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転生したら推しの婚約者でした。悪役令嬢なのに執着されてます!  作者: 桜咲ちはる


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5話 黒い天使


 イーギス様を見ると、イーギス様はめんどくさそうな顔で私を見る。


 「これは親同士が決めた婚約なんだ。僕が君を好きになるなんて思わないでね」


 さらっと冷たく言い放つイーギス様。黒イーギス様!いいっ!ってあれ?


「屈折したの成長してからじゃないんですね?」

「何それ」


 もともとそういう性格なのかな?まぁ、上級社会じゃ色々あるよねぇ。


「イーギス様、もっとお話ししましょう!イーギス様の好きな女性はどんな人ですか?」

「そんなのつまらない」


 つまらないって。イーギス様の口からフローラの話聞きたかったなぁ。イーギス様はふと立ち上がって、窓に近づく。


「ねずみ飼ってるの?お嬢様なのに」

「あっ、それはちょっとその……」


 あなたのお母様の薬を作ってるとは言えなくて、口籠る。


「ねずみすらも可愛がる私って優しい、みたいな?」

「いえいえ、そんなんじゃないんです」


 黒い笑みを浮かべて淡々と話すイーギス様。昨日のことが嘘のように冷めた声で私に言うイーギス様。私は知ってるけど、フローラがびっくりしちゃうのも無理はない。


「まぁいいや、君がしてることに興味はないし君にも興味はない。ただ体裁的にお見舞いに来てあげた方がいいと思っただけ」

「イーギス様って、昔から捻くれてたんですねぇ」


 でもそれも可愛い。天使みたいな見た目から発せられる言葉の数々。ギャップ萌えだわ!


「……そりゃ、周りの大人見て育ったらそうなるよ」

「それもいいですわ!でもそのうち変わりますから、楽しみにしててください!!」


 フローラに出会ってイーギス様は変わる。その変化が堪らなくいいのだ。ぽかんと私を見ていたイーギス様がくくっ、と笑う。


「やっぱ変だね、ナターシャ」


 笑った顔は本当にこの世のものとは思えない天使だった。まぁ、ゲームの世界だからこの世のものではないけれど。


「じゃあ僕は帰るよ。長居しても君の体調に響きそうだし」

「元気ですからもっと居てくださっていいんですよ」


 もう帰っちゃうのか。ドレスをギュッと掴むと、イーギス様は振り返って私に近づく。そして頭にぽんと手を乗せて、私の顔を覗き込んだ。


「また来るよ。一応君は僕の婚約者だからね」

「はい」


 部屋でイーギス様を見送って、ベッドに転がる。まだ2日なのにイーギス様の色んな表情が見れた。私が婚約者だってこと認めてないみたいだけど、それが普通だ。イーギス様はただの一度もナターシャを愛さなかったのだから。それよりも、シルクレードキャンティが貰えるかもしれないことの方がありがたい。イーギス様の幸せに一歩近づいたような気がした。


「ナターシャ様、イーギス様からの贈り物です」


 その日の夕方に、それは届いた。私は急いで広間に向かう。


「早く早く」

「何が届いたんだい?ナターシャ」


 執事を急かす私に、お父様が微笑ましそうに尋ねる。


「シルクレードキャンティですわ!」

「おや、そんな貴重なものを。すぐにお手紙書かなければいけないね」


 もちろんですわ!私は小包を持って、部屋に戻る。手紙を書き終えてから、調合用と栽培用に分けた。ねずみを流行り病にさせないといけないから、明日街へ出かけよう。着々と計画を立てていた時だった。


「ナターシャ、明日グランドル公爵家に行くわよ」


 お母様が慌てて私の部屋に入ってくる。婚約者だから行くのは良いとして、お母様の慌てっぷりが気になる。


「どうしたのですか?」

「グランドル公爵夫人が倒れられたそうよ。だからお見舞いに行くの」


 えっ、もう……?思ったより早い展開に焦る。けど、グランドル公爵夫人から病原菌をもらってこれるから、まだいいか。いや、良くないんだけど。イーギス様は大丈夫だろうか?


 私は取り寄せたハーブを石臼に入れて、ごりごり混ぜる。期限内に上手くいくのだろうか……。心配だけど、私は転生ヒロインだからきっと上手くいくはず。私は明日着ていくドレスを選んで、イーギス様のお母様の無事を祈る。ゲームの中ではいつ亡くなったか、ファンブックにすら書かれてなかったんだよね。薬の材料は載ってたくせに。


「長いなぁ」


 イーギス様とフローラが出会うまであと9年もある。そんなの待ってたら、イーギス様が苦しくて堪らないと思う。どうする?シナリオ変える?いや、でも今イーギス様のお母様の死を阻止しようとしてるんだ。フローラとの出会いまで変えたら何が起きるか予測出来なくなる。あれこれ考えても答えは出なくて、私は眠ることにした。

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