隣の人
***BL*** 隣に住んでる人とのお話です ハッピーエンド
隣、引越しだ。どんな人だろう。静かな人だと良いな。前に住んでいた人は、ちょっと生活音の大きな人だった。
休日の昼前、隣の部屋の玄関が開けっ放しで、部屋の中が見えちゃいそうだった。
古いアパートの下に引越しのトラックが停めてある。軽トラ。
軽トラックから荷物を降ろしているのは一人。他に誰もいないのかな?
段ボールを二つ重ねて、階段を上がって来る。
僕とすれ違う時
「すんません」
と頭を下げた。
短髪黒髪で、背が高い男。
筋肉質の身体が、見惚れる程格好良い。
でも、ちょっと心配になる。
生活音とか大丈夫かな?友達呼んで飲み会とかしないよね?
少し憂鬱な気分になりつつ、、、。格好良かったな、、、。と口元が上がってしまった。
**********
俺の隣りの部屋から男が一人出て来た。線の細い、華奢な男。如何にも頭の良さそうな、でも、運動神経は悪そうなの男。
神経質なヤツだと嫌だな、、、。
そう思いつつ、段ボールを二つ抱えながら階段を上がる。
彼は階段の一番上で、俺が上がって来るのを待っている。
「すんません」
と頭を下げた。
*****
荷物を運び入れ、借りた軽トラを返しに行く。
「引越し手伝ってくれてありがとな」
同僚に礼を言い
「今度、奢るよ」
と約束する。
帰りに原チャリでコンビニに寄り、弁当と酒を買った。
アパートの駐輪場に原チャリを停め、階段を上がると、奥から二番目が俺の部屋。
一階に五部屋、二階に五部屋。真ん中の三号室の前に階段の降り口がある。階段を登り、そのまま進むとすぐ俺の部屋。更に奥がこの間すれ違った人の部屋だった。
「あ、、、保育園、、、」
弁当を部屋に置き、歩いて保育園に行く。
*****
「加藤浩暉を迎えに来ました」
そう言って浩暉を引き取る。まだ、三歳になったばかりの浩暉は俺が迎えに行くと、リュックを背負いながら靴を履く。
小さな手を繋いで、保育園の横の坂を下ると、公園がある。浩暉はブランコに乗りたがった。
「ちょっとだよ」
と言うと、喜んで走り出す。
自分でブランコに乗れない彼は、俺の方をじっと見た。
俺は浩暉を抱っこして座らせると
「しっかり持って」
と言ってブランコから手を離さない様に、上から俺の手を重ねる。
俺の手の中に入ってしまう手、、、。
ほんの少し揺らすだけで大喜びする浩暉。
**********
え?子供がいるの?
公園で遊ぶお隣さんを見てびっくりした。ワンルームのアパートに、三人で住むの?嘘でしょ?
かなり狭いと思う、、、。
だって、お隣さん、身長も高いし、筋肉質だから人より大きく見えるし、、、。
親子三人か、、、大家さんも、よく許可したな、、、。
僕はがっかりしながら、アパートに戻った。
*****
でも、トラックから降ろしていた荷物はそんなに大きく無かった。冷蔵庫も、洗濯機も小さかった。
シングルファザー?
だったら大変だろうな、、、。そう思いながら、隣りの部屋の壁を見る。今の所、静かだった。
夜になると、インターフォンが鳴った。荷物を頼んだ覚えは無い。
もう一度鳴る。
もしかして、お隣さんが挨拶に来た?
