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4月27日(金) 十里なぎさ、カラオケへ。

 4月27日、金曜日。


「いってきまーす」

 パパとママに挨拶をして家を出る。早いもので高校生活も3週間が経とうとしています、要桃子です。

 物の売れ行きというのは大抵初動が大半を占めるもので、私に告白してくる人間も今となってはいなくなりました。やっと私はあの告白をフリ続ける苦しみから解放されたのです。

 駅へ行き、電車にゆられて高校近くの駅へ。



「そ、それじゃあアタシは行くから、またバイトでな」

「あ、ああ」

 駅を出ると一組のカップルを発見しました。鷹有大砲君とその彼女さんらしき人です。

 二人とも何だかもじもじしてて付き合いだしたカップルみたいで初々しいですね。

 彼もまた、周りに嫌われ続けるという苦しみから解放されたのでしょうか。何かドス黒い物がこみあげてきます。これは嫉妬なのでしょうか、彼の嫌われオーラのせいなのでしょうか。

 私だって喋れる異性くらいいます。…なぎさちゃんとか。

 私だって友達たくさん欲しいです。でも同姓は私と一緒にいると比較されて嫌みたいだし、異性に友達になりましょうとか言ったら勘違いされるのは目に見えてます。

 やっぱりきっかけというのは大事ですね、さなぎちゃんが隣の席でなかったら、図書委員の相手がなぎさちゃんじゃなかったら、私はまだ独りぼっちだったかもしれません。

 欲を言えば、なぎさちゃんみたいなセクハラ野郎じゃなくてもっとまともな男子と知り合いになりたかったけど、選り好みできる立場じゃないということはわかってます。

 世界中に男が1人しかいないなら、その人を愛するしかないんですよ。いやまあ同性愛ってのもあるけどね。

「なーお」

 鳴き声に横を向けば、可愛い可愛い猫ちゃんが。そうだ、何も友達は人間でないといけないという決まりはない。動物と友達になってもいいじゃないか。私は猫を触ろうと近寄るけれど、

「フー!」

 思いきり威嚇されてしまいました。猫は前を歩く鷹有君の方へと駆け寄り、彼の脚にすりすりします。私は動物と友達になることもできないのでしょうか…

 私の中のドス黒い物はどんどん大きくなっていきます。前方の鷹有君を睨みつけます。私の嫉妬パワーで不幸になってしまえ!

 私の嫉妬パワーを感じ取ったのか鷹有君はこちらへ振り向いてきました。そして彼は右目を見開きます。するとどうでしょう、おぞましいものが私の中になだれ込んできました。

「ひぃっ…」

 恐怖に駆られ、情けなく悲鳴を上げてしまいます。彼への嫉妬なんて吹き飛んでしまいました。

 前から彼は人間に嫌われるオーラを持っていると思っていたけれど、どうやらその秘密は目にあったようです。彼が両目を見開けばきっと私は泡を吹いて倒れてしまうでしょう。

「今日は一人になりたい気分だから、後ろのお姉さんと遊んでおいで」

 彼がそういうと、猫はこちらへと駆け寄ってきて私の足にすりすりしてくる。私は彼に同情されたんでしょうか?



 猫を愛でているうちに学校へつきました。名残惜しいですが猫と別れ、自分の教室へ。

「おはよう…」

 クラスで友人と言える唯一の女の子、稲船さなぎちゃんはなんだか機嫌が悪そうです。長身でカッコいい姿も三十路のOLみたいになってしまっています。

「おはようさなぎちゃん。どうしたの?」

「今日はあの日なんだよ…」

「ああ、辛さは個人差らしいね。私はあんまり酷くないけど…っ!」

 ようやく失言だったことに気づく。学年の中でもトップクラスの美少女である私達が朝からこんな下世話な会話をすれば当然クラスの男子は興奮してしまう。恥ずかしくなって私は赤面するが、さなぎちゃんは全く気にしていないようだ。その大らかさは見習いたい。



「いただきまーす」

「いただきます」

 4時間目も終わり、私はさなぎちゃんと学食で昼食をとる。

 授業中よく眠ってしまうのだけど、先生も周りも起こしてくれない。違うんです起こして欲しいんです授業についていけないじゃないですか…

 親にまさか「教室で一緒に食べる友達がいないから学食で食べる」とは言えず、「お弁当作るの大変でしょう?学食でいいよ」と出来た娘を演じて現在は学食通いだ。

 親にお弁当を作ってもらえない子はたくさんいるのに、友達と一緒に食べたいという理由でお弁当を拒否するのはバチ当たりな気もするが、それでも私は寂しいんです許してください。

