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4月25日(水) 鷹有大砲、惚れられる

 4月25日、水曜日。


 どうやら恒例のテレパシー少女はデート大成功で、その後の関係も良好みたいだ、おめでとう。

「それに比べて僕は…はぁ…キツネさんはあんなに素晴らしい人なのに、彼女のせいで晒し者になったと思うなんて、どんだけ人間が小さいんだ…こんな僕を好いてくれるのが辛い、僕はキツネさんに見合うような人ではないというのに」

『朝から気持ち悪いですよご主人』

 自室で朝食を食べながらぶつぶつと自虐する僕、鷹有大砲にガラハちゃんは筆談で罵倒してくる。

「…傷ついてる時は優しくするのが女の子の役目でしょ?」

『構ってちゃんは好きではないので』

 意外と手厳しいようで。ま、ガラハちゃんも俺が自分で立ち直ると信頼しての発言だろう。

「ありがとうガラハちゃん、君のおかげで立ち直れそうだよ。それじゃあいってきます」

 朝食を片づけるとカバンを手に取り学校へ出かける。今日は一人で登校したい気分だ。



「あの音ゲー、今日リベンジしに行きましょう」

「負けず嫌いだね秀さんは…」

 通学途中にどこかで聞いた声がしたので声の主を探すと、一組の男女が見つかった。そうだ、この子だ、いつもテレパシーを送っているのは。テレパシーの内容通り相手とうまくやっているようだ、素直に祝福したいが自分の中のドス黒い何かがそれを邪魔する。どうやら嫉妬しているようだ、僕は。これから毎日のように彼女のノロケテレパシーを受信しなければならないのかと思うと腹が立ってくる。彼女は別に何も悪くないというのに。これでは僕を嫌う周りの人間と同じじゃないか。



 自虐モードから立ち直ってまたすぐに自虐モードへ。結局この日は自分と周りにイライラしたまま学校が終わった。きっと周りの人間の僕に対する不快感も普段よりも大きかっただろう、ごめんね。

 さあ、バイトだバイト。もっともこんな気分じゃバイトもまともにできないかもしれないが。



 いつものようにオキツネ魔法具店へ向かう。キツネさんはいないようで鍵がかかっているので合い鍵を使って中に入り、神音が来るまで適当に店内の掃除や品物のチェック。

「よう、なんだなんだ機嫌悪そうだなあ、お前の能力が一段と強くなってるのがわかるぜ」

 しばらくすると神音がやってくる。一緒にアルバイトをしているうちに、僕の能力の強さを感じ取り、機嫌を量るという高等技術を身につけてしまったようだ。

「…何か似たような境遇の子を同情してたら、その子に彼氏ができたみたいでね」

「完全に嫉妬じゃねえか、小さい男だな」

 ケラケラと笑いながら僕の横に立つ。僕は彼女の横顔を気付けばまじまじと見つめていた。

「ん、どうしたよ眼帯。アタシに惚れたか?」



 こないだの件で僕はキツネさんと恋愛なんてとてもじゃないができないと身を以て知った。

 愛があれば立場なんて関係ないと言うが、僕は立場に耐えるだけの強い精神力を持っていない。

 例えキツネさんと僕が恋人になったとして、僕はキツネさんに劣等感を抱きながら、他人に比較されるのを恐れ引きこもるような人間に成り下がるだろう。

 というわけで現時点で僕がまともにコミュニケーションを取れるのは猫とガラハちゃんと神音くらいなもんだが、猫とガラハちゃんはさすがに恋愛対象にしてはいけない。

 そうなると必然的に神音に絞られてしまう。

 神音は美少女と言うわけではないがブサイクと言うわけでもない。見た目だけならどこにでもいるちょっと可愛い女の子だ。彼女とならキツネさんと違って周りに比較されることも少ないだろう。