取り敢えず出てみる。
「はい」
玄関を開けると小さな男の子が立っていた。視線を上げるとお隣さん。
男の子は
「かとうこうきですっ!」
と挨拶をした。、、、可愛い、、、。
「済みません。隣に越して来ました。石原です。えっと、この子は姉の子で今だけ預かってます。夜には父親が迎えに来るので、うるさくなる事はありません」
「ぼくねぇ!おにいちゃんになるの!」
「そっかぁ、楽しみだね。僕は、秋吉です」
こうきくんは、手に持っていた挨拶用のタオルを差し出して
「つまらないものですが!」
と元気に言った。
「有難う。丁度タオルを買おうと思ってたから、嬉しいよ」
しゃがんでお礼を言うと、嬉しそうに笑う。
今度は反対側の部屋に挨拶に行く様で、こうきくんはバイバイと手を振って、反対隣の三号室に向かった。
石原さんはペコリとお辞儀をする。
礼儀正しい人で良かった。
**********
そっか、お姉さんが出産する間だけなんだ。ちょっと安心した。夜にはパパが迎えに来るみたいだし、煩くなる事も無いだろう。あっても数日我慢するだけだ。
僕は簡単に夕食を作る。
一人分の夕食は、作っていても大して時間は掛からない。味噌汁はインスタントだし、野菜も切るだけ、肉は焼くだけ。こんな物で充分だった。
朝、仕事に行こうと玄関を出ると、隣りの部屋の玄関も開いた。建築関係の作業着で、「男」って感じだった。
「お早う御座います」
と挨拶をされ
「お早う」
と返事をする。
いつもこの時間なのかな?ちょっと嬉しい。
彼は先に階段を降り、駐輪場に向かうと原チャリに乗って颯爽と出て行った。
何となく、原チャリの後ろ姿を見てしまう。ちょっとヤンチャな感じがして、格好良い、、、。
僕は、女の人と付き合えない。嫌いと言う程でも無いし、職場でもちゃんと対応出来ていると思う。ただ、恋愛対象が男だった。
石原さんは好きなタイプだ。でも、きっと彼女がいるだろう。だって、格好良いから、、、。
**********
浩暉のパパは、毎晩10時過ぎに迎えに来る。仕事が終わると連絡をくれて、晩御飯を買ってから車で迎えに来る。
その頃には、浩暉も待ちくたびれて寝てしまう。
「いつも悪いね」
と弁当と一緒に買っているんだろう、スイーツを一つ、お土産にくれる。
浩暉を起こさない様に抱き上げ、車に乗せる。
姉さんが退院するまで後三日。
*****
「あした、ママはあかちゃんとかえってくるんでしょ?」
浩暉を風呂に入れながら、俺は自分の身体を洗う。最初の二日間は滑って溺れないか心配で、目が離せなかった。彼の頭を洗うのも恐る恐るやった。膝の上に仰向けにするなんて、落としそうでドキドキしたけど、浩暉は楽しそうだった。シャワーでシャンプーの泡を洗い流す時も
「タオル、タオルちょうだい!おめめをおさえればいいんだよ!」
といつものやり方を教えてくれる。
姉さんは退院したら赤ちゃんと浩暉の二人を風呂に入れるのか。凄いな、、、と関心してしまう。
「はやく、あかちゃんこないかな」
浩暉が嬉しそうに笑った。
明日から浩暉は来ないんだ、、、。ホッとする様な淋しい様な、何とも言えない気持ちになる。
*****
とは言え、一人は楽だった。今日は久しぶりに酒でも飲もう。冷やしたビールを開けて、コンビニ弁当を食べる。
この時間、いつも良い匂いがして来る。何処かの部屋で自炊をする匂い。
両隣は男性だったから、一階に女性の一人暮らしの人がいるのかな?
真下の部屋はいつも留守だった。
電子レンジで温めたコンビニ飯は、不味くは無が美味くも無い。
やっぱり、炊飯器で炊いた飯と作りたてのおかずが美味い。生姜焼きの匂いがして来て
「美味そうだな、、、」
と声に出た。
*****
駐輪場に原チャリを置いて部屋に戻る。弁当を置いて、保育園に浩暉を迎えに行く。玄関の鍵を閉めていると、階段から秋吉さんが上がって来た。
「浩暉くんのお迎えですか?」
「姉が退院したので、、、あー、、、」
迎えに行かなくて良いんだった、、、。
「石原さん?」
「もう迎えに行かなくて良いのに、クセでつい」
「保育園に行く所だったんですか?」
「はい、弁当も二人分買っちゃいました、、、」
恥ずかしくて、照れ笑いをする。
「もし良かったら、家で飲みませんか?」
と秋吉さんが、酒の入ったビニール袋を持ち上げた。
誰かと家飲み、久しぶりだな。
「良いんですか?」
「ちょっと片付けるので、そうですね。19時でどうですか?」
「7時ですね。俺も家にある物、何か持って行きます」
「じゃ、後程」
秋吉さんはにっこり笑って、一号室に入って行った。
なんか落ち着いてて、大人だな、、、と思った。
**********
え?僕?何してんの?!
