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5月1日(火) オリエンテーション1日目(下)

 さて、脅かし役と脅かされ役は交代。次は私達が脅かされる番だ。

 しかし既に私、彼岸優は腰が抜けていた。脅かし役をやっている途中突然爆竹が投げ込まれたのだ。びっくりして思いきり金切君に抱きついてしまった。その後金切君は私をおんぶして運んでくれた。ラッキー?

「もう大丈夫?そろそろ俺達の番だけど」

「…うん、歩ける」

 折角金切君とペアになれたのだ、肝試しを盛大に利用してやる。

 ちなみにくじは細工がされていたらしい。またヒナの仕業なんだろうか。

 時間が来たので金切君とコースを歩きだす。この肝試し、前半だけで既に3組もカップルができたのだという。神様(クラスメイト?)が与えてくれた大チャンス、これは私も勇気を出すべきなんだろう。

「か、かかかか金切君、てて、手つないでいいかな?や、やっぱり怖くて」

 顔を茹蛸にしながらも言った!言ってやった!今日の私は最初からクライマックス!

「はは、優がそんなに怖がりだなんて知らなかったよ、ほら」

 そう言うと金切君は私の手を掴む。来た!来ました!ハッピーエンド確定!

 手をつなぎながら歩いていると蛇のおもちゃが投げ込まれる。正直言って全く怖くない。しかしチャンスはモノにしたいといけない。

「きゃっ蛇!怖い、助けて!」

「ゆ、優。あれはただのおもちゃだって」

「え、そうなの…?あはは、ごめん、抱きついたりしちゃって」

「べ、別に構わないけどさ…」

 例え怖くなかろうが今日の私は超怖がりな女の子!プライドも何もかも投げ捨ててスキあらば金切君に抱きついてやる!

 こんにゃくが飛んでくる。今時ベタな…

「ひぃ!何かぬめっとしたものが!怖い、助けて!」

「はは、こんにゃくだよ」

 布を被ったお化けが出てくる。ちょっと怖い。

「きゃあああ!お化け、怖い!」

「あはは、怖がりだなあ優は。どう見ても布被っただけだろ?」

 調子に乗るなブリっ子が!と女の子の声がしたかと思うと、大量の爆竹が飛んでくる。

 大量の爆音で再び私と金切君は悲鳴を上げてしまう。そして再び私は金切君におんぶされるのでありました。めでたしめでたし?



 ◆ ◆ ◆


 二人で道を歩いていると、突然蛇が出てくる。

「あ、蛇…おもちゃだった」

「そう」

 その後二人で道を歩いていると、こんにゃくが飛んでくる。

「ふん」

「うぎゃっ」

 秀さんの方にそれは飛んできたが何事もなかったかのようにそれを避け、それは俺の顔面にぶちあたった。

「ぐおおおおおおおっ」

「あぁ?」

「ひぃ…す、すいませんでした」

 布を被った脅かし役が出てくるが、秀さんが一睨みするとそれはそそくさと森の中へ消えた。

 俺、底野正念は運命のいたずらか肝試しも秀さんとペアを組むことになり、現在は脅かされる役として肝試しコースを二人で歩いているのだが、やはりというかなんというか秀さんは怖がらない。そして俺もあまり怖がりなタイプではない。なんというか肝試し甲斐がない。