 つまり神音となら僕はうまくいくのだ。キツネさんもそれを解っていて、僕と神音をくっつけようとしているのだろう。

 神音しか恋愛ができそうな子がいない、と考えると、途端に神音が可愛く見える。

 しかしそれは恋愛としてどうなのだろうか。

 ヒロインの1人しかいないギャルゲー、主人公はその1人のヒロインを攻略せざるを得ない。

 何かが間違っている気がする。神音だって、恋愛できそうなのが自分しかいないという理由で好かれても困るだけだろう。

 僕はどうにかして神音を好きになる理由を探そうとしている気がする。

「そうかもしれない」

「おいおいボケにボケて返すなよな…」



 とりあえず、今は一応バイト中だ。下らない事を考えるのは家でもできる。客は来ないが、きちんとしないと社会に出た時苦労するだろう。

「いやー、新しい音ゲーが出たんだけどさ、かなり難易度が高いんだよな、聞いてる?」

 きちんとしないと。

「そういや店長のスリーサイズっていくつなんだろうな…」

 きちんと…

「ていうかあれから一度もメールとか寄越してないじゃん、メールしろよ!」

「特にメールするような内容ないし」

 まあ、客が来た時にきちんとすればいいよね。コンビニのアルバイトとかお客がいてもぺちゃくちゃ喋るし。

「しょうがない子だねえ、明日から授業中にメール送ってやるからちゃんと返信しろよな」

「真面目に授業受けようよ」

 県内一の馬鹿学校に通う子に何を言っても無駄かもしれないが。それを聞いた彼女はゲラゲラと笑ってレジの上に立ち、謎のポーズを決める。

「勉強なんかして何になる!勉強が役に立つのは将来勉強が役に立つ仕事をする奴だけだ!」

 ごもっともだが、勉強ができることでできる仕事が増えるのだからしておくに越したことはないだろう、特に今は就職難なのだ。

「アタシ達は普通とは違うんだから、能力を活かした仕事をすればいい」

「たとえば?」

 彼女はレジから更に高い商品棚の上にのぼる。馬鹿と煙は高い所が好きというのは本当だったようだ。彼女は再び謎のポーズを決め、

「カリスマ的能力を持つアタシは、人の上に立つ、経営者とか政治家とかが向いている!」

「いや経営者や政治家って滅茶苦茶勉強必要でしょ」

 カリスマだけで勉強できない人が人の上に立つから日本は危ないというのに。神音が総理大臣になった日には日本終焉だ。

「カリスマがあれば有能な人間も周りに集まってくるだろうし大丈夫大丈夫」

 人任せかよ!

「ちなみに僕はどんな仕事が向いているんだい?」

「…キツネさんみたいな妖怪のヒモ?」

「仕事じゃないじゃん…」

 確かにバイトする前はガラハちゃんのヒモみたいなもんだったけどさあ。



 しかし確かに彼女の言うことも一理ある。人間に嫌われるという能力はともかく、人間以外に好かれるという能力を活かした仕事は結構あるだろう。

 ま、何にせよ勉強は必要だと思うけどね。

 レジに置いてある水晶が光る。この水晶はお店に来る人間を写しだすという魔法のアイテムだ。

 欠点はお客さんだけじゃなくてキツネさんや僕達といった店員まで含むことだが。

「さてさて誰かなー、店長じゃない、久々のお客さんだ。お前と同じ高校じゃん」



 神音に続いて僕も水晶を覗きこむと、そこには一人の女子学生が写っていた。

「こ、こいつは…」

 何の因果かテレパシー少女のようだ。朝に姿を確認したから見間違えるはずがない。

「とりあえず人間相手だから僕は引っ込んでおくよ。接客よろしく」

 ヘッドセットをつけてお店の奥へ。お客様に不快感を与えないように最大限店の奥へ行き、ヘッドセットを用いて指示をしたりするのが僕の役目で、実際に人間に接客するのは神音の仕事だ。お店の扉が開き、例の少女が入ってくる。