そりゃあさ、石原さんは僕のタイプだよ、、、!
タイプだからって、家に誘うなんて?!、、、
自分が怖い、、、。
一時間。
一時間でシャワー浴びて、料理するっ!
僕はエアコンのスイッチを入れ、シャワーを浴びた。掃除は大丈夫。そんなに汚れていない。時間があるなら、晩御飯を作りたい。野菜を切って、取り敢えず肉っ!肉を焼かないと!焼肉のタレでい良い!だって美味いもん!
何か、テンパって張り切ってる自分が恥ずかしい。でも、一時間なんてすぐで、もうすぐ石原さんが来ちゃう!
あ!米がっ!、、、忘れてる、、、。
そして、インターフォンが鳴った。
「いらっしゃい」
いきなり玄関が開いて、びっくりしている。
「お邪魔します」
「奥まで入っちゃって下さい」
最接近した彼からは、男性用のシャンプーの香りがした。
「ビールで良いですか?」
冷蔵庫からビールを二本取り出す。
石原さんは、テーブルの上の料理を見ながら固まっている。
「、、、?、、、どうしたんですか?」
僕は座る様に促して、グラスにビールを注ぐ。
「あ、俺も酒、持って来ました」
と言って、僕が冷蔵庫から持って来たビールと同じ種類のロング缶を差し出した。
「じゃあ、冷やしておきますね」
ビールを冷蔵庫に入れ、戻って来るとコンビニのお弁当が二つあった。
「一つ食べませんか?」
「え?」
「いつも浩暉の分も買ってたから、多めに買っちゃって」
恥ずかしそうに笑う。
「あ、温めましょうか」
「すんません」
ペコリと頭を下げる。
お弁当を温めながら乾杯をする。
二人で
「はぁぁぁ〜!美味いっ!」
とグラスを空けた。
「あの、これ、食べても良いですか?」
石原さんは、焼肉のタレで焼いただけの肉を見る。
「勿論勿論」
お弁当に付いて来たお箸を、取り箸にする。パクッと一口食べると
「美味いなぁ、、、」
と言う。
「焼肉のタレで焼いただけですよ?」
「うん、それでもコンビニの弁当ばかり食べてる俺には、やっぱりご馳走。美味しい」
「炊き立てのご飯が有れば、もっと良かったんですけど、慌てて忘れちゃいました」
「炊き立てのご飯、、、」
ボソッと言う。
「次は忘れず炊きますね」
思わず言ってしまった。次ってあるのかな?
**********
「ママなんてきらいっ!」
え?浩暉くん?
公園で浩暉くんは泣いていた。隣にはお母さん、赤ちゃんを抱いている。
「うわぁ〜ん!」
と大声で泣き出した。
僕の後ろで原チャリが停まった。石原さんだった。
「浩暉?」
石原さんはお姉さんに近寄る。
「どうした?」
「まさくんっ!」
浩暉くんが、石原さんに抱っこをせがむ。彼が浩暉くんを抱き上げると、首に腕を回してしがみ付く。暫く泣いて、少し落ち着いたのか、指をしゃぶりながら石原さんに身体を預ける。
僕は側に行っていいのか分からず、暫くそこに佇んだ。
「浩暉、指しゃぶり辞めて」
お母さんはイライラしているのを我慢する様に言う。浩暉くんはまた泣き出した。
「姉さん、大丈夫?」
「ごめん、ちょっと、、、限界かも、、、」
浩暉くんは僕に気が付いた。ふいっと顔を背ける。
あれ?嫌われた?
