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5月16日(水) 鷹有大砲、詐欺をする

 5月16日、水曜日。

 秀さんも素直になればいいのに、と僕こと鷹有大砲は思ってみたりする。

 でもね秀さん、僕は君は必ず底野君の近くの席になってしまうと思うな。

 運命ってそういうものなんだ。

 今日も今日とて学校帰りにアルバイト。キツネさんは出かけており、僕と神音はいつものように店番をする。アルバイトするなら楽な方がいいなと昔思っていたけど、こうも暇すぎると流石に嫌だな、やっぱりそれなりに忙しくないと働き甲斐がない。

「お、水晶が光った!キツネさんじゃない、お客さんだ」

 お店に来る人がわかるというこの水晶。姿を確認するとなんと秀さんだ。ジャージの上にスカートを履いているので今度は見間違えない。

「うえー、面倒くさいなー」

 神音は実に面倒くさそうだ。この間は商品が売れて感動していたというのに、こいつは。

「大体よー、結局はアタシが能力で人呼んでアタシが接客やるんじゃねーか、お前は何の役にも立ってねえんだよ」

 神音はグチグチとお小言を言ってくる。

「じゃあ今回は僕が一人で接客するよ。このお客さんはどうやら神音と同じく能力の影響をあまり受けないみたいだからね。神音は後ろで見守ってて」

 だったら僕一人でもできると言うことを証明してやろうじゃないか。



「…怪しいお店ね、なんで私はこんなところに足を運んだのかしら」

「いらっしゃい」

 店の中に入ってくる秀さんにできる限りの営業スマイル。眼帯をつけたままだと多分シュールな感じになってしまうだろうけど。

「…あなた、ここで働いてたの。気がつけばこのお店の前にいたのだけど、ここはどういうお店なのかしら?」

「看板に書いてあったじゃないか。魔法具を売ってるよ」

「魔法の道具?馬鹿馬鹿しい、誇大広告で訴えられても知らないわよ」

 流石は双子。姉と同じような事を言うんだな。

「おや、信じてないね。現に僕は軽い超能力が使えるんだ」

 実際にはテレパシーを送ってくる彼女の方が超能力者だろうけど。

「超能力?はあ、あれね、あなた眼帯とかつけてるし、俗に言う厨二ね。そういうのはさっさと卒業した方がいいわよ」

 口で言ってもわからないなら実際に超能力を使うしかないみたいだ。

「君は昨日家で野球を見るためにテレビをつけ、贔屓のチームが大敗していたので激昂してリモコンを叩きつけ壊したね」

 一瞬で秀さんの顔面が蒼白に。どうやら秀さんの感情が高ぶった時にテレパシーが送られてくるらしく、昨日突然バイト中に彼女の怒りが聞こえてきたからびっくりしたよ。

「信じて貰えたかな?」

「わかった、信じる、信じるからこれ以上その超能力を使わないで」

 いつも不機嫌そうな彼女が動揺する姿はちょっとそそる。ひょっとして僕にはSの素質があるのかもしれないが、今は接客することを考えよう。

「というわけで、ここの商品はそれなりに効果があると思うよ。実を言うと君のお姉さんもここで恋愛成就のお守りを買って行ったんだ」

「…ああ、これね」

 彼女は自分のカバンを見つめる。そこには以前彼女のお姉さんが2つ購入したお守りがつけられていた。1つは彼女に渡したということか。それをカバンにつけてるというのは意外だ。

「とにかく君に勧める商品は…これなんてどうかな、関わりたくない人の前で飲むと、不快なオーラを出してその人に嫌われちゃう薬」

 商品棚から1つの瓶を取り出してレジに置く。

「不快なオーラ?」

「そう、こんな風にね」

 僕は細目にしていた右目を見開く。彼女は後ずさりしてこちらを睨んでくる。神音も彼女も細目の状態なら気にならないが、片目を開けた状態だとかなり不快になってしまうようだ。

「…わかったからその目を閉じて頂戴」

「はいはい。とにかくこれを使えば付きまとってくる人との関係を悪化させられるよ」

「買った」

 商談成立。まいどあり、と薬を手にした彼女を見送る。



 さて、ネタバレすると実はあの薬にそんな効果はない。

 あの薬の本当の効果、それは飲んだら本当の自分をさらけ出してしまうというものだ。

 きっと底野君の目の前で彼女があれを飲めば、幼児化したあの時のように甘えたりするんじゃないだろうか、その光景を思い浮かべるだけで笑いが止まらない。

「おー、商品売れたじゃん、やるな。てかあの子ってひょっとしてこないだ始球式で投げてた人?すごいよなー、アタシ同じ女として尊敬するわ、マジかっこよすぎだってあの姿」

 僕を見守っていた神音がひょっこりと出てくる。

「僕の予想だけど、彼女は肉体強化とか超能力とか、そんな感じの能力を持っているんじゃないかな。本人も気づかない」

 それにしても秀さん改めて見ると可愛かったし、かっこよかったな。、

 ひょっとしたら僕と秀さんが恋に落ちるような展開の平行世界もあるかもしれない。

 ま、どのみち僕じゃ釣り合わないか。

「うーん、にしても何だか野球見たくなったなぁ、週末にでも見にいくかなあ」

 おいおい、お前まで野球を見にいくのか。

「でも一人じゃ流石に寂しいな…眼帯、一緒に見にいかね?」

 そして僕まで巻き込もうとするのか。でも野球場って人が多いからなあ、嫌だなあ。



「ただいま♪」

 スキップを踏みながら上機嫌でキツネさんがお店に入ってくる。

「店長、随分機嫌いいですね、何かあったんですか?」

「そうなのよ、実はナンパされちゃったの。結構かっこいい子にね」

「へえ、おめでとうございます」

 よほど機嫌がいいのかひょっこりと狐耳が生えてくる。

「話を聞くにその人野球選手らしくてね」

 まさか。

「今週の土曜日に投げるんで、是非見にきてください!って言われちゃったの。そんな事言われたら見にいかないわけにはいかないわよね」

「奇遇ですね店長。丁度アタシも週末に野球見にいこうかなって思ってたんですよ。一緒に見に行きましょう」

 ああ、そういう運命なのか。

「大砲ちゃんも、一緒に来てくれるかしら?」



「…はい、行かせてもらいます」

 僕達が野球の試合を見に行くことはきっと規定事項なのだ。

 ここで断ったとしても絶対に僕は野球の試合を見に行く羽目になる、そう僕は確信していた。

 秀さんがこのお店に来たのも、それで神音が野球を見に行こうと思ったのも、キツネさんが野球選手にナンパされたのも全ては必然なのだ。一体どういう意味があるのかはわからないけど。

 こうして週末の土曜日の野球の試合の観戦者がまた増えたのだった。


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