「秀さんは怖いものとかあるの?」

「あるとして何であなたに教えないといけないんですか?」

「あはは…」

 そして会話もつながらない。さてさてどうしたものか。

「そういえばさっき優さんが今日の朝一緒に歩いていた男におんぶされながら恍惚の表情でいたよ。彼氏かな?」

「あれは単なる片想い…いや、どうだろうな。私にもわからないよ」

 どちらにせよ二人の距離は肝試しで近づいたのだろう。俺もそうなりたいものだが…

「…火薬の匂いがしますね」

 秀さんは立ち止まってくんくんと辺りを嗅ぐ。

「そうなの?俺は匂わないけど、すごい嗅覚だね、犬みたい」

「…お望みなら噛みつきましょうか?」

「冗談冗談、で、なんで火薬の匂いがするんだろうね?」

 日頃の恨みを晴らす時だ!チビれ!と声がしたかと思うと、俺達の前に何かが飛んできた。

「ほいっと」

 その飛んできた何かを瞬時に秀さんはキャッチして投げてきた方へと投げ返す。

 直後爆音が鳴り響く。音から察するに爆竹か何かだろう。

「ひええええええっ!」

「うぎゃああああ!他のにも誤爆した!熱い、熱い!」

 何やら大惨事になっているが、秀さんは特に気にすることなく先を急ぐ。俺も後に続く。

 しかし怖いほどに冷静だな、秀さんは。

 …どうにかして秀さんを怖がらせることはできないだろうか。

「秀さん、折角だし怖い話でもしようよ」

「…好きにすれば?」

 よし、食いついた。

「…あそこのゲームセンターのトイレ、いつ行ってもトイレットペーパーが三角に折られてるんだよね…」

「…それ怖い話なの?」

「え、怖くない?不気味だと思うんだけどなあ…じゃあ次は秀さんの番ね」

 面倒くさいなあとため息をつきながらもどうやら怖い話がないか思い出しているようだ。なんだかんだ言って付き合ってくれる当たり秀さんは優しい。

「夜な夜な糞姉の部屋から、金切君、駄目だよそんなとこ…とか、優しくしてね…とかあえぎ声がするのよね」

「それどちらかと言うと猥談じゃん!ていうかやめてあげてよ他人にそんな事言うの!姉妹の秘密にしておいてあげてよ!」

 平気で姉妹の性活を晒すとは何て恐ろしい女なのだろうか…

 その後も怖い話を交互にするが、秀さんは全然怖がってくれないし、逆に秀さんは他人のプライバシーをペラペラと喋る。気づけばもう少しで肝試しのコースも終わるところだった。

 何か最後に…そうだ。



「秀さん、この写真なんだけど」

 俺はとある一枚の写真を取り出す。肝試しの前に名前は忘れたが番長の兄に貰った一枚だ。

「…いつの間にそんな写真撮ったんですか」

 窓の向こうで秀さんがポッキーを舐めてプリッツにしようとしている写真だ。奥には普通にポッキーを齧っている自分も映っている。

 どうやら秀さんはこの写真の恐ろしさに気づいていないらしい。

「俺が撮れるはずないじゃないか。秀さん、この写真どこから撮ったと思う?」

 数秒の間の後、えっ…と彼女は漏らす。ようやく彼女もこの写真の怖さに気づいたようだ。

 この写真、どう見てもバスの外から、それも至近距離から撮っているのである。

 流石に秀さんもこの写真の気味悪さに気づいたようで、顔面が蒼白になる。ついでに俺の顔も真っ青になる。改めて見ると怖い。番長の兄は何者なんだろうか?

 そして秀さんは固まってしまう。頭が良いが故にこういうオカルトめいたものは苦手なのだろう。ますます秀さんが可愛く見えた。まあ俺も怖くて固まってますけどね。



 ◆ ◆ ◆



「ねえ、流石に可哀想じゃない?」

「店長、これもアイツのためなんです。アイツを犯罪者にしたくないんですよ、アタシも」

 もうすぐ0時になる。僕、鷹有大砲は現在バイト仲間の小田垣神音、店長のキツネさんと共にバイト先でお泊り会中だ。案の定キツネさんが大量に買ってきた油揚げをカレーに入れたら意外と美味しかったのは新発見だろう。その後はお風呂に入り(勿論一緒に入るとかそんなイベントはありません)、トランプをして、就寝するところなのだが…

「犯罪者はお前だろうが人を縛りやがって…」

 問題は僕が縄で縛られて身動きが取れないことだ。

 こいつ本当に寝る時に僕を縛りやがった。

「黙れ!店長は味わったことないからわからないんです、こいつの恐ろしさを。こいつが両目を開くだけでアタシ達は泡を吹いて気絶しちゃうんですよ?そしたらこいつのやりたい放題じゃないですか!ああ恐ろしい!」

「大砲ちゃんがそんな事するようには見えないけれど…」

「店長は男を知らなさすぎです、将来悪い男に捕まりますよ?街とか歩いててナンパされてほいほいついて行かないか心配です…。男は皆ケダモノなんです、高校生にもなって自分を僕とか言って草食系アピールしてそうなこいつだって例外じゃありません!」

 いるよね、自分は男を知ってますアピールしてる女って。

 確かに僕はギャルゲーとかしまくってるし、キモオタだ、犯罪者予備軍だと呼ばれても仕方のない所もあるかもしれない。だからってこの仕打ちはないんじゃないかな?

「別に草食系アピールで一人将が僕なわけじゃねーよ!」

「シャラップ。キツネさんはこいつの能力に毒されて同情的なんすね、だったらこれでどうだ」

 神音は縛られてる僕に歩み寄って、包帯を僕の目に巻きつける。これで両目が塞がってしまい、何も見えない状態だ。

「これでこいつの能力がほぼ無効化されてキツネさんの目も醒めたでしょう」

「…うん、そうね。確かに男の子と一緒に寝るのは危険よね」

 ああ、優しかったキツネさんが突如こんな事を。所詮能力がなければキツネさんは僕の事を何とも思っていないのか、わかってはいたけど悲しいものである。ていうか店長性欲を倍増させる薬とか好きな人の幻覚見せるアロマとか取り扱っておきながら男の子と一緒に寝るのは危険よねっておかしくないですか?