「あの、、、浩暉くんとジュース買いに行っても良いですか?」
「ジュース、のみたい、、、」
「姉さん、ちょっと座ろう、、、」
石原さんはお姉さんをベンチに誘う。
「浩暉、秋吉さんの事知ってるから大丈夫」
浩暉くんは石原さんの腕から降りたがり、僕の元に走って来た。
「ジュースかってくれる?」
「いいよ」
僕達は手を繋いで、ゆっくりゆっくり歩いた。
「さっきはどうして怒ったの?」
「、、、ママはすみれちゃんがいちばんだから、、、。ぼくのこと、だっこしてくれないの」
ああ、淋しいんだ、、、分かるな、、、。
僕も三歳下に妹がいる。妹が生まれてから、母さんは「待って、待って」と僕を後回しにした。それから僕は、母さんに話し掛けてはいけないと思って、自分からは話さなくなった。、、、僕が話し掛けなくなると、母さんは更に妹ばかりになり、お兄ちゃんは一人でも平気だからと放っておかれた。別に嫌われていた訳じゃ無い。大丈夫な子、と思われただけだ。、、、でも、僕は凄く淋しかった。
「浩暉くんはすみれちゃんの事好き?」
「だいすき!ちっちゃくて、かわいいんだよ!」
「そっか」
僕達は二人でお店に入り、ジュースを買った。
「ママは何が好き?」
と聞くと
「やさいジュース!」
即答した。
「まさくんは?」
「コーラ!」
みんなのジュースを買って戻る。
「ママ!ジュースかったよ!」
浩暉くんはママの所に走り寄り、ママにジュースを渡す。すみれちゃんは石原さんが抱っこしていた。
お母さんが立ち上がってお礼を言おうとする。
「そのままで良いです」
浩暉くんはママの膝に乗る。
「ママのすきなジュースだよ」
「あの、お金」
僕は丁重にお断りして、すみれちゃんに挨拶をした。
石原さんとすみれちゃんと三人で公園の中を散歩する。すみれちゃんは、静かに寝ていた。
「女の子の顔だね。優しい感じがする。、、、お姉さん、大丈夫?」
「育児疲れみたいです。浩暉の事、後回しになっちゃうって悩んでた」
「浩暉くんも、「ママはすみれちゃんが一番だから、抱っこしてくれない」って、淋しいみたい。でも、すみれちゃんの事は好きって言ってたよ」
「姉さん、真面目だから、、、」
「僕も下に妹がいたから、浩暉くんの気持ち分かるよ。浩暉くんもお母さんが大変だって分かってるんだ。だから、我儘言うの我慢して我慢して、、、爆発しちゃったんじゃないかな?」
「、、、」
「お母さんは浩暉くんを優先して欲しい。そうしたら、浩暉くんはお母さんに協力して、すみれちゃんのお世話手伝ってくれると思うんだよね。
「、、、」
「、、なんて、ごめん。浩暉くんのお母さんが一番大変なのに、アレコレ言わない方が良いか」
「、、、いえ、、、僕は二番目なので、、、そうですね。そうかも、姉さんもよく「お姉ちゃんなんだから」って言われてた、、、。自分がして欲しかった事を、浩暉にして上げたら、、、」
二人で浩暉くんとお母さんを見る。浩暉くんはお母さんに甘える事が出来たみたいだ。
すみれちゃんをベビーカーに乗せる。浩暉くんもまだベビーカーに乗りたいだろうに、すみれちゃんの横を歩く。
これからお母さん、二人のご飯を作ってお風呂に入れるんだ、、、大変だな、、、。
そう思いながらアパートに戻る。
石原さんはエンジンを切った原チャリを押す。
「重たそうだね。先に帰っても良いよ?」
「すぐそこなんで」
二人で歩いて帰った。
石原さんは原チャリを駐輪場に停めて戻って来た。今日もコンビニのお弁当。
週末か、、、
「飲みに来る?ご飯炊くけど」
と言うと、普段余り変わらない石原さんの瞳が大きくなった。
「行きます。炊き立ての米、食いたいです」
「良いよ。30分したらシャワーから出てるから、来ても平気」
石原さんはコクリと頷いた。
部屋に入ると米を三合研いだ。余ったら、冷凍すれば良いから。
