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5月7日(月) 彼岸優、また勘違い

 5月7日、月曜日。

「なーんだ、そういう事だったの」

 私、彼岸優は今日も大好きな金切君と一緒に学校へ。

 土曜日に妹がメールで野球を見ろというのでテレビをつけると、なんと金切君と秀がバックネット裏で隣同士座っていた。一体どういうことなのと金切君に詰め寄ると、偶然同じ日に野球を見に行って偶然席が隣同士だったらしい。デートじゃなくてよかった…と思う一方、偶然でも私も金切君とそういうことになりたい!と妹に嫉妬するのであった。

「いやあ、それにしても秀さんはすごいね。球が速いだけじゃなくてコントロールも完璧。変化球も怖い程曲がるし、彼女が男だったらメジャーも総なめだよ」

 嬉しそうに金切君が話す。恋する乙女としては妹とはいえ別の女の事を楽しげに話すのを聞くのは辛い。

「うんうん、我が妹ながら誇らしいよ」

 でも相槌をうつしかないのだ。



 いつものように学校に行って授業を受けて気が付けば放課後。

 そしていつものように金切君と一緒に帰る。

 それなりに幸せだけど、やっぱり変化も欲しい。



「…稲妻って、好きな人とかいるのかな」

「…へ?」

 ただこんな変化はあまり起こって欲しくなかった。

 突然金切君がヒナの好きな人を聞いてくる。その理由を考えるとどうしても私は最悪の考えに至ってしまう。まさか、金切君が。知らず知らずのうちに涙目になっていく。

「…まさか金切君、ヒナのことが」

 ああ、そうだったのか。金切君はヒナが好きだったのか。どうすればいいんだろう、私は。

 確かにヒナは可愛い。金切君が好意を寄せたって何らおかしくない。

 応援すればいいんだろうか。自分と金切君との恋を応援してくれる相手を。

 ああ、駄目だ、顔がくしゃくしゃになっていく。

「いや、多分優の考えていることとは違うぞ」

「ふぇ?」

 流した涙をとっさに拭いて金切君を見る。

「か、金切君が、ヒナの事を好きなんじゃ」

「違う違う!あー悪い悪い言い方が悪かった」

 どうやら私の勘違いだったようだ。良かった。本当に良かった。

 もし本当に金切君がヒナを好きだったら私はどうすればいいのか本当にわからなかった。

「じゃあ何でそんな事聞いたの?」

 金切君はしまった、という顔をする。やがて頭をポリポリとかきながら、

「あー…うん、そうだな。お前になら話をしても大丈夫だろうな。誰にも言うなよ?小田って知ってるよな?」

「うん、知ってるよ」

 そりゃあ勿論知ってるさ、席替えで私に金切君の隣の席をゆずってくれた神様だ。

 野球ではキャッチャーとして金切君とバッテリーを組んでおり、金切君程ではないが評価が高いらしい。秀もあのキャッチング技術は高校生離れしていると褒めていた。

「その…小田がな、稲妻の事を好きなんだ、実は」

「…へー」

 なるほど、そういうことだったのか。だから金切君はあんな事を聞いたのか。

 確かに言われてみれば確かに小田君はヒナの事をよく見ている気がする。

「まあ、親友としては協力してやりたいんだよな」

「友達思いだね、金切君は。そういう事なら、私も協力してみるよ。ヒナってお節介なとこあるし、あれじゃ自分の幸せを見つけられないよ」

 ヒナと小田君か。確かに活発なヒナと、影の立役者って感じの小田君はお似合いかもしれない。

 こうして私と金切君は、チームヒナと小田君をくっつけちゃいましょうとして結束した。

 しかし何だか話がおかしな方向へ行ってしまった気がする。

 そもそもヒナと小田君は私と金切君の恋を応援してくれているのだ。

 そして応援されている側の私が小田君とヒナの恋を応援するなんて。



「っていうわけなの」

「いきなり他人に喋ってるじゃん…」

 家に帰った後、リビングで素振りをしていた秀に経緯を話す。

「改めて考えてみると、これって一石二鳥だと思わない?私と金切君はヒナと小田君の恋を応援するという共同作業で距離が縮む。そして逆も然り。ヒナと小田君が私達を応援すればするほど、二人は親密になっていくの」

「そうか、頑張りな。私には関係のない話だ」

 そう言うと秀は大層不機嫌そうに自分の部屋へ戻って行った。


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