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5月19日(土) 厳島-河豚岡 1回戦 (上)

 5月19日、土曜日。

「あれま、何か見た事のある顔がずらーりだね。双子に男が挟まれるってシュールだね」

 ヒナが左を見てそう呟く。

「そうね…」

 予定通り、私こと彼岸優、私の好きな金切君、友人のヒナ、ヒナが好きな小田君は学校が終わった後球場へと来ていた。ダブルデートの始まりだ。

 席は右から小田君、ヒナ、金切君、私の順。そして左を見渡すと、

「……何でだ、おかしい。偶然にしては出来過ぎている、おかしい、おかしい…」

「秀さん、大丈夫?」

 なんとそこには底野君と妹の秀。更に向こうには秀の部活仲間も見える。

 ダブルデートだと思っていたが、どうやらフィフスデートのようだ。

 まあ秀と底野君は私がアシストしなくても大丈夫だろう。

 私は全力で金切君と仲良くするので、小田君は全力でヒナと仲良くしなさい。

「い、稲妻さん。今日は交流戦と言って、普段戦わないチームと戦うんです」

「へーそうなんだ。普段から見てる人からすればいい刺激だね」

 ようし小田君それでいい、野球の知識でヒナをメロメロにするんだ!

 そして私も…しまった、私は野球そんなに詳しくない。

 こんな事ならちゃんと予習しておくんだった。

「優、今日の先発は入団一年目の高卒ルーキーで今日が一軍初登板初先発。チームも絶対に勝たせようと意気込んでいるね」

「そうなんだ!勝てるといいね!」

 しかし大丈夫、女の私は金切君に気持ち良く野球知識を喋らせることで好感度を稼ぐ。



 そろそろ時間のようだ。チームの紹介がされて、アイドルが出てくる。

「やっほー!秋葉黒葉だよ!この間はごめんね、始球式に出れなくって。今日はそのかわり精一杯どちらのチームも応援しちゃいます!」

 今最もホットなアイドル、秋葉黒葉ちゃん。確かに可愛い。向こうにいる要桃子さんとどちらが可愛いだろうか、甲乙つけがたい。

 球場は大盛り上がり。彼女を見るために来た人も多いとか。アイドルってすごい。

 やっぱり金切君も彼女みたいな子が好きなのかなぁ…と表情をうかがうと、

「…まったく、アイドル目当てに球場来るなんて感心できないな。あのアイドルも確か野球は好きじゃないってどこかのインタビューで言ってた気がするんだが。なあ優、同じ女としてああいうタイプってどう思う?俺は好きになれないな」

「そ、そうだね。何かブリっ子って感じが見え見えで私も好きになれないな」

 意外だ、金切君はこういうタイプが嫌いなのか。うーん、この間の肝試しでブリっ子しちゃった気がするな、あれは失敗だったか。

 その後秋葉黒葉ちゃんは始球式、この間秀がやったようにボールを投げる。

 全然見当違いのところに飛んで行った、あれはドジっ子アピールをしているのかな?