それからシャワーを浴びる。30分経ってから早炊きのスイッチを押す。インターフォンが鳴って、玄関を開けると石原さんは
「これ」
と、ビールとお菓子を差し出した。
「今スイッチ入れたから、30分で炊けるよ。これから肉焼くんだけど、甘辛と生姜焼き、焼肉のタレ、どれが良い?」
「生姜焼き食いたいです」
「了解」
石原さんは台所でビールを仕舞う。
「ビール飲みますか?」
と言われて
「今日は、グラスを冷やしておいたよ」
と冷凍庫から出す。
「おお、、、!」
冷えたグラスにビールを注ぎ、一気に空ける。
僕は包丁とまな板を出し、玉ねぎを切る。フライパンに入れて、油を垂らし、玉ねぎを混ぜながら油を広げる。それから豚こま肉を玉ねぎの上に広げながら敷き、炒める。
「本当は、暫く漬け込むと良いんだけど」
酒とみりん、さとう、醤油、生姜を適当にぶちこんで汁気が無くなるまで炒めた。
「美味そう、、、」
「いい加減だよ」
早炊きの米が炊け、丼に装る。その上に生姜焼きを乗せて
「はい」
と石原さんに渡す。目がキラキラしてるよ。
自分の分も装り、石原さんのコンビニ弁当を温める。
居間の低いテーブルに皿を置き、床に座ると
「食ってもいいですか?」
と聞いて来た。
「どうぞ」
笑う。
台所で電子レンジが鳴る。僕はそれを取りに立つ。
「美味いです」
ビールを注ぐ。
「彼女にもご馳走するんですか?」
急に聞かれて
「あー、、、」
と答えに詰まった。
「いないんだ」
彼女は一生出来ないんだよね
「意外です、、、。絶対いると思いました」
あれ?そう言えば、石原さんにも女の影が見えない、、、
**********
初めて会った時のイメージと、本当の秋吉さんは違った。もっとしっかりしていると思ったのに、意外とおっとりしていて、ちょっと心配になる事もある。
「この間、家の中でアラームが鳴ってたんだけど、聞いた事が無い音なんだよ。しかも、「どこで鳴ってるんだろう」って、気にすると音が止むんだ。確かに台所付近で鳴ってるんだけど、冷蔵庫はちゃんと閉まっているし、洗濯機は使って無くて。やっと音の原因が分かったんだけど、何とガス台だった。弱火にしてたの忘れててさ、、、。あんな所が鳴るなんて知らなかったよ」
少し酔っ払いながら、笑って話してくれた。火事にならなくて良かった。
珍しく秋吉さんが玄関口で立ち話している。ご近所さんかな?和やかに話していると思いながら
あ、これは勧誘だな、、、
と思った。
「秋吉さん、この間の件でちょっと相談したい事があるんで、来てもらっても良いですか?」
と話し掛ける。
「あ、うん?良いよ」
と言うと、玄関口に立つ女性に
「すいません、用事が出来たので」
と断ってドアを閉めた。女性はがっかりしながら、チラリと俺を見て階段を降りて行く。秋吉さんは玄関の鍵を掛けて、俺の家に来た。取り敢えず中に入れる。
「この間の件って?」
ほんと、疑う事を知らない人だな、、、。そんなのある訳無いのに、、、。
「秋吉さんが変な勧誘されてるから、声を掛けました」
「え、、、ごめん、、、。話しが長くて困ってたんだ。ありがとう」
「さっさと玄関閉めれば良いんですよ」
「でも、話しの途中だったから、、、」
えっと、多分秋吉さん、俺より年上だよな。
「ちゃんとドアスコープから相手を確認しないと」
「分かってるんだけど、つい開けちゃうんだよ」
そう言えば、俺が行く時も一回インターフォンを鳴らしただけで、玄関を全開にして迎えてくれる。
、、、心配だ、、、。
**********
僕は、またやってしまった。
ドアスコープを確認しないで、玄関を開けてしまったんだ。石原さんに、気を付けて下さいって言われたばかりなのに、、、。
1回目のインターフォンは無視出来る。
でも、2回目になると、気になって出てしまう。
今回は水質検査って言っているし、やって貰った方が良いのかな?
