7話 思い出の花冠
イーギス様が戻ってきて、私にハンカチを渡してくれる。血のついたハンカチで、直近のものだというのがわかる。私はそれを大事に袋にしまった。
「絶対、絶対に治してね」
「頑張りますわ」
イーギス様の手が震えていて、その手をぎゅっと抱きしめる。ずっと不安だったからか、温度が冷たくなっている。
「イーギス様、お庭に行きましょう」
「え」
私はイーギス様の手を引いて庭に向かった。グランドル公爵邸の庭にはシロツメクサが咲いていた。
「待っててください」
「何するの?」
地面に座って、シロツメクサを摘んでいく。イーギス様は首を傾げながら、同じようにシロツメクサを摘んでくれて私に渡してくれた。
「これもお母様の薬?」
「いえ、これはイーギス様の薬ですわ」
イーギス様がお母様のことを思い出して悲しんでいた時に、フローラがイーギス様に花冠を作ってあげていた。その優しさにイーギス様は心を打たれてフローラに惚れたスチルがある。
「出来ましたわ」
私は花冠をイーギス様の頭に被せる。イーギス様は眉を顰めた。
「これが薬?」
「ええ、元気になるおまじないですわ」
微笑むと、イーギス様が花冠を捨てる。え。
「これで元気になるわけないでしょ?馬鹿なの?」
「ば……、え?」
あれ?ゲームではこれで良かったはずなのに。
「それより薬、早く作ってね。待ってるから」
そう言ってイーギス様は屋敷の中に入っていく。イーギス様の子供の頃って、だいぶ現実主義だったんですね……。呆然と屋敷の玄関を見つめる。やっぱフローラじゃないとダメかぁ。
「ナターシャ、ここにいたのか。帰るぞ」
「……はい」
とぼとぼと、お父様の方に歩く。お父様が手を差し伸べてくれて、私はその手をぎゅっと握った。
「ナターシャ、元気ないな。どうした?」
「私、前職が薬剤師だったらいいのにって後悔しましたわ」
何言ってるんだと言いたげなお父様の視線を感じる。けど私は落ち込んでいた。馬車に乗ってる間も、あれこれファンブックの内容を思い出そうとするが、私が覚えてるのはイーギス様に関する情報だけ。流行り病なんて過去の情報、こんなに重要だとは思わなかった。うちの誰も流行り病にかかってないのが救いだけど、代わりにナターシャの家族のことは何もわかんなくて。私も本当の両親じゃないとはいえ、2人を失うのは嫌だと思った。
「さてと」
私は部屋に戻ってねずみの入ってるケースにイーギス様のお母様のハンカチを入れる。実験して薬完成するのにどれだけの時間があるだろう。イーギス様のお母様に残された時間は少ないよね?私はこの前と別のハーブを混ぜてすり潰す。何で私はしがないOLだったんだろう。何も役に立たないじゃないか。
イーギス様はお母様の病気のこともあってうちには一切来なくて、私もイーギス様に会いに行かなかったからそのまま2ヶ月が過ぎた。まだイーギス様のお母様の容態が悪化したって話を聞いてなくて安心する。2ヶ月の間に、ねずみで実験してたらハーブもわかってねずみくらいなら治るようになっていた。
「私って天才かも?」
あとは人間が飲んでもリスクがないかを試せばいいだけ。でもとんでもなくまずいから、私は砂糖を入れたりはちみつを入れたりして改良に改良を重ねていた。
「よし、完成」
味も幾分かマイルドになった気がする。私はこの苦い薬を一気に飲んだ。体が熱くなって、効いてる感じがする。だけど急に頭が痛くなって、私はベッドに手をつく。そしてそのまま、ベッドに倒れた。




