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5月3日(木) 鷹有大砲、デートする

ゴールデンウィークで休日ということで、

木曜日ですが水曜日編のキャラの話になってます。

 5月3日、木曜日。ゴールデンウィークの始まりだ。


 僕、鷹有大砲はサングラスをかけてアパートを出る。

 今日はバイト仲間である小田垣神音とプールでデートをする予定だ。

 正直、休日に家を出るなんて普段の僕じゃ有り得ない。

 なるべく僕の能力を軽減するため、似合わないサングラスをわざわざ買ったのだ。

「やだ、あの子似合っていると思っているのかしら?」

「顔を隠して強盗でもするんじゃないの?通報したほうがいいのかしら」

 アパートを出て5秒で近所の主婦の話の種にされる。

 まあ、こうなることは予想はできていたし、むしろいつもよりマシな反応だ。

 これからはサングラスを常時着用しようかな…



「うっす…え、何それ。似合ってると思ってるの?」

「ゴールデンウィークにプールだなんて人が多いに決まってるからな、なるべく周りに迷惑はかけたくないんだ」

 集合場所の駅にはすでに神音が待っていた。私服の彼女を見るのは初めてだ。

 僕は女の子のおしゃれには詳しくないが、センスがいいと思わせるだけのものはあった。

「それじゃ早速行こうか。…サングラスは外してよ」

 しぶしぶサングラスを外し、切符を買って駅のホームへ。

 なるべく人のいないところを選ぶが、すぐに周りに人が集まってくる。

 そしていつものように僕への悪口が聞こえる。

 そうだ、神音は周りに人がよってくる能力を持っていた。

 よくよく考えれば、周りに人がよってくる神音と、周りの人に嫌われる僕。

 相性は最悪じゃないか。

「そ、その…すまん。これでも極力抑えてるつもりなんだ…」

 神音もそのことに気づいたのか申し訳なさそうだ。

 ともあれ電車が来たので乗りこみ、空いている席に二人で座る。僕達の周りには誰も座ろうとしない、恐らくは僕の能力のせいだろう。

「おお…すごいな、私いつもぎゅうぎゅう詰めになるのに。お前の能力が勝ったか」

 そんなことで能力を褒められても嬉しくはないのだが。

「そういえば、昔よく電車の外に忍者を走らせていたよな」

 昔を懐かしむように神音は窓の外を見るが、

「そんな事した覚えがないよ」

 そんなに電車に乗った覚えもないし。

「はぁ?お前人生の2毛くらいは損してるぞ?今すぐ忍者を走らせろ」

 こいつが毛という単位を知っているのは驚きだが、言われるままに窓の外のビルに忍者を走らせる。

「ようこそ…忍者の世界へ…」

 窓の外の忍者が話しかけてきた。いかんな、僕も幻聴が聞こえるようになったのか。

「その表情、お前も聞いたようだな…声を。まさかこんな近くに選ばれし者がいるとは」

「やめろ、そういうのは」

 そういう厨二的なものはそろそろ卒業しようと思っているんだ、まあ僕達リアルに能力持ちですけどね。

 そうして僕達はプール近くの駅で降りて歩くこと5分、目的のプールに到着した。

 流石はゴールデンウィーク、人が多い。僕はポケットから耳栓を取り出して装着。

「お、耳栓するなんて泳ぐ気まんまんだな」

 神音は感心しているが、実際には悪口をシャットアウトしたいがためにつけているのだ。



 更衣室で別れて水着に着替える。といっても男の水着なんてパンツ一丁と大差がないけれど。

 鏡で自分の水着姿を確認。しかしまあ貧弱な体をしている。ずっと引きこもってギャルゲーばかりやってきたから当然か。

 そして残念ながら所々両親に受けた虐待の痕が目立って痛々しい。刺青と間違われてプールに入れない、なんてことになったら辛い。

 更衣室を出ると既に神音が待っていた。

「おう!…貧層な体してるな、肉を食え肉を!」

 虐待の痕になんて全く触れない、これは彼女の優しさなのだろう。だったら僕ももう触れない事にする。彼女の水着姿をまじまじと見つめる。さらしみたいな水着だな。それにしても…