「台所の蛇口から水道水をコップ一杯頂いて、検査薬を入れるんです。それで、水道水が汚染されているか分かります」
言ってる事は分かるんだ。それに汚染されている水なんて飲みたく無いし、水道局がナンタラカンカラ言っていて、やるのが義務みたいな話しだし、、、。
でも、知らない人に家に入られるのは、ちょっと、、、。
「ね、取り敢えず、水質検査してみましょう。やってみたらこちらの水道水が綺麗か、汚染されてるかわかりますし、綺麗な水ならこれからも安心出来ますから、ね?」
グイグイ来るな、、、。
僕は早く終わらせたくて、検査だけでもして貰おうかという気になった。
あ、、、
階段から石原さんが登って来た。僕は一度視線を合わせ、元に戻す。
石原さんは作業着で彼の横に立つ。
背も高く、筋肉質な彼に立たれて、検査員を名乗る人は少しビビっていた。
「あ、水道局から依頼されました。水質検査をして頂きたくて」
「それ、詐欺ですよね?あれでしょ?検査して、水が汚れているからって、凄く高い浄水器売るヤツ」
「え?、、、」
「あ、いや、そんな事は、、、」
「本当に?水道局、電話しましょうか?」
彼は、少しずつ後ろに下がり
「また来ます!」
と言って階段を降りて行った。
彼が見えなくなるのを確認して、石原さんは
「アレ、詐欺ですからね」
と教えてくれた。
「え〜、、、危うく、家に入れちゃう所だった、、、」
石原さんが溜息を吐く。
「秋吉さん、大丈夫ですか?この間も勧誘断れなかったですよね?」
「だ、大丈夫ですよ?」
「来客中にそうやって、玄関開けっぱなしってどうですかね?」
石原さんは、ガッ!と玄関を全開にした。
うわっ!
僕がびっくりして、前のめりになると、僕を受け止めて身体ごと部屋に入って来る。僕は片腕で羽交締めゆされていた。
カチャリ
鍵を掛けた。
「ほら、密室になっちゃいました、、、」
僕がびっくりして放心していると
「ちゃんと相手を確認したんですか?」
と優しく言う。
「二回インターフォンが鳴ったから、急な用事とかだと思って、、、」
「開ける前はドアスコープを確認して、チェーンを掛けたまま玄関を開けて下さい。何があるか分からないですからね」
「はい、、、」
「自分が男だからって、過信しないで下さい。女だったら性犯罪に有ってるかも知れないし、男の場合、強盗に入られるかも知れません、、、。いや、男でも、もしかしたら、、、」
え、、、怖い話になって来た、、、。
「じゃ、俺、戻ります」
「あ、、、」
「 ? 」
「いや、、、。最近時間が合わなかったから、、、一緒に飯、どうかな?」
「、、、じゃあ、シャワーだけ浴びて来ます。弁当預かって貰って良いですか?」
「うん」
**********
俺はコンビニ弁当を秋吉さんに預け、自分の部屋に帰る。
シャワーを浴びながら、さっき、「はい」と言って反省した彼を思い出す。可愛かったな、、、。
何だか、放って置けない人だ、、、。
*****
シャワーを浴びて、冷やしてあったビールを持った。
あ、、、貰った日本酒があったな、、、。
と、それも持つ。
インターフォンを押すと直ぐに玄関が開いた。
あれだけ脅したのに、本当にこの人が心配だ、、、。
「ちゃんと、相手確認しました?」
「え?だって、石原さんだから」
ああ、、、もう、、、。
「もし、違ったらどうするんですか?」
「え?びっくりする」