「へいらっしゃい!」

 神音が元気よく挨拶。寿司屋かよ。

「あの、ここはどういうお店なんですか?」

 神音に吸い寄せられた少女はお店を怪しんでいるようだ。ん?何だか朝聞いたのとは声が違う気がするが…でもあの見た目はどう見ても例の少女だ。

「ここは魔法の道具を売っているお店だよ」

「魔法の道具って…詐欺じゃないんですかそれ」

 確かにセールスマンが家に来て、魔法の道具を売っていると言われたら通報するだろう、誇大広告だと思われても仕方がない。

「あ、信じてないな、それじゃあアタシが魔法でお客さんの事を当ててあげよう(おい眼帯、何か彼女について知っていることとか教えろ!)」

 お客さんに気づかれないように指示を仰ぐが、いくら同じ高校だからって無茶ぶりである。しかし今回に限っては彼女の情報を伝えることができる。日曜日にデートをしたことや、火曜日に一緒に音ゲーをしたことはテレパシーを通じて届いているのだから。どちらかというと魔法を使っているのは彼女なのかもしれない。神音にそれを伝えると、

「うなぎはらみかるび…きええい!お客さんは、そう、日曜日にデートをしましたね。デートは成功し、意中の彼との仲は進展。昨日は一緒に音ゲーで仲良く遊んだ、そうでしょう?」

「いや、それ私の妹の話なんですけど」

 妹?まさか双子だったのか?ドヤ顔で別人の情報を語ってしまった神音は恥ずかしそうだ。

「(おい眼帯お前よくもアタシに恥かかせやがったな)あー、あれだね。姿が似ているから間違えてしまったよ、改めて君は…そう、君は恋をしているね」

「え、どうしてわかったんですか?」

「それは魔法の力だよ」

 すごい…と彼女は感心するが、女子高生の何割かは恋もしているだろう。彼女はきっと血液型診断の本とか買って誰にでもあてはまるような事例にすごい当たってるとか思ってしまう人間なのだろう、将来が心配だ。

「いやあ、私幼馴染の人に恋してるんですけどね、高校生になって同じクラス、隣の席になれたんですけどなかなか距離が縮まらなくて…勿論高校生活はまだ始まったばかりだから悲観にくれる事もないと思うんですけど、やっぱり恋する乙女としては満足できなくて…」

