぽいウェイターが注文を取りに来たので、適当にランチセットでも頼む。

 ランチを待つ間、要さんはいつものようにキョロキョロしている。スーパーとかでこれをやったら万引き扱いされてもおかしくないぞ?そしてAVみたいな展開に…おっといかんいかん、鼻の下を伸ばしてしまった。

「わ、私達場違いじゃないですかね?」

 不安そうに要さんが言う。場違いなものか、要さんは一番このお店の雰囲気に合っているさ。強いて言えば俺が場違いだろう。

「大丈夫大丈夫、要さんが一番可愛いよ」

 そんな挑発するような事を言ってしまったために周りのマダム達から睨まれてしまうが、要さんを見たマダム達はあれには勝てないわ…と諦める。

 料理が運ばれてくる。いただきます。

 料理に舌鼓をうっていると、要さんがこちらをじーっと見つめているのがわかる。

「どうしたの?これが食べたいの?取り分けるね」

 俺の食べているよくわからない名前のパスタが欲しいのだと思い、食べているパスタを少し取り皿に分けるが、

「いえ、そうじゃなくて、ただ、なんていうか…ちゃんとフォークとスプーン使ってるなって、何だか腹が立ちますね、なぎさちゃんの癖に」

 そう言って要さんは不機嫌そうに自分のパスタを音を立ててズルズルと食べる。

 まあこれでもセレブだ、食事のマナーは嫌でも身体に染みついている。

「でもフォークとスプーンで食べるのは別に正式な食べ方でもないらしいよ、大体ここは日本だ、そばは音を立てて美味しそうに食べるもの、パスタだって音を立てて食べてもいいと思うなあ」

 要さんの食べ方をフォローするも、

「やっぱり何だか場違いな気がします…皆フォークとスプーンうまく使って食べてますし」

 と憂鬱そうだ。そして彼女はフォークとスプーンで食べようとするもうまくいかずにパスタがこぼれてしまう。何だか今にも泣きだしそうだ。どうしたものか…そうだ。

 俺はパスタの皿に顔を近づけ、思い切り音を立ててズルズルと食べ始める。俗に言う犬食いだ。

「な、何やってるんですかなぎさちゃん!」

 要さんだけでなく、周りのマダムも驚いてマナーがなってないわねえ、不快だわと俺に罵詈雑言を浴びせてくる。そうだ、これでいい。

「これでお店で一番恥ずかしいのは俺になった。安心して好きに食べなよ」

 パスタの汁が口についた状態でこんな事いってもカッコ悪いかもしれないが、

「…はい」

 ちょっと要さんは顔を赤らめた。



 食事も済ませて店の外へ。会計の時に真プラチナカードを使おうとしたが、なんと取り扱っていなかった。カードが希少すぎるのも考え物である。

「次は服を買いに行きましょう、特別になぎさちゃんの服を見立ててあげますよ」

 そう言う要さんに連れられてやってきたのは、『ごすろりっ』という名前のアパレルショップ。

 要さんはどうやらゴスロリファッションが大好きらしい。それはいいとして、

「ちょっと待って要さん。この店ってどう見ても男物の服売ってないよね」

 店内のどこを見ても女性用の服しか売っていない。

「誰が男物の服を見立てるって言いました?」

 要さんはニコニコと既に女物のヒラヒラしたスカートやドレスを手にしている。

 そうか、そうきたか。



「わあ、お世辞抜きに可愛いですねなぎさちゃん。やっぱり背も低いし童顔だし、こうして見るとどこからどう見ても女の子です!…すね毛以外は」

 意外とすね毛が生えている俺の下半身を見ないように要さんは俺の女装を褒める。

 うう、スカートすーすーするよぉ。店員の目が痛いよお。

「もう着替えていいかな要さん、もうやだ、恥ずかしい、耐えられない」

「このお店は試着したまま服を買ってそのままお店を出れるんですよ。一緒に街を歩いて周囲の視線を釘づけにしちゃいましょう!」

「…多分女装してる俺と一緒だと要さんまで女装扱いされるんじゃないかな」

「そ、それは困りますね…そうだ写真撮らないと」

 要さんは携帯でパシャパシャと俺の女装をおさめる。何故かお店の店員もパシャパシャしだす。服を買いにきていた女子高生もパシャパシャしだす。この画像はネットで晒されて意外と好評価を受けるのだがそれは別のお話。



