4話 シナリオを変えるために
「お父様、お医者様を呼んでくださる?流行り病に詳しい方を」
次の日、私は朝食の時間にお父様にお願いする。
「医者を呼ぶのはいいが、ナターシャはただの風邪だよ。何で流行り病のことが知りたいんだ?」
「私、人を救いたいんですの」
不思議そうにするお父様に答えると、お父様とお母様が顔を見合わせる。エイシアがフンッと鼻で笑った。
「おねえさまがひとだすけ?」
「ナターシャ、色んなことに興味を持つのはいいが流行り病は何人もの名医が研究してるんだ。ナターシャが遊びで関わっていいものじゃないよ」
侯爵令嬢ならすんなり願いを叶えてくれるかと思ったのにそうでもないらしい。でも医者さえ呼んでもらえれば、薬の材料を言い当てた私を信用してもらえるはず。
「とにかく、私はまだ体調が万全じゃないのでお医者様に見てほしいんです」
「わかった。午後に来てもらえるよう手配しておくよ」
よし、その間に図書室で4つのハーブを特定しよう。今日も美味しいごはんを食べて、デザートも食べて満足して図書室に向かう。さすがセレブの図書室。本がいっぱいあって、探すのも大変そうだった。
「キャシー、ハーブの本どこにあるかわかる?」
「はい、こちらにございます」
侍女は図書室の内容まで把握してるのか。近いうちにイーギス様の侍女になるために、キャシーを見て勉強しないと。
「えーっと、どれだっけなぁ」
運が良いことに、ハーブの本にはその効能まで書かれている。これを全部取り寄せて調合すればいいんじゃないかと思ったけど、一つでも特定できないとお医者様には相手にされないだろう。病はもう流行ってるみたいだから、イーギス様のお母様がかかる前に薬を作らないと。
「あ、」
見つけた。シルクレードキャンティ。こんな感じの名前だった気がする。効能は何も書かれてないけど、多分これで合ってる。あまり採れない希少ハーブで、美味しいらしい。私はキャシーに頼んで、気になったハーブをいくつか注文してもらう。ああ、私が薬剤師だったらよかったのに何でただのしがないOLなんだろう。これといった取り柄がない。でもそんな私でも転生できたんだ。これはきっと、キャラクター愛の強さだろう。
「ああ、早くお医者様来ないかなぁ」
早く相談したい。イーギス様のお母様を助けられたら、イーギス様は幸せだもんね。ハーブの本と医学の本と薬学の本を持って部屋に戻る。しっかり読もうと思ったんだけど、内容が難しすぎていつの間にか寝落ちしていしまっていた。
「ナターシャ様、お医者様が来られましたよ」
キャシーの声に目を覚ます。お医者様が入ってきて、近くの椅子に座った。
「ナターシャ様、脈を見せてもらってもいいですか?」
「ええ」
小さな手を差し出して、脈を診てもらう。倒れたとはいえ、転生の反動だろうから今は良くなってるだろう。
「ねぇお医者様、最近の流行り病の薬の材料思いついたんですけど」
「流行り病の薬?そんなのあるわけないですよ。残念ながら」
話を切り出すと、呆れた顔で言われる。だからこの病で多くの人が死んでしまうんだけど、私はそれを止めたい。
「それがあるんですよ、4つのハーブから作られるって本で読んで。1つはシルクレードキャンティっていうんです」
「シルクレードキャンティはただのハーブですよ。薬になるわけがない。おかしなこと言ってないで、ゆっくり休んでください」
だめかぁ……。私が子供だからだろうか。これが王子だったら話を聞いてもらえたのかな。その後も何度か粘ってみたけど、全部躱されて相手にされない。こうなったら自分で研究するしかない。シルクレードキャンティは希少だから、種からもらって栽培を試みる。あとねずみも用意してもらった。可哀想だけど、人間で実験するわけにはいかないから。
「ナターシャ様、イーギス様がいらっしゃいました」
部屋でハーブを育ててると、キャシーの言葉に心臓が跳ねた。イーギス様が訪ねてきてくれるなんて!私は小躍りしながら着替えて、イーギス様を出迎える。
「イーギス様っ、会えて嬉しいですわ!」
「あはは、元気だね。ナターシャ」
扉を開けると、イーギス様が笑う。私は部屋に招き入れた。
「鉢植え?」
「あ、ハーブを育ててるんですよ。シルクレードキャンティっていうハーブがなかなか取り寄せられなくて」
いつまで猶予があるかわからない。だけど買えなかったものは仕方ない。私はサイドテーブルに置いてたお菓子を持ってきて椅子に座る。
「シルクレードキャンティ?うちにいくつかあるよ。持ってこようか?」
「えっ、本当ですか!お願いします!」
何て偶然!言ってみてよかった。どうぞ、と椅子を引いてイーギス様を座らせるとイーギス様は少し驚いてから椅子に座る。
「ねぇ、ナターシャ。昨日言ったことって本気?侍女になりたいって」
「ええ。だってその方がイーギス様のおそばに居られるんですもの」
婚約者じゃ、イーギス様に疎まれるだけだ。
「僕の婚約者は嫌なの?」
首をこてんと傾げ、まん丸な目を私に向けてくる。ああ、可愛い。
「嫌なんて、ありえませんわ。ただ、私には恐れ多くて。あと、イーギス様の侍女になることが夢だったので」
どれくらいなりたかったか、今すぐここで語りたい。でも引かれるだろうし、何でそんなふうに思ったのか突っ込まれたら転生の話をしなくてはいけなくなるから抑えとく。
「僕の気を引こうとしても無駄だよ」
私の言葉に、はぁ……とイーギス様はため息を吐いた。




