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革命余波

わたしは自分があの犯罪に関わっていたことを自ら警察に出頭して述べた。

男からの手紙には、携帯さえ処分すれば捕まることはない、と書かれていた。

確かにそうかもしれなかった。だけど、わたしは警察に行った。

家に届いた手紙、携帯電話、液晶テレビ、すべてが押収された。

警察は手紙の内容だけを確認すると、とりわけ何かを問い詰めることもなく、わたしを家に戻した。

あの事件に関しては、それで終わりだった。


まるで夢だったかのように、あっけなく時間は過ぎさった。


テレビをつけると今も変わらず、あの番組は流れている。

プロデューサーはあの事件の責任をとって辞めたらしい。

司会者タモノは一週間ほど番組を休んでいたが、

その後は、変わらず軽快な口調で世間に復活を果たした。

あの少年たちはまた少年院に戻ったらしい。

ただ中山だけは、今回の事件に関して殺人未遂の容疑で送検された。

弁護士側は、人質に取られていたあの状況では相手を傷つけても仕方がない、

と正当防衛を主張した。また、それが通るだろうと考えていた。

しかし、検察側はある証拠を提出した。

「こういうのは正当防衛でしょー」

と喋る中山の声を録音したテープだった。

かなりの雑音が入り、聞き取りにくい状態ではあるが確かにそう喋っていた。

もちろん、テレビ画面には流れていない。

それは、わたしの持っていた携帯電話の通話状況を録音したもの。

少年は、そのあと銃を撃った。麻酔銃とは知らないまま……

今度、どのような判決が下りるのかはわからない。

ただ、もう親の力を使うことは無理であろう。

父親である中山総理は、息子の事件の隠蔽工作をマスコミに騒がれたあと、

警察や自衛隊幹部との癒着まで暴かれ、すでに失脚してしまったのだから。

どんなに支持率が高く人気があっても、スキャンダルひとつで政権などすぐに崩れてしまう。

この世の中では誰が総理になっても同じことの繰り返しに違いない。

彼が特別、悪かったのではない。

それよりも、この社会構造の裏側で働きつづけ操っている、どうやっても消えない存在。

全ては、その見えない力のせい、なのだから。


わたしは男の入院する病院を訪れた。

病室で男は静かに眠っていた。

その横に座り、その寝顔をじっと見つめる。

しばらくして、男の瞼がゆっくりと開いた。

「・・・来てくれたんですね。あ、ありがとう」

少し驚いた表情だった。

「うん、気になったので」

男は優しい口調で言った。

「あなたのほうは、事件のあとどうなったんですか?」

「こっちは全然、大丈夫でしたよ」

「なら、よかった」

わたしはそこで一瞬、言葉をとめた。言うか、言うまいか迷っていた。

だけど、言わずにはいれなかった。


「・・・マサト、だよね?」

彼の表情は少し戸惑っていたが、すぐに笑顔に変わった。

「覚えていた? わけないか」

と彼が言う。

「う、うん。でもその寝顔を見てて思い出したんだ」

「そっか、変わっただろ、おれ」 

たしかに面影はあまりない。無精ひげが目立ち、わたしより年上な感じがする。

それだけ、いろんな苦労をしてきたんだね、きっと。

「すぐに思い出せなくて、ごめん」

彼は笑いながら

「もう十年も前だから、仕方ないって」 

わたしも少し笑いながら頷く。

「でも不思議だねー、寝顔ってあのころと変わってない気がしたんだ」

「一緒によく芝生に寝転んでたっけ。で、おれの寝顔によくイタズラしてたよな。

ほっぺたにアリを乗せられたこともあったし」

マサトは窓の外に視線をやりながら、嬉しそうに呟いた。

「あの頃はなんでも楽しく思えたよねー」

「そうだな、ずーっと昔のこと。まるで夢のことみたいだ」

「夢、かぁ」

わたしはつぶやくように言った。

彼が真顔になって話しはじめた。

「あのときはずっと、ふたり一緒にいれるって思ってたし。

親の都合で転校になって、あのときは両親を恨んだ。毎日、親にあたってた。

反抗期ってやつ? きっと、あの時は自分のことしか見えてなかったんだな。

弟のときもそう。なんで、お金なんかで解決したって怒鳴り散らかした。

ふたりの気持ちなんてちっとも考えてなかったんだ。

で、両親は死んでしまった。二人を追い込んだのは結局、おれのせいだったのかもな」

彼の表情が沈みがちになる。

「マサトはちっとも悪くないよ。それに、わたしのほうこそ、

何とかして連絡を取ろうとすればよかったのに受験のことで余裕がなくて。

ほんと、自分のことしか考えてなかったんだ、ごめんね」

彼は小さく首を振りながら、

「しばらくしてあの事件のことを知ったよ。友達から事件のことを聞いて、

でも、ちゃんと生きてるんだって知ってほっとした」

「マサトはわたしのことなんてすぐに忘れたと思ってた・・・」

「ううん。いろんなもの無くして、何もする気が起こらなかった。

けど、中学のあのころのことだけは、いまも思い出すんだ。

あの思い出だけは、いまも大切な宝物なんだ」


わたしは、彼の顔をぼんやりと見つめていた。

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