革命終焉
ひとり残された中山は無言のままだった。
屁鳴はちゃんと拳銃を撃った。
銃声がした。
相手に当たった。
そして、その場に倒れた。
だが、中山の表情にさほど変化はない。
「ノコリ オマエ」
「ぼくが誰かってわかってるんだよ、ね」
「シッテル」
「じゃあ、撃つなんてできないさ。ぼくを撃ったらおやじが、いや、国が黙っちゃいないんだよ」
「オマエノ チチオヤ ケイサツ オドシタ」
「親はみんな、同じだろ。子供がかわいいんだよ。あんたとこの親以外は、ね」
「・・・」
「だって、あんたとこの親、おやじの弁護士が金を包んで持っていったとき、
卑屈な笑みを浮かべて応対してたそうじゃない。別に怒るわけでもなく、ただ頷いてるだけで。
所詮、庶民なんて金と権力には弱いんだよ。で、あげくには、こうやって暴力に訴えるんだ。
アタマ、悪いよな」
屁鳴の変声機を通して聞こえてくる音が所々、割れて聞こえてくる。
「ショミン イキル カチナシ カ」
「よくわかってるじゃん。ぼくらとは違うんだよ。だから結局、自殺なんてしたんだし」
「イヤ オマエタチニ コロサレタ」
しんと静まっているスタジオ内にクラシックの調べが流れた。
屁鳴がお面の向こう側に片方の手を伸ばす。着信メロディが鳴りやんだ。
わたしは携帯に向かって、いや、そのときは画面に向かってだったのかもしれない。
めいっぱいの力で叫んだ。
「警察よーーーーっ」
屁鳴は身体をひるがえした。
ドアの向こう側から、ドスンドスン、と何かで突き破ろうとする音が響いた。
ドアの部分がみるみる、内側にめり込んでくる。
もう一度、中山の方を振り返る。
右手にナイフが光っていた。
その光が屁鳴に向かって飛んでくる。
交わしたと思った光は右腕に止まっていた。
ナイフは腕にめり込んで、トレーナーを赤く染めていく。
屁鳴の右手から拳銃が離れて、落ちた。
コトンッ。
中山はその音に俊敏に反応した。
手を伸ばしてそれを拾うと、屁鳴に向けて拳銃を構えた。
「こいうのは正当防衛でしょー」
少年は笑顔で言って引金をひいた。
銃声がスタジオに響きわたった。
観客から叫び声が上がった。
屁鳴の身体が、その叫びに合わせるようにゆらゆらと回転する。
まるでスタジオの真中でダンスを踊っているように見えた。
しだいに脚がもつれ、彼の身体が床に崩れていく。
ドスン、と音がして、また悲鳴が上がった。
屁鳴の身体はまだ動いていた。
倒れた身体を両手で支えながら、少年の顔を見上げた。
「このこたちの、ことばを、きいたか。ふたりとも 、きみからさろうと、した。きみに、なかまなんて、いなかった。 かわいそうに。でも、これから、きみは、もっとこどく、になる。 ひとりでいきて、いく。せけんのみなが、そのかおを、しった、んだから」
変声機が壊れたようだ。
それまでの低い声でなく、静かな優しげな声だった。
中山がゆっくりとお面に手を伸ばした。
テレビ画面に、屁鳴の姿が映しだされた。
そこにあった顔を・・・わたしは知っていた。
昨日、あの小包を届けにきた人物だった。
少年の手から拳銃が落ちた。
警察が走ってきて、銃を拾い上げた。
それから、呆然と立つ中山に声をかけ、床に倒れている二人の少年に手を伸ばした。
「おい、まだ息があるぞーー」
誰かがそう叫んだ。
「こっちも、大丈夫だ」
またひとりが叫んだ。
「おい、この拳銃・・・」
そのあとで、声が途絶えた。
誰かがもう一度、聞き返す。
「拳銃が、どうした?」
「・・・麻酔銃だぞ」
小さくささやく声がした。




