4月9日(月) 彼岸優、入学する。
執筆は縦書きで行っているため、横書きでは読みづらいかもしれません。ごめんなさい。
縦書きで読むとちょっとだけ読みやすくなるかも?
語り部がころころ変わるのは仕様です。ごめんなさい。
4月9日、月曜日。
その日の夕方、私こと彼岸優は家のリビングで体をくねくねとさせながら悶えていた。
「やばい…私の高校生活最高だって確定したわ…金切君と、金切君と一緒…うふふ…しかも席も隣だなんてもうこれ運命確定みたいな?えへへ…」
そんな私を双子の妹である彼岸秀が汚物を見るような目で見る。
「糞姉…私より先に精神逝ったか。テレビの邪魔だ、くねくねしながらオナニーするなら自分の部屋でしてくれよ、気持ち悪い」
しかし今の私は最高にハイテンション。妹のお小言も気にならない。
「秀…あなたも恋をすればわかるわ」
秀にも恋愛の素晴らしさを教えてあげなくっちゃ。
「……」
秀に呆れられるが気にしない。金切君、えへへ…
話はその日の朝にさかのぼる。
私は自室の鏡の前で制服姿でポーズを決める。
今日から私は高校生。気分がハイになっちゃって、ターンとかしてみちゃったり。
ぐきっ、と足をひねった音がするが、高校生パワーで乗り切る。はしゃぎすぎは駄目だね。
周りからも暴走しすぎて変な事になるとよく言われるし、高校生になったことだしそういうところを改めよう。
その後リビングに行き、母親の作った朝食を食べながらテレビで占いを見る。
6位。平均が6.5だからちょっと運がいいと思うべきか。
おっと、そろそろ家を出ないと。カバンの中身を確認する。初日から忘れ癖などつけてはならない。
「それじゃ、いってきます」
母親に挨拶をすませて家を出ようとするが、
「ちょっと優、あんた出るの早くない?ここから高校まで20分もかからないわよ?」
と呼び止められる。確かにこの家から高校までの距離を考えると早すぎるかもしれない。
秀はまだ寝ている頃だろう。しかし早目に家を出るのには理由がある。その理由とは…
「おはよう金切君!偶然だね!いやほんと偶然」
「おう、優か。今日から高校生だな」
私は家を出た後庭の花壇に隠れ、隣の家から出てくる少年、金切良平君を待ち伏せていた。
そしてさも今家を出たかのように振る舞った。
何故そんな事をするか?聞いちゃいます?本当はわかってる癖にぃ。じゃ、教えちゃうかな?
私は、彼に、恋しちゃってるのです。やっぱり幼馴染で昔から一緒に遊んでたら、カッコよく見えちゃうよね。
「いつもこの時間に家を出るつもり?」
二人で学校へ向かいながら金切君に私は問う。流石に毎日こんな事をするわけにはいかないので、彼の登校ペースをチェックしておかないと。
「うーん、俺は野球部に入るつもりだし、朝練とかもあるだろうからな、早目に行くと思うな」
うーむ、朝練に出かける時間帯に偶然を装って遭遇というのは流石に無理がある。
だけど無理を通せば道理が引っ込むとことわざにあるし、無理を通してみよう。
「私、朝の空いてる教室とか好きだから早めに家を出ようと思ってるんだ、これから一緒に登校しよ?」
「優、そんな趣味持ってたのか。別にかまわねーぜ」
よし、変な趣味持ってる女かと思われてしまったかもしれないけど、これから毎日ある登校というイベントで挽回できる。
それにあながち嘘でもない、誰もいない教室のカーテンにくるまるの楽しいよね?