「ささ、店長。あいつの事はほっておいて、ガールズトーク楽しみましょう」

 結局目隠しをされて身動きも取れないまま、彼女達のお喋りを聞く羽目になった。

 なんで女の子というのはこうつまらない話ばかりするのだろう、気づけば眠りに落ちた。



 ◆ ◆ ◆



 午前0時半。俺、十里なぎさと要さんは教師用の部屋に呼び出されていた。

 さなぎ?あいつならグースカ寝てるだろうよ。

「全くおめーらはよぉ、森が火事になったらどうすもりだったんだ?あぁ?」

 いつもは女のケツばかり眺めてる体育教師も竹刀片手にキレ気味だ。

 俺と要さんは肝試しで爆竹を大量に使ったことで怒られたというわけだ。

 まあ、冷静に考えれば当たり前である。

「申し訳ありませんでした」

「ぐすっ…ごめんなさい、なぎさちゃんに脅されてたんです私」

 あれ、これは俗に言うブリっ子ってやつではないですか?ブリっ子を批判してませんでしたか?そして何当たり前のように俺を売ってるんですか?

「おいこら要、世間の男子は騙せても俺は騙せんぞ、何年女を眺めてきたと思ってんだ」

「うぐ…ごめんなさいどちらかというと私の方がノリ気でした」

 この教師がすごくカッコよく見えるような気がする。後半の発言がなければ。

「ったく…まあ俺も若い頃はヤンチャしてたから人の事言えんけどな、まあ怪我がないようで何よりだ」

 彼岸妹を驚かすために投げた爆竹を投げ返されて、それが残りの爆竹に誘爆し危うく要さんに怪我を負わせるところだった、猛省してます。

「つうか何でお前らこんなことしたんだ、そもそも爆竹なんて持ってくるな」

「花火しようと思って持ってきたんです、男女がいちゃいちゃしてるのを見たらイライラしてやった。反省はしています」

「右に同じです、ごめんなさい」

「ああ…気持ちはわかるよ…と言うと思ったら大間違いだ貴様ら!なあにが男女がいちゃいちゃしてるのを見たらイライラしただぁ?俺から見ればお前らもイチャついてんじゃねーか!大体校内でもトップクラスの人気を誇る要と十里の御曹司なんてその気になればいくらでも恋人をとっかえひっかえできるだろうが!くたばれやリア充!帰れ帰れ!」

 どうやら触れてはいけないものに触れてしまったようだ。俺と要さんは部屋から追い出され、やがて教師のすすり泣く声が聞こえる。とりあえずは説教が終わったようだ。



 とりあえず要さんをテントまで送ることにする。

「まったく、なぎさちゃんのせいで怒られちゃいました」

「本当にごめんなさい」

「謝らないでください、八つ当たりしただけですから。私も十分悪いってわかってますから」

 だがまあ割合で考えると8割は俺が悪いだろう。

「…怒られちゃいましたけど、何だかすごく心が晴れました。今まで悪い事なんて全然してこなかったから、その反動でしょうか。ひょっとして私叱られたかったのかな」

「ああ…俺のせいで要さんがさなぎみたいなヤンキーに…」

「なりませんよ、ていうかさなぎちゃんって本当にヤンキーなんですか?」

「どうなんだろうなぁ…」

 金髪にピアスという外見を見るに、形から入ったけど中身は伴っていないんじゃあないだろうか。服装こそ乱れているが特に学校で問題を起こしているわけではないし、むしろ教師に対する態度は礼儀正しい程だ。強いて言えば学校で倒れて保健室に運ばれ過ぎだが。

「しかし参ったね、教師に目をつけられちまったから明日のキャンプファイアーで花火がし辛くなっちまった」

「…そういえばなぎさちゃん、意外と男らしいところあるんですね」

「唐突になんのこったよ」

「爆竹投げ返されて誘爆した時、私が怪我しないようにかばってくれたじゃないですか。ただのセクハラ野郎かと思ってたけど、ちょっぴり見直しました」

 正直覚えがないのだが、無意識に彼女を守っていたのだろうか。

「ま、怪我とかがなくてよかったよ。これで要さんの顔に火傷の痕でも残ったら取り返しのつかないとこだったからね」

 ふふ、と要さんはほほ笑む。何だか上機嫌そうだ。

「そしたら責任取ってくれましたか?」

「せ、責任って」

「やだなあ、私の口から言わせるつもりですか?恋愛小説とかでもあるじゃないですか、女の子に傷を負わせてしまった責任を取って結婚する話とか。何だかロマンチックでいいですよね」

 そう言うと彼女はうつむいてしまう。

 可愛い女の子にこんな事を言われて動揺しない男がいるだろうか、いやいない。

 自分の顔が赤くなっていくのがわかる。これはあれか、要さんを守ったことで好感度が爆上げになり、今まさに告白しようとしているのでは!いや、待ちの姿勢じゃ駄目だ。こっちから告白するべきだろう、行くぜ皐月のアバンチュール!

「お、俺、実は…」

「ぷっ」

 要さんがそこで笑い出す。どうやらうつむいていたのは笑いを堪えるためだったようだ。

「あははははっ、冗談に決まってるじゃないですか。本気にしちゃいましたか?」

「……」

 ドッキリ成功、と上機嫌な彼女と対照的に今の俺は魂を抜かれたも同然だ。

「それじゃ、送迎ありがと。おやすみ」

 彼女はふふっ、と微笑んで自分のテントに戻って行った。小悪魔どころじゃない、悪魔だ。


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