「いやー、楽しかったですね、女装に目覚めましたか?」

「目覚めるわけないでしょ…」

「じゃあなんでその服買ったんですか?」

「……」

 服屋を出て最初の集合場所である駅前の噴水のベンチに座って休憩。本当に何で俺は服を買ってしまったんだろうか。

「あ、喉が渇きました。ミルクティー買ってきてください」

「はいはい…」

 お姫様はお茶をご所望だ。俺は近くの自販機でミルクティーを買って噴水の前に戻ると、要さんは今度は鳩ではなく男達に絡まれていた。

「あ、なぎさちゃん。す、すみませんけど私この人とデート中なんで」

 どうやらナンパをされていたらしい、まあ要さんが噴水の前で一人ぽつんと座っていたらそりゃあナンパ野郎は声をかけるだろう。要さんは俺の手を取りその場から立ち去ろうとするが、

「えーいいじゃんいいじゃんそんなチビほっといてさー、俺達と遊ぼうよ、俺達さっきまで合コンしてたんだけど女達に逃げられて超アンニュイなのよ」

 男の一人は強引に要さんの肩を掴む。

「こ、困ります」

 どうもこの男達酒に酔っているようだ。うーん、下手に刺激すれば暴力沙汰になってしまう。悩んだ末に俺は財布から諭吉を取り出して男に手渡す。

「それは大変でしたね。これでもう少しお酒でも飲んで辛い事を忘れてください」

「兄ちゃんチビとか言ってすまねえなぁ…うぃっく、良い奴だよホンマに…」

 よーしおめえらあの兄ちゃんの奢りだ、吐くまで飲むぞ!と男達は去っていく。

「な、何考えてるんですかなぎさちゃん!お金を渡すなんて!普通は俺の女に手を出すなって戦うところでしょう」

 要さんは俺の行動に幻滅したようだ。しかし、

「要さん、それでうまくいくのはお話の中だけだよ。喧嘩になったら俺がサンドバッグになるだけじゃなくて要さんだって下手すれば怪我するかもしれない。諭吉一枚で要さんが怪我せずにすむならそれに越したことはないよ」

「…何だか納得いきません。まあ、助けてもらった分際で文句言うのはおこがましいですし、ありがとうございます。…もうこんな時間ですか、もう私はプラン考えてませんけど、なぎさちゃんは何かありますか?ないなら今日はおしまいってことで」

 感謝はすれどやはり要さんは不機嫌そうだ。サンドバッグになるべきだったか。

 こんな状態じゃもうデートも楽しんではくれないだろう、名残惜しいがお別れだ。

「いや、俺も考えてないよ、お開きにしよう。…デート気分は味わえた?」

「まあまあですね。最後のでマイナス50点です」

「厳しいねえ。ところで要さん、俺をデート相手に選んだのは、気兼ねなく練習ができるから?」

「わかってるじゃないですか。なぎさちゃんもいい練習になったんじゃないですか?まあ、なぎさちゃんが将来デートできるとは思えませんけど」

 それじゃあ、と彼女は駐輪場へ去って行った。おっと、もうすぐ電車が来る。俺も切符を買わなければ。



◆ ◆ ◆


 わかってる、なぎさちゃんの言う通りだって。漫画みたいに悪漢数人を男1人で蹴散らすなんて無理なんだって。しかもなぎさちゃんは私の身まで案じてくれた。周りはカッコ悪いと評するかもしれないけれど、あれがなぎさちゃんなりのベストな対応だったのだ。

 仮にあそこでなぎさちゃんが戦ってボコボコにされたら、私は何負けてるんですか!と彼をなじったかもしれない。もしくは私自身も怪我をさせられて、無謀な正義感なんて振りかざすからですなんて言ったかもしれない。私はそういう女なのだ。

 去り際になぎさちゃんに酷い事言っちゃったな、傷ついてないといいけど。

 私は携帯の画像フォルダを開く。

 そこにうつっていたなぎさちゃんの女装は、見てくれだけの私よりもずっと可愛く見えた。

 すね毛さえなければだけど。


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