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「私に触れないで!!!!」
名もなきブレイン融解系美少女が、悲鳴にも似た拒絶の叫びをあげた瞬間だった。
彼女の手の中で、俺の「タマタマ」が不吉なほど神々しい黄金の輝きを放ち始める。網膜を焼き、脳髄を貫き、そして魂へとブレイン融解系美少女の声が絶対服従命令のように刻まれ、俺の魂の奥の奥の奥の奥深くまで浸透していった。
本能が警鐘を鳴らす間もなく、彼女の声が絶対服従の呪印となって刻まれてた。
「分かりました! 仰せのままにぃーー!!」
自分でもわけがわからない。だが、逆らえない。その声! 命令! そして何より、至近距離で拝むその容姿♡
俺のニートドリームハウスの守護の導き手だったはずの豆粒男性――オニアース(鬼地球)が、絶望に顔を歪ませてガタガタと震え出した。
「ヘナチョコリナ!! き、貴様、どうやってニーズヘッグ様を服従させたのだーー!!」
「服従させた? この私が!?」
ヘナチョコヨナと呼ばれた少女は、最初こそキョトンとしていたが、状況を理解するにつれてその表情を変えていった。
次第に美しく、いやらしく、そしてエロく。
すべてを手に入れた征服者のような「したり顔」を浮かべ始めた。
「わ、私の類まれな努力の結晶的卓抜な才能に、世界がようやく追いついたと言うの!? このニートベッドを私が!? テイム!? シンジ、シンジラレナイ!!!!」
俺も神事ラレナイ!!!!
こうもいともたやすく操られるなんて。なぜだ、なぜ俺の心臓は耳くそとなって排出された!? そこが一番わからない謎だ! なぜ、あのリスは教えてくれなかったんだ!
「俺のマイハートゥー!!!!」
地底中を轟かせ、山彦のように木霊する俺の声、声、声。
「こ、声が大きい!! もっと静かに喋って!」
ヘンナチョコヨナの一喝。その御言葉が下った瞬間、俺の心も体も魂も満タンに♪ ひれ伏す。
「仰せのままに我がマスター! ははぁ〜っ!!」
巨大な顎を地面に全力でこすりつける。発情したオス猫のように擦って擦って擦りつける。誇り高き元人間のプライド? そんなもん、彼女のデシベルの前では塵に等しい。
「こんなことありえん!! アリエーーーーーーーーーン!!!!」
豆粒男性が俺の本音を完璧に代弁してくれた。彼は両膝をつき、両手を地面に叩きつけ、この世の終わりを見たかのようにうなだれている。
「アリエールのよ」
ヘンナチョコヨナは気高く、美しく、俺が見たニートハウスから見た絶景のようにそびえ立った。
彼女は俺の鼓室部、耳介側頭神経を愛おしそうに手を置く。身体の中に今はないの俺の心臓が、彼女の手のひら越しにドックンと高鳴った。
「オニアス、あなたも世界も私の才能に気がつけなかったわ。でも悲観することはなんてないわ。それは誰もが通る道であり、宿命なのだから」
彼女のイカれた演説は止まらない。
「でも、あなたは今、最前列の特等席でこの私の神話的偉業を見届けている。素直に認めて、私の才能は世界を変えたのよ。あなたにはそれを受け入れる心がなかっただけ。だったら今すぐ作りましょう。ね?」
「こんな……こんな見た目は最高なのに、中身がイカれてる女が世界を変えるなど……ぐはっ!」
豆粒男性ことオニアスは、ついに許容量を超えたのか、口から景気よく泡を吹いてその場に崩れ落ちた。完全なる気絶である。
(いいな、あいつは気絶できる。それだけでこの狂った現実から自らを隔離できるんだからな……)
だが、俺はそうはいかない。
目の前で癒しの美声で高笑いを決めているヘンナチョコヨナに、一生こき使われる未来しか見えない。
人によっては、それは至高のご褒美に他ならないだろう。だが、残念ながら俺は違う。俺にはそんな特殊な性癖も、歪んだ趣味もない。俺は愛でるタイプだ。相性は最悪だ。
最強の頂点捕食者に転生してたぶん30分以内に、俺の異世界下僕ライフが確定した瞬間だった。