「クラス、何組になるかな?金切君と一緒のクラスになりたいな」
「そういえばお前と一緒のクラスになったことなかったな」
そう、そうなのである。不幸な事に幼稚園、小学校、中学校と同じ所に通いながらも一度も私と彼は同じクラスになっていない。
恋愛の神様は一体私に何の恨みがあるというのか。
しかしそろそろ同じクラスになるはずだ。2年からは文系と理系に分かれるので同じ分野にいけば、それだけ同じクラスになる確率はあがるし、
今まで何年も菅原道真とかにお祈りしてきたのだ。そろそろ私の祈りが通じるはず。
ここの制服可愛いって評判なんだ、とか義務教育じゃないから不安だ、とか歩きながら無難な会話をしているうちに、今日から私達が通う私立『焔崎』高校へ到着。
校門をくぐってすぐに、新入生のクラス分けが書かれた掲示板へ向かう。
「さて、俺のクラスはどこかな」
「(どうか金切君と同じクラスになれますように…)」
頼む!こんなに掲示板を見るのが怖いのは受験の時とネットでポエムを晒した時以来だ。
「お、俺も優も1組だな。他には稲妻もいるな」
「っしゃあ!」
金切君の報告に、思わず女の子らしくない声をあげてしまう。でもしょうがないじゃない、やっと一緒のクラスになれたんだから。
「そ、そんなに稲妻と一緒のクラスが嬉しかったのか」
「そ、そうなの!ヒナは親友だからね」
照れ隠しに親友を使う、ごめんよヒナ。
「へー、優と同じクラスか」
「あ、ヒナおはよー」
噂をすれば何とやら、後ろからひょっこりと中学からの友人で親友の稲妻日名子ちゃん。
元気一杯のムードメーカーだ。
「(やったじゃん、やっと一緒のクラスになれて)」
「(えへへ…)」
金切君にばれぬようにヒナとこそこそ話。ヒナは私の恋を応援してくれる心強い味方なのだ。
「じゃ、そろそろ教室に行こうぜ」
そう言って教室に向かう金切君に続いて私とヒナはこれからお世話になる1年1組へ。
最初の席は名前順であり、「か」の金切君と「ひ」の私は遠く離れてしまった。幸先が悪い。
体育館で始業式を行い、再び教室に戻ったところで軽い自己紹介。
ヒナや金切君の他にも同じ中学出身はそれなりに多く、寂しさは感じられない。
そしていよいよ最初の席替え。このクラスは30人で席は縦5横6。
運命のクジをひくと、そこには15を書かれている。3列目の一番後ろだ。
後ろがないということで早くも金切君の近くになる確率が下がる。
ヒナの方を見ると彼女は両手をパーにしてこちらを見る。多分10を表しており、私の隣となる。
「金切席どこよ」
「27だぜ」
クラスの男子と金切君の会話が聞こえる。終わった。15と27では離れすぎている。最初が肝心なのに。
ああ、きっと金切君の近くに可愛い女の子がいてその子と仲良くなって私が告白できずにうじうじしている間に彼はその子とうぎゃああああ!
「はい、これ」
私が絶望に打ちひしがれていると、一枚の紙切れが手渡される。
なんだこれは、赤紙かと開くとそこには22と書かれた紙が。金切君の隣の番号!
紙をくれた神を確認すると、先ほど金切君と会話していた人だ。あまり面識はないけど金切君の友人の小田君だったか。
「頑張って、応援してるよ」
彼はどうやらヒナと同じく私の気持ちに気づいていて、協力してくれるということらしい。
「ありがとう…ありがとう…!」
「お互い様だよ」
小田君に感謝しつつ、らんらん気分で22の席へ。
「あ、金切君。偶然だね」
「ああ、よろしくな」
こうして私は高校生活を金切君の隣の席という最高の形でスタートすることになった。
今日は授業がなく、半日で学校はおしまい。
ヒナと教室で話しながら、野球部に入部しに行った金切君と一緒に帰れるように待ち伏せするのも抜かりはない。
「ウチの野球部あんま人いないし、1年からレギュラーになれるかもしれないんだ」
「そうなんだ、すごいね」
金切君と一緒に帰る。ああ、周りから見たら恋人に見えるのかな?
「あとは高校生になったし、一丁前に恋愛とかもしてみてえよなあ、野球に捧げるべきかもしれねーけど」
その言葉に私は赤面する。周りにはバレバレだけど当の本人には私の恋心はバレていない。良い事なのか悪い事なのか。
「金切君なら、きっといい彼女作れるよ」
自分の気持ちを隠してそう微笑む私は実に乙女だろう。…ちょっと自分に酔っちゃってるかな?
というわけで、今もなお私はリビングで悶えているのだ。
そんな私を妹の秀は不愉快そうに見ていた。