6話 流行り病
次の日、私は両親とグランドル公爵家に向かった。エイシアはお留守番だ。我が家も広かったけど、さすが公爵家。ナターシャの家の2倍くらいある。
「わざわざありがとうございます。ただ妻は寝たきりで会える状態ではないんです」
「お気になさらず。今日は見舞い品を持ってきただけですから。ゆっくり休んで」
お父様たちが挨拶をしてる。直接病原菌をもらうのは無理そうだから、イーギス様に頼まなきゃ。協力してくれるかなぁ。
「ナターシャ」
グランドル公爵に呼ばれて顔を上げる。グランドル公爵は屈んで私に言った。
「イーギスがすごく落ち込んでるんだ。どうか元気づけてやってくれないか?」
「もちろんですわ」
イーギス様の幸せのために転生してきたんですもの。それは私の義務ですわ。侍女に連れられ、イーギス様の部屋をノックする。
「イーギス様、私ナターシャですわ。お話しましょ」
「会いたくない」
元気のないイーギス様の声が聞こえてくる。それもそのはずだ。小さい時にお母さんが死ぬかもしれないって思うだけで絶望した気持ちになる。でも、私は気にせず部屋のドアを開ける。ここがイーギス様の部屋……。乙女ゲームの中に出てきた背景ではもう少しおしゃれなものも置いてあったけど、ここには必要最低限しかなくてすごくシンプルな部屋だった。ベッドを見ると中央が膨らんでいる。私はベッドに近づいた。
「イーギス様、私の夢の話を聞いてくださらない?」
「……出てって」
小さな声で拒絶される。でも私はベッドに腰掛けて話を続けた。もしもの話をするのは変に期待させるだけだから良くないのはわかってる。だけど、病原菌を手にいれるのにイーギス様の協力が必要だった。
「私、イーギス様のお母様の病気を治したいんです」
その言葉にぴくっとイーギス様の布団が動く。
「それにはシルクレードキャンティと、3つのハーブが必要なんですわ。シルクレードキャンティはイーギス様のおかげで手に入れられましたけど、病原菌がまだ手に入れられてないですの。お母様のハンカチとか何か借りられませんか?」
「……治せるの?」
イーギス様が布団から顔を出す。ずっと泣いていたんだろう、目が赤く腫れて涙目になっている。私はイーギス様の手に触れた。
「私は薬剤師じゃないのでわかりません。でも、何もしないよりマシだと思ってます」
イーギス様のために、何かしないといけない気がする。
「お医者さんに頼めないの?」
「流行り病は治療法がわかっていません。だから子供に傾ける耳はないんですわ」
お医者さんの協力が得られたらいいのに、それは不可能で。イーギス様は布団から出て隣に座る。
「じゃあ何でナターシャは材料わかってるの?」
「昔、本で見たことありますの。それと今回の症状が似てまして。私に賭けてくれますか?」
イーギス様の目を見て、問いかける。イーギス様は頷いた。
「お母様が助かるなら何でもする。待ってて」
イーギス様は立ち上がって部屋を出ていく。あんなキラキラした目で見られたら、何が何でも成功させなくてはいけないわ。そう思うと手が震える。けど、私にだって転生チートあってくれてもいいじゃない。未来を変える力が、転生者にはあるだろうから。
「それにしても、良い匂いですわ」
アロマなのか洗剤の匂いなのか、ほどよい香りが漂っている。ここに未来のフローラが来るんだと思うと、少しだけ胸が痛んだ。
「何思ってるんだろ、私」
イーギス様とフローラは結ばれるべきで、私はただのプレイヤーで。この世界に来てもそれは変わらない。イーギス様の幸せのために、私は頑張らなくちゃ。




