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5月18日(金) 十里なぎさ、メガネフェチ

 5月18日、金曜日。


「ちょっといいかな、要桃子ファンクラブ127番」

 いつものように写真販売会に参加し、販売会が終わったので自分の教室に戻ろうとすると、後ろから声をかけられた。

 振り向くとそこには写真販売会の主催者が。

「何でしょうか」

「君、要君と仲がいいみたいだね」

 ひょっとしてあれか、要さんと仲がいいという理由でファンクラブの人間にリンチされるというよくある展開か。気づけば俺は数人の男子生徒に囲まれていた。不動と底野君に助けを求めようとしたがあいつら帰りやがった。

「ああ、そう身構えないでくれたまえ。別にファンクラブの一員が抜け駆けをしているから制裁するとかそういうわけではないんだ。ちょっと頼みがあってね」



「要君にメガネをかけさせてクイクイってさせて欲しい」

「…はぁ?」

 お願いします!と俺の周りを囲んでいた男子生徒達に頭を下げられる。

「彼等はメガネフェチの集団なんだ。そして私もね。学年一、いや学校一の美少女と名高い要君がメガネをかけた姿…想像しただけでご飯が数杯食べられるというものだ。だからなんとかして要君にメガネをかけて、クイクイってさせて欲しい。そうすれば写真を撮れる」

 そう言うと主催者は懐から例のカメラを取り出す。遠く離れた場所でも女の子の写真が撮れるすごいカメラだ。

「丁度今日は要君と図書委員の仕事があるんだろう?頼むよ」

「まあ、頑張ってみます」

 メガネフェチではないがまあメガネをかけた要さんというのは確かに見てみたいので頑張ってみよう。メガネを数個渡された俺は作戦を練るために教室に戻る。



「遅いですよ。私より遅く来るなんて図書委員の自覚あるんですか?」

「仕事しない人に言われたくはないんだけど」

 放課後に図書室に行くと珍しく要さんが既に定位置に座っており小説を読んでいた。

 俺も定位置に座る。さてどうしたものか。

 作戦その1.とりあえず俺がメガネをかけてみて要さんの興味をひく。

 黒フレームのメガネを取り出して装着。うん、頭が良くなった気がする。

「あれ、なぎさちゃんどうしたんですかそのメガネ」

「知的な男を演じてみようかと思ってね」

「何だかそのメガネだと変態っぽくて痴的ですね。正直全く似合わないから外してください、不愉快です」

 最近要さんが彼岸妹に似てきたと思うのは俺だけかな?

「じゃあこのメガネはどうかな」

 今度はちょっとレンズが青いメガネをかけてみる。

「論外ですね」

「じゃあこれは」

 次はサングラス。ちょっとダークな雰囲気を醸し出してみる。

「ギャグですか?ていうかメガネ何個持ってきてるんですか、ちょっと貸してください」

 要さんは持ってきたメガネをひったくるとぶつぶつ言いながら品定めし始める。

 やがて1つのメガネを俺にかけさせる。いわゆる丸メガネだ。

「これが似合うと思ってんですけど…微妙ですね」

「俺で遊ばないでくれるかな」

 メガネ選びにも飽きたのか再び席に戻って小説を読み始める。

 作戦その2.メガネの話をする。

「ところで要さん、視力いくつ?」

「視力ですか?今年はかったときは両方0、2でしたね」

「え、普通に悪いじゃないか。メガネかけなくていいの?」

「私コンタクトレンズつけてますよ?」

 知らなかった。コンタクトレンズなんてあんなものをよく目に入れられるな要さんは。

「因みに俺は両方1、5だよ」

「目の良い人って何か馬鹿そうですよね」

 謝れよ目の良い人に。しかし作戦2も失敗か、さてどうしよう。



「俺、参上!」

「図書室では静かにしろ」

 と、ここで双子の妹である稲船さなぎが登場。早速カウンターに散らかっていたメガネをひったくるとそれをつける。

「お、メガネじゃん。ただでさえ頭の良い俺がこれで更に頭が良くなってしまったな。俺は背も高いしメガネかけたらカッコいい女教師って感じがしないか?こうやってクイクイってやって。こら、お兄ちゃん!図書室では静かにしなさい!」