、、、秋吉さん、、、。
「お弁当温めて良い?」
「お願いします」
フライパンで魚を焼いてる。
「え?すご、、、魚焼けるんですか?」
「焼けるよ。焼くだけだよ?」
「何ですか、その魚?居酒屋で出て来そうなヤツ」
「ホッケだよ」
「え?ホッケって、家で食えるんですか?」
俺は本当にびっくりした。
「自己流だけどね」
秋吉さんが笑う。
「お米も、もうちょっとで炊けるよ」
「、、、秋吉さんが嫁に欲しいです、、、」
フライパンの前に立つ秋吉さんの横で呟くと、彼は耳を真っ赤にした。
温めた弁当と、冷蔵庫で冷やしたグラスを二つ、居間兼寝室に運ぶ。
端に布団が積んであって、来る度に見てしまう。
炊飯器で米が炊けて、秋吉さんがホッケを皿に装る。
「はい、これも運んで」
「何か、新婚夫婦みたいですね」
ワザと言うと、秋吉さんはまた顔を赤くする。
炊飯器からお米を装り、箸を二人分準備してくれた。
「今度一緒に、茶碗と箸、買いに行こうよ」
彼に言われて、今度は俺が照れそうになる。
「あ!日本酒!持って来たから飲みましょう!」
実は日本酒を飲んだ事が無かった。
だから、チビチビ飲むなんて知らず、俺はグイグイ飲んでしまった。
**********
石原さんがフラフラしている。
「石原さん?」
「はい、、、」
「大丈夫ですか?」
僕は日本酒が飲めないから、彼が一人で飲んでいた。
テーブルの上を片付け、食器を洗う。
さっきラップに包んだ白米を、冷凍庫にしまっておこう。
僕の部屋で石原さんが寝ている。身体が大きいから、部屋がいつもより狭い。
「石原さん、、、起きて下さい」
と声を掛ける。
「う、、、ん、、、」
と唸り眉間に皺を寄せる。
僕はテーブルをキッチンに運び、少し部屋を広くする。布団を端に敷き
「石原さん、寝るなら布団で寝て下さい」
と言うと、彼は這って布団に移動する。
「気持ち悪く無いですか?水、持って来ましょうか?」
彼は首を横に振ったり、縦に振って返事をした。
台所に行き、冷蔵庫から冷えた水を出し、コップに注ぐ。
「石原さん、お水、飲みましょう」
と言うと、僕を見つめて
「はい」
と言う。素直で可愛い。
ゴクゴクと喉を動かしながら飲む。男らしくて目が離せない。
僕は空になったコップを受け取り、台所に戻しに行った。
石原さんの元に戻ると、彼は寝息を立てて寝ている。気持ち良さそうだな。
彼が僕に気付いた。
「秋吉さん、、、」
と言いながら、僕の腕を引き、抱き締める。中途半端な体勢がきつくて、身体を動かして楽な位置を探す。彼に抱き締められながら、きっと浩暉くんと勘違いしているんだと思った、、、。
でも、僕の名前を呼んでた、、、。
「秋吉さん、、、。俺の事、、、「正樹」って呼んで下さい、、、」
起きてるのか、寝惚けてるのか分からない。
僕は石原さんをギュッと抱き締めた。彼は酔っ払っているから、どうせ覚えて無いだろう。満足そうに僕の額にキスをする、、、。
**********
どうして、、、?
何で、秋吉さんが俺の腕の中に、、、。
スヤスヤと寝ている。
回らない頭で記憶を辿ろうとするけど、何も思い出さない。
微睡んだまま、また眠りに誘われる。
ああ、気持ちが良い、、、。
*****
「お早よう」
いつもの秋吉さんだった。コップに水を注ぎ、俺の元に来る。
膝を着いてコップを渡す。
「喉が渇いたでしょう?正樹さん」
正樹さん?!
