革命実行
あ、っと。
時計を見たら、もう八時十分。
起きてから準備をするのにかなり時間がかかったからね。
実際には、あと二十分しかないみたい。
わたしはもう、春休みになってる。
だから、別に部屋から出てこなくても、お父さんお母さんなんとも思ってないはず。
昨日が合格発表だったから、余計にそう思ってるはずだし。
まさか、これから死ぬなんて、想像つかないだろうね。ふたりとも、もうすぐ出て行く。
きっと、わたしが死んでるのに気がつくのはお母さんがパートから帰ってきて、昼過ぎくらいかな。
それでも、しばらくは気がつかなかったりして。基本的には、ふたりとも子供に無関心だからさ。
だって、昨日、合格祝いとかいって三人で一緒に、ご飯食べたのなんて今年の正月以来だよ。
まあ、半端なサラリーマンだから、仕方ないんだろうけどさ。
悲しいけど、ああはなりたくないね。
ねぇ、聞いてくれる?
ほんとはね、自殺じゃなくて悪い奴を殺して死にたかったんだ。
たくさんいるじゃない。悪いことして、生きている奴。
だって、あんなにたくさんの人間殺した、誰だっけな、もう何年も前なんで、名前がでないけど……
そんな奴が、刑務所で殺されないで、生きているんだよ。
まあこんなこと言ってみても、これじゃただ好きなこと言ってるだけって思われても仕方ないか。
ぜんぜん無力なんだから。今後、生きていたら、ずっとこの無力さを感じて生きるんだ。
自分が思うように生きていける人って、ほんの一握りでしょう?
しかも、そういった人ってどこかで悪いことをしているような人ばかり。
見えない力って感じで、わたしらじゃどうしようもできないのかな。
で、殺されていくのはたいてい、いい人って呼ばれている人たちなんだから。
なんだか、矛盾してるよね。矛盾ばかりの世界なんだ、大人のいる世界って……
さーてあと、十分。
さあ、最後の段階だな。
ずっと悩んでたのが、どうやって死ぬかってこと。どうせなら、衝撃的なほうがいいかなって。
それでいて、苦しまないやつ。で、いろいろ探した結果、見つけたの。
なかなか手に入らないんだよ、ふつうは。
これ、クロロホルムっていうんだ。
最近は、よく使われてるよね。レイプとかするのに。
でも、こんなもん中学校の理科室に置いてちゃ、だめだよね。
わたしらだって、バカじゃないんだから。
やっぱり、中学生って子ども扱いされてしまうのかな。
そろそろ時間だね。じゃあ、電話するよ。
一・一・〇、っと。
あ、すみません、なんか二階に怪しいひとが、いるみたいなんです。
誰もいないんで、恐いんでちょっと来てもらえますか?
これでよしっと。
ピンポン。
さすがに日本の警察は早いなぁ。まだ三分しか経ってないじゃない。
ちょうど、時間どおりにいってくれる。
演説が終わり、わたしが画面から消えた。
声だけが小さく聞えてくる。
「きみ、何があったの?」
「えーっと、変な物音がしたんです」
「ご家族の方は?」
「みんな、仕事に行ってます」
「じゃあ、きみ一人ってことだね。なにか声は聞こえたかい?」
「はい、なんかひそひそと話してるような声が」
「よおし、じゃあ、見てくるからね。どこから聞こえてきたんだい?」
「この、二階の右の部屋なんです」
しばらくの時間があった。
数分ほどだが、何も映らない無人の画面はもっと長く続いたように感じた。
画面にわたしの姿が戻ってきた。勝ち誇るように手に何かを持ちながら。
うーん、やっぱり警官は、頼りになりますね。背中に頼もしさがあふれてますよ。
そこの部屋ですって言ったら、ためらうことなく入っていった。
ありがとう。あとは、わたしが後ろから、これをかがせて拳銃を借りる。
奪うんじゃないよ、ちょっと借りるだけ。自分を撃つんだからいいでしょ。
警官に一言、拳銃貸してくれてありがとう、って手紙を書いて、
その手紙を彼の胸ポケットにいれてっと。
さあ、わたしは椅子に座りましょうか。
みなさま、お待たせしました。
お巡りさんにこれを借りてきましたよー。
画面には本物の拳銃が映っている。
わたしは一度、拳銃を近づけて、アップで映したあとで、その銃口を自らの耳に押しあてた。
あと、二十秒だよ。こうやって時計の針を見ていると、時間ってやっぱり早いんだね。
このペースで年を取るんだもん。やっぱり今が限界なんだよ。
さあ、もうすぐだ。
じゃあ、みなさん、最後までありがとう。
三、二、一……




