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5月6日(日) 十里なぎさ、母に会う

 5月6日、日曜日。


 俺、十里なぎさは俗に言う夜の街に来ていた。

 色とりどりの建物に色とりどりの髪の人。なるほどここがネオン街。

 印刷してきた地図を頼りに目的のお店を探す。

「ここか…」

 よくわからない言語の店名、この店で間違いなさそうだ。

 早速お店の中に入ろうとするも、いかつい男に阻まれる。

「おう兄ちゃん、ここは兄ちゃんみたいなチビが入っていい場所じゃないんだ、帰ってママのおっぱいでも飲んでな、HAHAHA」

 今時そんな台詞を言う人がいることに驚くも、今日はこの店に来るためにわざわざ来たのだ、引き下がるわけにはいかない。俺は財布からカードを取り出して見せつける。

 セレブ中のセレブしか持てない、真プラチナカードだ。

「おう…これは失礼いたしましたお坊ちゃま、ささ、どうぞ店内へ」

 金を落としてくれる客とわかるや否や態度を豹変、嫌いじゃないぜこういう人は。



 男に案内されて店内へ。華やかだけどなんというか落ち着ける、癒しの空間とでも言うべきか。

 こういう雰囲気は嫌いじゃない。

「いらっしゃいませー、このお店は初めてでしょうか?」

 とはいえこの手のお店に今まで入ったことなどないのできょろきょろしていると、早速嬢に声をかけられる。積極的な接客、マニュアルが行き届いていて素晴らしい。

「えーと、佐奈さんをお願いします」

「佐奈さん?ああ、まどかちゃんの事ね。まどかちゃーん、ご指名よ。お客様、ささ、こちらのお席へどうぞ」

 ああ、そういえばこういうお店では本名を使わないのか。

 促されるまま席に座るとやがて一人の女性が隣に座る。

「ご指名ありがと、可愛い顔してるわね、ボク。名前はなんて言うの?」

 女性は早速グラスに注がれたワインを勧めてくる。なるほど、こうやってお酒をどんどん飲ませていくのか、勉強になる。



「十里なぎさといいます」

 直後にグラスの割れる音。女性が落としたのだ。全く接客がなっていない。

「あ…あ…な、なぎさ…ど、どうして…?」

 しかしグラスを落としてしまったことなど女性は気にしていない。それよりも俺がこんなところにいることの方に驚いているようだ、まあ無理もないか。

「お久しぶりです、母さん」

 この女性こそ、俺とさなぎの母親である稲船佐奈であった。



「…どうしてあなたがこんなお店にいるのかしら?」

 落としてしまったグラスを片づける間に大分母さんは落ち着いたようだ。

「さなぎから聞いていないんですか?高校で一緒になったんですよ。それで行方もわかったし、親に会いに行こうと思ってわざわざ職場を調べてこうして来たというわけです。あ、すいません、このドンペリってのください」

「あなた高1でしょ何考えてんの!そもそも来るなら来るで家に来なさいよ!」

「さなぎが家では爆睡してるか酒飲んでるかって言うから、そんな状態の親には会いたくないですね」

「ぐっ…」

 はぁ…とため息をつく母さん。さなぎは母さん似らしいが、ため息の仕草とかを見ているとどちらかというと自分の方が似ているのではないかと思う。

「まあ元気そうで安心しました。でも家でお酒飲むのはもう少し控えてくれませんかね、さなぎが臭くて近寄れないって言うんですよ」

 母さんは俺の事嫌いなのかな…と普段強がっているさなぎがそう漏らしていた。

「…私はあの子の親面できないわ。幼いあの子を無理矢理連れていって、結局苦しい想いをさせて。だからああやって避けてるの。ねえ、さなぎをそっちで引き取ってもらえないかしら?あの子も裕福な家で兄妹仲良く暮らす方が幸せでしょう」

「ふざけた事言わないでくださいよ、どうしてもっていうならヨリを戻すことですね」

 大体さなぎはあれで幸せそうだし、俺なんかより十分立派に育っているじゃないか。母さんよりも親父の方が余程親失格だろう。

「…そう、馬鹿な事を聞いてごめんなさいね。でも子供は親に似るもの、さなぎも将来私のような人生を歩むんじゃないかと心配なの。支えてやってあげてね」

 そう言うと母さんは仕事があるから、とその場を離れていった。折角だから母親に接待してもらおうかと思っていたのに。結局お酒を飲むことなく俺はお店を後にした。



 母さんは俺が親父に似ているから引き取るつもりがなかったそうだが、数年の間にそういった考えも改まったのだろうか。少なくとも今日の母さんの反応は愛する息子に対するそれだと思う。だったら親父の事も嫌ってはいないのではないだろうか、本当にヨリを戻して、家族皆で幸せに暮らせる日が来るのかもしれない。そのためには俺とさなぎが頑張らないとな。


今更だけどこの話を金曜日、さなぎがデートする回を木曜日に持っていくべきだった><

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