「結構コントロールって難しいんだよ。素人だったら大抵あんな感じになる」

「へぇ…じゃあ秀ってすごいんだ」

「すごいも何も彼女は100年に1人の逸材だと思っているよ」

 うう、自分で秀の話をふったとは言えど金切君が私ではなく秀を褒めているのを聞いていると秀に嫉妬してしまう。

「わ、私だってあのくらい…で、できるわけないよね」

「いやいや、双子なんだし優にもあのくらいのポテンシャルあるかもよ。何なら本格的に野球やってみるか?確か上級生が女子ソフト部を作ろうかって話をしていたし」

 野球かぁ…マネージャーもいいけど、野球で金切君と一緒の趣味を持つっていうのもいいかもな…えへへ…

 試合開始。まずは敵チームの攻撃みたいだ。

 マウンドにあがるのは期待のルーキー。何だか底野君に顔が似てる気がする。

 思いきり振りかぶって放たれるボールは快音を立ててキャッチャーのミットへ。

「かっこいいね」

「ああ、1球見ただけでわかる。彼は大物になる」

「3年後には金切君もあそこに立ってるんだよね」

「…どうだろうな」

 金切君なら絶対に立てるって。



 試合中にやることじゃないかもしれないけど、私は目を閉じて想像する。

 3年後のこの球場、金切君がマウンドに立つ。

 そんな金切君をここで応援している私。

 金切君は投げる前に、こちらを見てブイサインをしてくれる。

 そんな未来になったらいいな。



 何とか失点せずに1回表を終えて、こんどはこちらの攻撃だ。



 ◆ ◆ ◆


 1回の表は俺のいとこが抑えて、次はこちらの攻撃だ。

「うーん、流石は俺のいとこだね。僕に似てかっこいい」

「冗談は顔だけにしてください」

 ジョークをかますも秀さんは笑ってくれない。

 いとこが先発で投げるというので俺、底野正念は部活の友人と共に野球を見に行くことになったのだが、なんとたまたま左隣の席には俺の好きな秀さんが。

「秀さんひょっとして、俺が野球見にいくって言った時にはもうチケット買ってたの?」

「…ええ、そうよ。まさか隣の席になるとは思わなかったけどね」

 チケット代は持つから野球を見に行こうと火曜日に誘った際は断られてしまったが、なるほど既にチケットを買っていたのなら断るのもわかる気がする。女の子の気持ちになって考えてみてほしい、男に一緒に映画を見にいこうと誘われた際、既に自分は一人で映画を見に行くつもりだと答えたらどうなるか。寂しい女だと思われるだろう。

「え、あんた達一緒に来たわけじゃないの?個別に来て偶然隣の席になったの?すごいじゃない、もう運命の赤い糸に結ばれてるわ!」

 俺の右隣には、ダブルデートに来ていた彼岸優さん御一行がおり、俺達の会話を聞いていたのか茶化してくる。確かにそう思う、この広い球場で偶然隣になるなんて運命の赤い糸に結ばれているとしか思えない。

「…ところで、あれは本名なの?」

 秀さんが俺に質問する。

「何が?」

「…あなたのいとこ」

「そうだよ、阿野正然あの・せいねん。あれが本名だよ」

 阿野正然。俺の父親の姉の子供で正真正銘俺のいとこだ。昔から身体が大きくてスポーツがうまいと思っていたけど、まさかプロになっているなんて知らなかったよ。

「そ、そう…」

 彼女は下を向いてプルプルと震えだす。ひょっとして名前がウケたのだろうか?



「それより、俺本当に野球あまり知らないんだよね。ウチのチームの選手のこととか秀さん教えてよ」

 図らずもデートになったのだ、楽しもう。俺の経験上秀さんは自分の知識をひけらかすのは好きなようなので、野球の話題で彼女にご機嫌になってもらおう。

「しょ、しょうがないですね。まずは今バッターボックスに立っている人、あれは一番セカンド南出。走攻守どれも安定した能力を持っていて、チームメイトの信頼も厚いわ。それから2番センター荒松。彼はとにかく足が速いのよ、女に対する手も早いらしいけどね。そして3番ライト稲本。確実性には欠けるけどホームランの打てる貴重な打者よ。それから…はっ」

 ノリノリで選手の説明をした結果、周囲の注目を浴びている事に気づき、秀さんはうつむいてしまう。可愛い。

「本当に秀さんは野球が好きなんだね、きっかけは?」

「なんであなたに教えないといけないんですか」

 あらら、すねちゃった。仕方がない、機嫌が直るまで試合に集中しよう。

 秀さんが言っていた1番セカンド南出はボテボテのゴロを打つも快足を轟かせ一塁を踏む。どうやら内野安打というらしい。

 そして2番センター荒松が最初の一球を空振ると、その間に南出が次のベースを狙う。これは知っている、盗塁だ。しかし相手キャッチャーに刺されてしまいアウトを献上してしまう。

「だからあなたは走るなって言われてるでしょうが!去年なんて盗塁成功率4割の癖に!ああもうこれがなければいい選手なのに」

 秀さんの方を見るとギリギリと歯ぎしりしている。興奮してるなあ。

 その後荒松、稲本もアウトになり1回の裏も終了、再びいとこが投げる番だ。

「秀さん、いとこがプロになれたんだし、俺にも素質はあるかな」

 ひょっとしたら俺が今から本格的に野球を始めればプロになれるかもしれない。

「…ふっ」

 秀さんは俺の方を向くと鼻で笑う。また冗談だと思われてしまったようだ。

「いやいや、俺にも素質はあるはずだよ。次の野球の授業で大活躍してあげよう」

 全打席ホームランを打って秀さんに尊敬の眼差しで見られるのを想像する。うん、悪くない。

「最初の野球の授業で全三振したのはどこのどいつかしら?」

 それを突かれると辛いが、この間のデートでバッティング練習をした。今の俺なら少しは打てるのではないだろうか。

「よし、じゃあ次の野球の授業で1組のあのすごいピッチャー…誰だっけ」

「金切君の名前くらい覚えなさい!」

 右隣で話を聞いていた彼岸優さんに怒られる。そうだった、今まさに優さんとデート中の金切良平だった。

「そう、その金切良平からヒットを打てたら、またデートしてよ」

「打てたらね」

 おや、賭けに乗るとは思わなかった。野球で興奮してたからか?



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