 登場してすぐにメガネをかけてクイクイってしやがった。要さんがこいつくらい馬鹿だったらどんなに楽だったことか。

「わあ、さなぎちゃんそのメガネすごく似合いますね、かっこいいです」

「だろう?桃子はわかってるなあ。それに比べてなんだお兄ちゃんそのセンスのないメガネは。自分で選んだのか?いや本当にセンスがないな、一生メガネをかけない方がいいぞ」

「…それ選んだの私なんですけど」

 要さんのセンスを酷評したさなぎはメガネをかけたまま、そうだった外で友達とサッカーやるんだったと図書室を去って行った。

 要さんを見ると親友にセンスを酷評されたのが余程こたえたのかプルプルと震えている。

「一生メガネをかけない方がいいって言われちゃいました…うふふふふ…」

 メガネに悪印象を持ってしまった、さなぎのアホ!

 作戦その3.メガネをかけるように勧める。

「まあまあ要さん、要さんのセンスは悪くないよ。要さんにはこのメガネとか似合うんじゃないかな?」

「私は一生メガネかけない方がいいんです」

「そう言わずにさ」

「…なぎさちゃん、さっきから私にメガネかけさせようとしてませんか?」

 な、何故ばれた?

「エ、ソンナコトナイヨ」

「さっき自分で視力1、5って言ってたじゃないですか。おしゃれに気を遣うタイプでもなさそうだし、そんなにメガネたくさん持ってくる理由がありません」

 アホだと思っていたけどなかなか鋭い所をついてきやがる。

「ひょっとしてなぎさちゃん…」



「メガネフェチなんですか?」

 あ、なんか物凄い勢いで誤解されている。でもここは乗っかろう。

「えーと、うん。実はそうなんだ」

 作戦その4.メガネフェチなのでかけてくださいと頼みこむ。

「へー、なぎさちゃんが、メガネフェチねー、ふーん」

 にやにやしながらこちらを見つめた後、要さんは1つメガネを取り出してかける。赤いフレームのメガネは恐ろしく要さんの顔にマッチする。今までメガネフェチなつもりはなかったが、こうしてメガネをかけた要さんを見るとメガネもいいなあと思ってしまう。

「こういうのがいいんですか?こうやってクイクイって」

 メガネフェチだと誤解されてしまったが、ともかく目標は達成できたようだ。

 無事に写真は撮れたのだろうかと思っていると、図書室で本を座っていた男がこちらにブイサインを出しているのがわかる。どうやら成功したようだ。



 下校時刻になったので図書室を閉めて帰り支度をする。

「ところでこのメガネ、貰っていいですか?」

 そういえばずっとメガネをつけたままだった要さん。

「ああ、いいけど」

「ありがとうございます。実はコンタクトレンズって結構怖いんですよね。私のお母さんも使い捨てのコンタクトレンズを1ヶ月くらい使い続けて病院に行く羽目になりましたし」

 想像するだけで恐ろしいが、どうやら要さんは今後も時々メガネをかけるようだ。

 メガネフェチ大歓喜だな。



◆ ◆ ◆



「ただいまー」

「おかえり桃子。あら、どうしたのそのメガネ」

 要桃子が家に帰ると母親がメガネについて言及してくる。

「えへへ、友達の男の人にもらったんですよ。メガネフェチなので是非かけてくださいお願いします要桃子様!って土下座されちゃって。そこまでされたらかけないわけにはいきませんよね」

 いきさつを捏造しながら桃子は語る。その場でくるくると回りだしたり、メガネをクイクイっとしたり、かなり上機嫌そうだ。

「あらあら、桃子にもそういう人ができたのね」

「な、桃子!そんな変態っぽい男と関わるんじゃありません!」

 父親はそんな桃子を心配するも、当人は全く聞いていないようだ。


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