「それにしても金曜日はいつもお兄ちゃんいないんだよな、何やってんだろ」

「噂だけど…この時間帯は写真販売会があるらしいよ。女の子の恥ずかしい写真買うなんて最低ですよね」

 どうやら毎週金曜日のお昼には秘密の写真販売会があり、そこで女の子の恥ずかしい写真が売られているらしい。私もどうやら被害にあっているらしいが、有名税と割り切るしかないのだろうか。

「お兄ちゃんの場合は写真買うどころか盗撮して売ってそうだな…お兄ちゃんだし」

 そういえばさなぎちゃんの兄であるなぎさちゃんにはパンツを見られてしまったことを思い出す。寝起きの写真とかならまだ許せるが、もしパンチラ写真とかが出回った日には流石の私もショックで寝込むかもしれない…


 ◆ ◆ ◆


 さて、授業おしまい。図書委員の仕事をせねば。俺、十里なぎさはいつも通り図書室へ向かう。

 図書委員の仕事もこれで3度目になるが、今日は相方が先に来ていた。

「…今日はどんな写真が売られてたんですか」

「君が猫を抱いてる写真や、さなぎがコケてる写真とかが売られてたよ」

 図書委員の相方は学年一の美少女だと名高い要桃子さん。外見が可愛いだけでなく中身もアホと男の保護欲を最高に引き立てる。定位置に座って早速図書委員の仕事を開始。要さんが仕事をしているところを見たことはないが、まあ可愛いから許される。

「写真を撮られた覚えがないんですけど、どうなってるんでしょうか…」

「噂では魔法のカメラがあって、自動で女の子の写真が出てくるらしい」

 要さんの血の気が引いていくのがわかる。そりゃあ女の子からすれば防ぎようのない盗撮なんて恐ろしいだろう、可哀想に。

「ってことは着替え中の写真とかも出回ってるわけですか…?」

「安心しなよ要さん。主催者によると日常の中に潜むエロスが目的らしいからそういった写真は絶対に撮らないそうだ」

 まあ下手なパンチラとかよりもバナナをくわえる写真とか水を飲む写真の方がよっぽど恥ずかしいとは思うけれどそれを言うのは酷というものだろう。



「すいません、あそこの本取りたいんですけど届かなくて」

 声の方を見ると小さな女学生(140くらいだろうか)が高い所にある本を取れずに困っている。

「ああごめんよ、脚立を片づけていたみたいだね、すぐに出すよ」

 背の低い者同士その辛さはわかる。俺は脚立を持ち出して、ピンチに駆けつける。

 女学生が本を取るまで脚立をおさえる。頑張ればスカートの中が覗けそうだが紳士な俺はそんなことしないよ、うん。

「安心できないんですけど…というより何でそんな破廉恥なイベントが普通にあるんですか…?生徒会や先生方は何をしているのやら。なぎさちゃんもよくもまあ妹の恥ずかしい写真を平然と見過ごせますね…はっ、もしかして妹のいやらしい写真をオカズに…ってあれ?」

 カウンターの方では何やら相方が一人芝居をしているが無視しよう。

 女学生に感謝されながらカウンターへ戻ると要さんはご機嫌斜めのようだ。

 図書委員の仕事に相方のご機嫌取りは入っていないはずだが男は辛い。

「よしよし、アメ玉あげるから機嫌治しましょうねー」

「子供扱いしないでください…がりごり」

 アメを1つ渡そうとしたが袋ごと取られてしまった。イライラしてるからって女の子がアメを噛むのはどうかと思うぞ?



 要さんがアメの袋を根こそぎ噛み砕く頃、平和な図書室を脅かす乱入者が。

「これは一体どういうことか説明してもらえるかしら」

 殺人鯉のオーラを放つ暗黒美少女、彼岸秀が気絶した俺の妹…稲船さなぎを抱えてやってくる。

 横には最近彼岸秀と仲の良い少年も一緒だ。

「唐突にこのクソガキに、初日から部活サボるとはいい度胸だな?と言われたのですけど」

 ああ、そういえば妹は昨日行き当たりばったりで部活を作る際、勝手にこいつらを部員として登録していたんだっけな。大方さなぎの事だからそれを忘れてこの2人が自ら入部を志願したと勘違いしてしまったのだろう。アホだから仕方がない。その事を説明すると彼岸妹はさなぎを床に置き、ファイティングポーズを取る。まずい、俺が標的になっている!?