「お前も人の事言えないじゃないか、普段パッドでも使ってやがったな」

「て…てめー…人が折角気を遣ってその痛々しい痣はスルーしてやったっていうのに」

 ははは、本当に高校生か?僕のようが胸があるんじゃないか?ってくらいに貧乳だ。

「こ、これは水着の構造上小さく見えるだけだから、おしゃれ重視でこれにしただけだから」

「ははは、それをつけたって貧乳であることは隠せないよ」

 大きく見せることよりも、さらしでああ、貧乳に見えるだけなんだなと思わせる女の子の気持ちが少しだけ理解できた。そして女の子にそういう事を言うと思い切りビンタをされる事も理解できた。



「さて、とりあえずどこ行く?」

 人を思い切りビンタして5秒でこのセリフが出せるのはすごいと思う。

「僕はここのプール初めてだからよくわからん」

「ふふん、しょうがないな。それじゃあアタシがエスコートしてあげよう」

 無い胸を叩くのは見ていて辛いからやめろ。



 さてまずは流れるプールへ。

「流される人生なんて願い下げだ!アタシは運命に反逆する!」

 厨二病がまだ治っていないこの女はそう言いながら流れに逆らって泳ぎだす。

 流れるプールで泳ぐのってかなり迷惑な気もするが、いいのだろうか。

 人生なるようにしかならない、僕は流れに身を任せよう。浮き輪に寝転がってぷかぷかと。

 しかし能力のおかげか周りに人がいないね、まるで僕が漏らしたようじゃないか。

 しばらく一人の世界を堪能していると、向こうから神音がやってくる。一周したようだ。

「流れに身を任せても逆らっても、結局同じところにいきつくわけか」

「そ、その台詞アタシが言おうと思っていたのに…」



 続いて波のプール。一定時間ごとにビッグウェーブがやってくる。

「おい眼帯、お前ポロリを期待してるだろ、このエロガキが」

「ポロリするほどないのに何を言っているんだ?」

「てめえのをポロリしてやろうか?」

 全く下世話な女の子だ。二人で言い合っていると丁度時間がきたようで、ビッグウェーブがやってくる。

「乗るしかない、このビッグウェーブに!」

 そう言って神音は波に立ち向かい、ぶべっと言い残して浚われていく。水をかなり飲んだようでゲホゲホといいながらうずくまる姿は何となく愛らしい気もする。



「よし、そろそろ飯にしようぜ」

 了承を得ることなく神音は既に手にはやきそばとソフトクリーム。いつのまに買ってきたんだ。

「やきそばとソフトクリームって酷い食べ合わせだな」

「な、何だと?海と言ったらやきそばとソフトだろ!意外とイケるぞ?」

 ここは海じゃないし。立ったまま器用に片手で焼きそば、片手でソフトクリームを食べる彼女の姿を見ているとお腹が減ってきたので僕も焼きそばを買って食べることに。

「なんだその焼きそばは、具が全然入ってないじゃないか」

「そりゃ僕は店員にも嫌われるからね、こんなもん慣れっこだよ」

 この間同級生の要桃子さんが、いつも店員におまけされるよと話していたのを聞いたが、僕はその逆というわけだ。

「やれやれ、しょうがないな」

 そう言うと彼女は自分の焼きそばを箸で掴んで僕の口元へ。

「はい、あーん」

「お、おい…」

「一応デートなんだからさ、それっぽいことをしないとよ、おら食え!実を言うと気持ち悪くてもう食べたくないんだよ」

「ソフトクリームと一緒に食べようとするからだろ!」

 結局彼女の分まで焼きそばを食べる羽目に。



