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34話 来客


 次の日からイーギス様の部屋の前の廊下を掃除してると、令嬢が何人か出入りしてるのが見えた。イーギス様からは部屋に入ってくるなと言われてしまって中で何してるのかわからない。まさかもう、10歳で女遊びに目覚めてしまったのだろうか。


「ああ、これがフローラだったらいいのに」


 すでにフローラに出会ってるんだから、フローラ以外の気を引く必要はないはず。私は居ても立っても居られなくて、フローラを呼び出した。


「ナターシャ様、お招きありがとうございます」

「いいのよ、将来はあなたの家になるんだから」


 フローラの肩を押して、イーギス様の部屋に向かう。フローラがいれば、イーギス様も心を入れ替えるだろう。コンコンと部屋をノックすると、イーギス様が口を開く。


「今取り込み中だ」

「イーギス様、フローラが来ましたの。開けますわよ」


 イーギス様の許可を取らずに部屋を開ける。フローラは心配そうに私の腕を握る。大丈夫よ、ビシッと言ってあげるから。


「イーギス様、そんなことしても好きな人は振り向きませんよ!」


 イーギス様の姿を探すと、テーブルでチェスをしてる姿が見える。


「ナターシャ様、ごきげんよう」

「入るなと言ってあっただろ」


 呆れるイーギス様にぽかんとする。もっと決定的な場面を抑えられるはずだと思ってたけど、ベッドや服に乱れはないし至って健全だった。


「イーギス様、遊ぶならフローラを呼んだらどうです?」

「なぜフローラを呼ぶ必要が?」


 なぜって、照れてるのかしら。私はフローラに謝って、廊下に出ててもらう。


「イーギス様はフローラが好きなんですわよね?フローラ以外の人と遊んでても、フローラは振り向きませんわ」

「……何を言ってるんだ、ナターシャは」


 頭を抱えるイーギス様。困ってるのは私の方なのに。イーギス様は立ち上がって、ジリジリと私を壁に追い詰める。そしてトン、と私の顔の横に手を置いた。


「ナターシャはどんな男がタイプなんだ?」

「わ、私?私のことは別に……」


 今フローラの話をしてるのに、はぐらかす気?


「ナターシャの好みはこういう男だろう?」


 私の頬を撫で、額にキスするイーギス様。あまりの色気に私は眩暈がして、その場にしゃがむ。


「体は誤魔化せないようだな」


 立ち上がれない私をイーギス様はお姫様抱っこをして、ベッドに運ぶ。


「もう用は済んだ。帰ってくれ」

「え、でも……」


 さっきよりも冷たい声で言うイーギス様に、令嬢が戸惑っている。私はイーギス様の手を掴んだ。


「イーギス様、イーギス様はフローラにだけ優しくしてください」


 私じゃなくて、フローラを。イーギス様の深いため息が聞こえる。それから少しして、ガチャリと扉が閉まる音が聞こえた。ベッドから起き上がろうとしても起き上がれない。今頃イーギス様はフローラの相手をしてるだろうか。私は良いことをしたんだと思ってる。イーギス様はほんとは不器用だから、私がフローラとの仲を取り持ってあげなきゃ。


「体調はどうだ?ナターシャ」


 いつの間にか寝ていたら、イーギス様が戻ってくる。私は起き上がろうとしてまたベッドに沈み込んだ。


「無理するな。熱出てるだろう」

「イーギス様、フローラは……」


 私の相手なんてしてないで、フローラを……。


「帰した。肝心の君が熱出てるんだからな」

「気にしなくていいのに」


 こんなの寝てれば治るし、イーギス様はフローラと逢瀬を重ねればいいのに。


「気にするよ。婚約者のことだから」


 イーギス様は私の額に手を置いて、ぽんぽんと軽く叩いた。

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