「いやいや話を聞いてたかい?妹が悪いんだよ俺は悪くないよ」

「子供の責任は親が取るべきでしょう?」

「保護者扱いかよ?」

 助けを求めて要さんの方を見るが、

「今日はこの紐で縛って箒で突っつきましょう」

 ノリノリでリンチに参加しようとしている。俺をストレス解消の道具だと思っている節がある。

「そ、それに彼氏さんの目の前で他の男と楽しそうにSMプレイしていいのかい」

 ピンチを抜けるために彼氏さんを引き合いに出す。今日は先週と違って図書室に人が残っている。こんな状況で罪のない男子生徒をリンチする程君たちは愚かじゃないとお兄さんは信じているぞ!

「彼氏じゃないです。…ちゃんとしつけとけ」

 そう言うと彼岸妹は肩を揺らしながら図書室を出て行き、少年は苦笑いしながらそれを追う。

 彼岸妹のカバンに恋愛成就のお守りがついていた気がするのは気のせいだろうか。



「なんとか命の危機は脱したな…って要さん?なんで君は尚も俺を縛ろうとするのかな?」

 一人になっても俺でストレス解消をしようとする要さんを制止し、床に倒れている妹を抱えて、読書用のテーブルに座らせる。多分30分くらいで起きるだろう。

「それにしても彼岸さん彼氏さん?ができてすごく楽しそうですね…羨ましいです」

「へえ、あれが楽しそうに見えるんだ」

 確かに今日の彼岸妹はかなり活き活きしている。中学時代は死んだ魚の目だったが、今は死んだ鮫の目をしている。男ができれば女は変わると言うが、まさか彼岸妹があんな風になるとは思わなかった。

「さなぎちゃんも彼氏とラブラブみたいだし、取り残されていく感が…」

「はいはい恋愛したいけど、私は特別だから安易に恋愛ができないとか言うんでしょう」

「エスパーですか」

「いや2週間前に君が話してたじゃないか」

 返す言葉もないのか要さんは机に突っ伏して寝たふりをしだす。わざとらしくグーグー唸っているのが非常に可愛らしい。

「机が硬い!」

 しばらくして寝たふりにも飽きたのか要さんは顔をあげる。やはり跡ができている。

「確かに異性の知り合いなんてなぎさちゃんしかいませんけどね」

「唐突に何なのさ」

 女の子は突然語りだすからよくわからない。何に対しての確かに、なのだろうか。

「私なぎさちゃんを男としては見てませんから。世界中に男がなぎさちゃんしかいなかったら私は同性愛に走りますから。どうせ変態のなぎさちゃんのことですから妹が友達という接点もあるし、恋人になれるかも!?なんて考えてるんでしょう?残念でした!って聞いてよ…」

 さなぎが涎を垂らしているので拭いてやる。その間に何やら勝利宣言をされたようだが、聞いてもらえずに彼女はかなりの敗北感を味わっているようだ。



「うーんよく寝た。…なんで俺こんな所で寝てるんだ?」

 下校時刻まで後5分というところでようやく愚妹は起きる。

「おはよう。お姫様がぷんぷんでいらっしゃる、宥めてくれ」

 その後も不幸な事に要さんがドヤ顔で話す時は俺は仕事でその場にいないという事が続き、要さんのイライラは頂点に達している。露骨に不機嫌な表情の彼女も可愛らしいのが恐ろしい。

「おう、酷い面だな桃子。でも可愛いな。だがストレスは溜めない方がいい、というわけで今日の部活動はカラオケに行こう」

 カラオケと聞いた途端要さんの表情がパアっと明るくなる。笑顔が眩しいぜ。

「カラオケ!いいですね、実は行った事ないんですよ。行きましょう、なぎさちゃんの奢りで」

「おう、お兄ちゃんの奢りだから料理も頼みまくってやろう」

「今午後6時だぞ…明日休みとはいえ、ちゃんと親御さんに連絡するんだぞ」

 その後学校を出た俺達はカラオケで6時間も歌い(高校生のグループが深夜までカラオケしていいのか疑問だが、ここのお店は寛容だ)、危うく要さんが終電を逃すところだった。

 ちなみに要さんの歌唱力はびっくりするくらい上手かった。まさに天使の歌声と言うにふさわしい。妹は…うん。

「それじゃあ、私はここで。それにしても部活って楽しいですね。今日ばかりはなぎさちゃんにも感謝してあげます…こんな毎日が続けばいいのに」

「またなお兄ちゃん、桃子。何言ってんだ、俺の部活は平日毎日活動予定だ!」

 駅でそれぞれ別方向の電車に乗る要さんと妹を見送る。

 ストレスは解消できたのか、別れ際の要さんは満面の笑みをこちらに向けてきた。どんなストレスを溜めた男も、この笑顔一発でストレスも全て吹き飛ぶことだろう。

 二人を見送って俺もとぼとぼと家に帰ることにする。

 高校生活は始まったばかりだが、なかなかリア充っぽい学園生活送れてるんじゃないか?


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