「ふはははは!やっぱりプールと言ったらウォータースライダーだな!」

 食事の後にあんな激しそうなウォータースライダーに乗って大丈夫なのだろうかという僕の不安などいざしらず、神音は階段を駆け上がる。僕も諦めてそれに続く。

 滑り口まで来ると、神音が棒立ちになっていた。滑らないのだろうか。

「後もつかえてるんだ、早く滑りなよ」

「が、眼帯。アタシ大事な事を思い出した」

「大事な事?」

「アタシ高所恐怖症なんだよね」

 そう言う彼女の顔は青ざめている。確かにここのウォータースライダは本格的で高度差もかなりある。高所恐怖症からすればこんな高い場所から滑り落ちるというのは怖いのだろう。

 うん、たまにはいじわるするか。

「そうか、頑張れ」

 僕は彼女を滑り台へと突き落とす。悲鳴と共に彼女は滑り落ちていった。

 さて僕も滑るとしよう。



「て、てめー…アタシ本当に怖かったんだからな」

「いやあごめんごめん、ついつい心の中の加虐心が目覚めて」

 ウォータースライダーで神音の精神がかなり疲れてしまったようなので、休憩をとる。

「突き落とす奴があるかよ?アタシか弱い女の子なんだぞ?」

「だからごめんって、こうしてソフトクリームおごってるじゃないか」

 ベンチに座って本日二つ目のソフトクリームを頬張るもご機嫌は斜めのようだ。

 やはりギャルゲーをやりこんでも現実の女の子の扱いは難しい。



「やあ、神音ちゃんじゃないか」

 と、気が付けば見知らぬ男が前に現れる。高身長で体格もよく、かなりのイケメンだ。

「松下先輩、奇遇ですね」

 どうやら神音の高校の先輩らしい。

「いやあたまには逆ナンでもされてみようかとプールに来たんだけどね、まさか神音ちゃんがいるなんて、どう?一緒に泳がない?」

 どうやらこの松下先輩とやらは神音を気に入っているようだ、こんなイケメンに言い寄られるとは、神音がモテるというのはどうやら本当らしい。

「お誘いは嬉しいですけれど今デート中なんで、すいません」

 と、神音は僕を指差す。すると松下先輩は驚いたように僕を見る。

「へ?この男と?ははは、いくら僕と泳ぎたくないからってそこらへんの男を勝手に彼氏にしちゃあこの人も可哀想じゃないか、嫌なら嫌って言っておくれよ」

 僕と神音がデートに来ているなどとてもじゃないが有り得ない、格が違うと言いたげだ。

「いえいえ、本当にこいつとデート中なんですよ」

 神音がそう言うと松下先輩は僕を指差して笑い出す。

「ははははは!いやごめん、可笑しくて笑ってしまったよ。神音ちゃんが?この気持ち悪い男と?全く悪い冗談だね、ああひょっとして何かの罰ゲームでやらされているのかい?全く神音ちゃんも可哀想にね、君は逆にラッキーだね、神音ちゃんとデートができるなんて。これから先一生ないようなイベントだ、精々楽しんでくれたまえよ」

 全く酷い言われ様だがこんなもの慣れているから別に何ともないねと強がっていると、神音が松下先輩の元に歩み寄り、



 強烈なビンタをお見舞いする。昨日の朝や今日僕にお見舞いしたのよりずっと強烈なやつだ。

 松下先輩は腫れた顔を手で抑えつつ、神音を睨む。

「い、痛いじゃないか!僕の顔に傷をつけるなんて酷いじゃないか!」

「すいません先輩、でもデート相手をそこまで扱き下ろされて黙っていられるほどアタシは白状な女じゃないんですよ、訂正してください。アタシは罰ゲームでこいつとデートしているわけではありません。後こいつに謝ってください」