「うんうんわかるよその気持ち。そんなお客さんにオススメの商品は…」

 神音は商品棚からビンを取り出すとカウンターに置く。ハートマークのラベルのピンクの薬。

「…ひょっとして惚れ薬ってやつですか?」

「そうそう、これを飲めば意中の相手に惚れられるよ」

 違う、その薬は相手に飲ませるものだ。自分で飲んだら余計に相手に惚れるだけじゃないか。

「うーん…効果はありそうですけど…やめときます。何かこういうのに頼るのって、フェアじゃないじゃないですか」

 神音の間違った商品説明に騙される事なく少女は正々堂々と恋愛することを宣言。将来が心配だとか言ってしまったが、彼女は恋する乙女の鑑だ。何も心配することはない。

「くう、感動したよ。それじゃあこの恋愛成就のお守りなんてどうだい?菅原道真が恋の応援をしてくれるよ」

 菅原道真は学問の神様だ。

「あ、そういうのだったら…それじゃあそれを2つください」

「2つで600円になります!お買い上げありがとうございやした!」

 お守りを手にし、お店を出るお客さんを神音は見送る。お客さんがいなくなったのを確認して僕も売り場へと戻る。なんだろう、この胸の高鳴りは。



「売れたな…」

「ああ、眼帯がバイト始めてからは初めての売り上げだな」

「なんだか感動するな、働くっていいな」

「そうだな」

 気づけば二人でハイタッチ。苦節2週間、ようやく品物が売れました。

「それにしても、あんな事を言われたらもうこの薬売れないな」

「惚れ薬なんかに頼らずに自分の力で相手を振り向かせる…感動したよアタシ。というわけでこの薬は処分しちゃいましょう」

 お店の売り物をそんな理由で処分するのはアルバイトとしてどうかと思うが、この話をすればキツネさんもきっと涙を流すだろう。

 神音はビンの蓋を開けると、それを一気飲みした。

「って何やってんの?」

「いや捨てるのはなんかもったいないし。アタシもお前のモテモテ能力を実感してみたいしな。というわけでさあ眼帯、アタシに惚れまく…れ…?」

 見る見るうちに神音の顔が真っ赤になっていく。

「惚れ薬って、惚れさせたい相手に飲ませるものなんだけど…」

 一般的な惚れ薬といえば、飲んだら興奮して目の前の人を好きだと錯覚してしまう、というものだろう。そして今ここには僕と神音しかいないわけで…

「うへへへへ、眼帯、お前よく見たらかっこいいな」

「効き目すごいな!?」

 惚れ薬の効果は本物のようで、神音は僕に抱きついてくる。シャンプーの香りがする…

 とか言ってる場合ではない。とりあえずこの状況を何とかしなければ。

 効き目が無くなるまで待つという手もあるがどのくらいで効き目が無くなるのかわからない。

 彼女の惚れ状態を打ち消すくらいの何か…そう、僕の能力をフルパワーにすれば!

「ごめんよ神音。…魔眼、最大出力!」

 僕は眼帯を外し、思い切り目を開く。ついつい厨二っぽい事を言ってしまった。今までの倍どころか数倍になった人間に嫌われる能力は能力を軽減させる彼女ですら惚れ薬の効果を打ち消して尚も釣りが出るほどに蝕み、

「うぎゃあああああああああ!」

 彼女は泡を吹いてその場に倒れこみ、気絶してしまった。



「いやあ怖かった、死ぬかと思った」

 30分くらいで何とか復活した彼女は余程トラウマだったのか眼帯をつけた状態の僕をまともに見られない状態だ。

「そんなにヤバかったのか」

 自分の能力を自分で実感できないのがちょっと残念だったりする。

「眼帯してるお前は、いうなればゴキブリだよ。不快になる、まあそんくらい。でも眼帯外したお前は人間より巨大なゴキブリだ。こうなると不快とかいうレベルを超えてただただ恐怖するしかないってわけだな」

「眼帯して随分経ったからな…その間に能力そのものがパワーアップしてたのか…」

 改めて自分の能力の恐ろしさを実感する。

「それにしても眼帯よぉ…」

 惚れ薬の効果は無くなったと思うのだが、尚も神音は顔を赤らめている。

「まだお前見てるとドキドキするんだけど…」

「多分それは恐怖のドキドキじゃないかな、吊り橋効果ってやつかもしれない」

 緊張や恐怖によるドキドキを恋愛だと勘違いして付き合ってしまうカップルがどれだけいるのだろうか。それを悪用して恋愛成就しようというのなら惚れ薬を使うのと大差はない。

「はー、駄目だどうしてもお前を意識してしまうよ」

「僕も実は神音の事ばかり意識してしまうんだよね」

 キツネさんに抱きつかれた時よりも、神音に抱きつかれた時の方がよりドキドキした。キツネさんの方がずっと美人なのに、何故なんだろうか。本能的に僕は神音が好きなのか?

 結局お互い顔を赤らめながら今日のバイトは終わった。お店に戻ってきたキツネさんには、

「あらあら、お盛んなことで。若いっていいわね」

 と何やらあらぬ誤解を受けてしまった気がする。



「ということがあったんだよガラハちゃん」

『それは大変でしたね』

 アパートに戻り、ガラハちゃんと晩御飯を食べる。今日はなんだか疲れたので半額弁当だ。

「ところで眼帯外したらガラハちゃんみたいな人外はどうなるのかな、試していい?」

『どうぞ』

 人間は不快を越えて恐怖を感じたが、人外はどうなるのだろうか、僕は眼帯を外してガラハちゃんをまじまじと見つめる。ガラハちゃんは泡を吹いてその場に倒れこみ、気絶してしまった。

「ガ、ガラハちゃん!?」

 どうも人外にとっては麻薬のようなこの能力、フルパワーにするとヤク中みたいになって何も考えられなくなってしまうようだ。自分の能力の恐ろしさを改めて実感しました。


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