ふふ、、、と笑う。
「やっぱり覚えて無いんだ」
「な、何、、、を?」
「正樹って呼んで下さいって言われました」
「それだけですか?」
「さあ、どうでしょう」
秋吉さんが立ち上がる。
「待っ!」
秋吉さんの腕を掴み、引き止める。
パシャ、、、
あ、、、水が、、、
「大丈夫ですか?」
彼は台所に布巾を取りに行く。戻って来て、俺の濡れた服を心配した。
「水だから、、、」
と言って、彼の腕を掴む。秋吉さんが俺の顔を見る。
「あの、、、他に、俺、何もしなかったですか?」
顔が近過ぎて困る、、、。自分の顔が火照って来た。
「あ、えっと、、、あの、、、」
口をパクパクさせながら、秋吉さんはどんどん真っ赤になって行った。
「まさか!」
思わず、自分の下半身を確認しようとした。
「それは無いですっ!」
と言って、ベルトを外そうとした俺の手を塞いだ。
「え、、、」
耳まで赤い彼は、俯きながら
「僕を抱き締めて、寝ただけです、、、ぅ、、、」
恥ずかしさの限界だったのか、顔を隠して動かない。、、、嫌、、、では無かったのか?
「あの、、、秋吉さん、、、俺も名前で呼びたいです」
「圭太、、、です」
「圭太さん、、、顔、見せて下さい」
ギュッと目を瞑りながら顔を見せてくれた。
俺は、圭太さんの頬に触れた。
「圭太さんって可愛いですね、、、」
え?って顔をして目を開ける。
「キス、しても良いですか?」
スリっと親指で頬を撫でる。
「ん、、、」
と小さな声を漏らした。
「有難う御座います、、、」
圭太さんの「ん」、は、了承の「ん」では無い。そんな事は分かっているのに、俺は遠慮無くキスをする。
キスをしながら、すぐに玄関を開けちゃうんだよな、、、お人好しなんだから、、、と思った。
圭太さん、、、押しに弱いんだ、、、。
と考えながら、少しずつ体勢を変えて布団に寝かせる。
彼が一度身体を起こそうとしたけど、俺が脇腹にそっと手を添えるとそのまま後ろに倒れて行った。
必死に何かを言いたくて、俺のキスから逃げようとするけど、そんな圭太さんが可愛くて、、、つい。
「圭太さん、好きです」
耳元で低く囁くと、彼は薄く目を開いて、小さく言葉を発した。
「圭太さんは、俺の事、好きですか?」
息を吐きながら、彼の耳のすぐ側で囁く。
「わ、、、かんな、、、いっ!」
「俺の事、嫌い?」
頭をフルフルと振り
「好き?」
と聞くと、一所懸命
「好、、、き、、、」
と言った。
ああ、もう可愛いな、、、!
彼の細い顎を掴み、深い深いキスをする。
我慢出来なかった俺は、激しく求め過ぎてしまった。苦しそうな顔にゾクゾクしながら、少しずつ優しいキスに変える。
最初は力を入れていた圭太さんも、徐々に緊張が解れ、俺のキスに答えてくれる様になって来た。
「圭太さん、、、好きです」
ちゃんと彼の顔を見て、言いたかった。
「えっ、、、と、、、僕も好き、です、、、」
恥ずかしがりながら言ってくれる。
「もう、圭太さんは俺の物で良いですか?」
「、、、うん」
俺に腕を回し、恥ずかしそうに返事をしてくれた。
そっと、脇腹から手を差し込む、、、。
彼は少し身体を離し、俺の顔を不思議そうに見た。
**********
公園で、浩暉くんが友達と遊んでいた。
砂場で小さな子供が、頭をくっ付けて穴を掘っている。
お母さん同士はベンチに座り、お喋りに夢中だった。
「浩暉!」
と名前を呼びながら、正樹さんが砂場に近付く。
「まさくん!」
一緒に遊んでいた女の子も顔を上げた。
「浩暉のお友達?」
僕は少し遅れて砂場に着いた。
「ちがうよ!かのじょだよ!」
女の子はニコニコ笑う。
「まさくんもかのじょできた?!」
「出来たよ」
「かわいい?」
「可愛いよ」
「よかったね!」
浩暉くんと女の子は
「ママー!のどかわいたー!」
と、ベンチに座るお母さんの元に走って行った。
正樹さんはお姉さんに手を振り、僕は小さくお辞儀する。
「浩暉の彼女だって」
と言って笑う。
僕はふふ、、、と笑って正樹さんの小指に小指を絡めた、、、。
早く、広い家で同居出来ると良いです。