 キツネさんに無理矢理させられたデートなのだから罰ゲームでも間違ってはいないと思うのだが、一体何で神音はそんな事で怒っているのだろうか。

「て、てめえ…人が下手に出てれば…どうしてくれるんだよおい!俺の顔に真っ赤なもみじ!こんなんじゃ恥ずかしくて誰ともデートに行けないじゃないか!」

 神音の手を掴んで怒鳴る松下先輩。かなり逆上している、このままじゃ神音が暴力を振るわれるかもしれない。僕の目でこの状況をどうにかすべきかと考えたが、半径2、30mくらいの一般人にも被害が及んでしまう。

 しかし神音は怯むことなく相手を睨み返す。

「そんな事知りませんよ、で、どうなんですか?訂正してこいつに謝ってくれるんですか?」

「謝る?はん、何でこの僕がそんな男に謝らなければいけないんだ?むしろこの男を見ていると無性にイライラするんだ、僕の方こそ謝って欲しいくらいだよ」

「そうですか、じゃあ無理矢理にでも土下座させますね」

 言うや否や神音は松下先輩の股間に膝蹴りをかます。ミシッという痛そうな音の後に松下先輩はその場に崩れ落ちた。激痛で言葉を発する事も出来ない彼をよそに、

「まあ、これで見た目は土下座っぽくなったっしょ、行こう」

 神音は僕の手を取り走り出す。



 幼稚園児が保護者と遊ぶような子供用プールに僕達は足をつけて座っていた。

「…ごめんな、アタシのせいで」

「いや、神音こそ大丈夫なの?先輩なんだろう?」

「どうせ前々から嫌いだったし、別に?」

「だからって何であんなに怒ったのさ、実際罰ゲームみたいなもんじゃないか」

 神音ははぁ?と呆れたようにこちらを見てくる。

「…本当に罰ゲームだと思ってたらアタシは問答無用でブッチするよ、そういう女だよ」

 これだから男は…と手でやれやれのポーズを作る。

「…アンタは罰ゲームだと思ってたの?」

「いや、全然?」

「ふーん、神音ちゃんとデートなんて最高でごわすってこと?」

 なんだその口調。

「さて、もう一泳ぎしますか。行くよ」

 立ちあがってこちらに笑みを向けると、再び神音は僕の手を取り走り出す。

 その後くたくたになるまで泳いだ。周りが僕に嫌悪感を抱いて悪口を言おうと、僕も神音も気にしない。二人の世界を作っていった。



「いやー泳いだ泳いだ。痩せるかな?」

 閉館時間まで居座ったためにプールを出る頃には夜も遅くなっていた。

「これ以上痩せたら胸が凹むんじゃないか?」

「ふふふ、殴るよ?」

「殴ってから言わないでよ」

 行きと同じように駅に行って電車に乗って最寄の駅に。

 窓の外では忍者が今日くのいちとデートだったんだけど美人局だったんだよ…とよくわからない事を呟いているが幻聴だ、無視しよう。



「それじゃ、アタシはこっちだから」

 最寄りの駅について歩き、別れ道で神音はそういう。

「今日は楽しかったよ、本当に」

 お世辞でもなんでもなく今日は楽しめた。

「ニヒヒ、アタシも結構楽しめたよ。まーお前がどうしてもって言うなら、今度またデートしてやるよ、罰ゲームでもなんでもなくな」

 ニンマリとした顔をこちらに向けると、彼女は去って行った。



「ただいま」

『おかえりなさいませ。デートは大成功だったようですね』

「ひょっとして見てたの?」

『いえ、顔を見ればわかりますよ』

 アパートに戻った僕を見るなりガラハちゃんはそんな事を言う。

 そんなに顔に出ていたのだろうか?

 僕はガラハちゃんにデートで起こった事を話す。

「…ってことがあったんだ?全く何であんなに怒ったんだろうね、あいつは」

『そうですね、ご主人は今すぐ死ぬべきですね』

「何で?」

 これだから男は…とペットのカラスにまで言われてしまう。

 どうやらまだまだギャルゲーをプレイして女心を理解しなければならないようだ。

 あ、キツネさんに頼まれていたお土産すっかり忘れてた。


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