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革命侵攻

拳銃が現れたところで、テレビの映像は消えてしまった。

しばらくそのままでおまちください、画面はそう語っていた。

テレビの内側で、何が起こっているのか誰にもわからなかった。

あの後、どうなっているのか、テレビの外側の人間はそのことが無性に知りたかった。

野球中継の延長放送が切れて途中で終わってしまったときのように……

早く放送を再開してほしい、誰もがそう思っていただろう。

わたしは急いで携帯に手を伸ばした。

通話状態のボタンは点滅したままだった。

まだ、つながっている。

だが、携帯に耳を当てても何も聞こえてこない。

先ほどまでエコーのように響いてきたタモノの言葉も、いまは止まっていた。

周りの人間の声も聞こえない。

悲鳴さえ聞こえてこない。

何が起こったのか理解できてないのだろう。

ある者は思っていたかもしれない。

これはよく見かける芸能人を騙すためのドッキリ企画であって、

たまたま今回、その人物がタモノだったのでは、と。

こんなお昼の生番組に拳銃などちらつかせて、何と刺激の強い企画なんだろう

と呆れていたに違いない。


だが、拳銃を突きつけられているタモノはどうなの?

彼も呆れていただけ?

いや、彼は誰よりこの事態を深刻に受け止めていたに違いない。

お面の向こうに見える険しい目が訴えていた、これは遊びじゃないんだ、と。

「ホウソウ ツヅケル」

トロンボーンが響くような低くて深みのある声が携帯から聞こえた。

屁鳴の声であろう、変声機をお面のなかに内臓しているようだ。

「コイツ コロスゾ」

ようやくただ事でないと気づいたのだろう。

「キャーーー」

と何人かの女性が叫ぶ声がした。

それに混じって、バタバタと靴を鳴らす音が聞こえた。

誰かがその場を逃げようとしたに違いない。

すぐに銃声がした。そして、また叫び声が……

「ウゴクナ」

屁鳴の声が、やや大きくなった。

「コエ ダスナ」

それから、もう一度、言った。

「ハヤク ホウソウ ツヅケル」


屁鳴が放送を再開するように言って、まもなくテレビ画面にまた映像が流れ始めた。

そこには拳銃を持っている屁鳴がいて、その横に腕をつかまれたままのタモノが立っている。

共演者たちは、呆然とその場に佇んでいた。

机に置いてあった液晶テレビから、ピピピッという音が響いた。

ドラマの流れる画面の下の方に速報を伝える文字が流れた。

テレビ局内立てこもり事件発生……

わたしは携帯に向かって大きな声で言った。

「速報っ」

屁鳴はお面の隠れている部分に、イヤホン式の携帯をはめ込んでいるらしい。

わたしが叫んだ瞬間、彼は少しだけ頭を上下に動かした。

屁鳴は、タモノに向かって話をはじめた。

「オマエ イチバン エライ」

「別にそんなことは、ない」

「マワリノ ニンゲン ジャマ」

「みんな、おとなしくしてるじゃないか」

「イマダケ」

「どうして欲しいんだ?」

「イツモノ アイズ」

「・・・合図だと?」

「アイズデ ミンナ ヨツンバイ」

タモノの視線がスタジオ内にいるスタッフのひとりに向けられる。

普段は見せることのない、すがるような目つきだった。

「ハヤク」

タモノが、マイクを口に近づける。

その手元はぴくぴくと揺れていた。

「みんな、四つん這いになる、なんてのは……ド・ウダロ?」

その後で、タモノは言葉を付けくわえた。

「みんな、お願いだーーーーっ」

タモノの言葉に、みんなの身体が反応した。

狭い空間のなかで、ゆっくりと脚を折りフロアに伏せていく。

カメラマンを残したスタッフ、出演者たち全員がうつ伏せになった。

「イチレツ ナラベ」

それから、客席の一番前に座っている二十代らしきカップルの女性を指名して言った。

「オマエ ツイテ イク ミナ デタラ シメル」

指を指した方向に右の出口があった。

「じゃあ向こうの出口はどうする?」

タモノが口をはさむと、

「ソコノ オトコ シメル」

先ほどの女性の恋人と思われる男性に言った。

「オンナ コロスゾ イケ」

男性が慌ててその場を去ると、屁鳴はまた、四つんばいの列に目をやった。

「ユックリ ススム」

出演者たちが移動しはじめた。

不慣れな格好に戸惑う気持ちと、一刻も早くその場を去りたいとの

焦りが葛藤して、前後の人間と何度も脚をぶつけながら進んでいく。

「おい、お客は?」

タモノが客席を見ながら訊ねた。

「キャク ヒトジチ」

とタモノに答えたあと、屁鳴はカメラに向きなおって声をあげた。

「ケイサツ トリヒキ スル ナカマ シャクホウ」

その言葉にタモノの顔がひきつった。 

「タミショウネンイン ナカヤマ ケンイチ アト ソノ ナカマ」

多見少年院は、確か七王子市にある。

ならば、テレビ局まで三十分もあれば可能だろう。

いや、警察が先導でもすれば、もっと早く到着することができる。

「ジカン ニジュップン オクレタラ ミナゴロシ」

屁鳴は仲間の釈放を求めている。

仲間が到着したら、一緒にどこかに逃げるつもりだろうか。


ならば・・・と、疑問が湧きあがる。

どうして、わたしを使う必要があったの?

他の番組での状況が知りたい、それだけのためにわざわざ、

携帯電話と液晶テレビを用意したというの。

それほど、外の状況が気になるもの?

だけど、もしここで計画通りに進めば残りのふたつの言葉は必要ないことになる。

あれだけ、きちんと書かれていたのに。

もしも、の保険をそこまで丁寧に考えていた?

そのとき、ふーっと、また疑問が頭を過ぎった。

確か、あいつは少年院と言っていた。

わたしと屁鳴は同級生のはず。その姿は卒業アルバムにも載っていた。

とすると、彼の年齢は同じく二十四。

十歳近く離れている高校生と知り合いとはどういう関係なんだろう。

しかも仲間である、というのはどうにも不自然な気がして、

わたしの心はざわついた。


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