33話 修羅場
フローラと話していて、ふと顔を上げるとイーギス様の姿がどこにも見えない。
「フローラ、ちょっとここにいて」
「はい」
イーギス様の様子が気になって、私はフローラの側から離れる。ご令嬢たちの目当てはイーギス様だろうから、いなくなってざわざわし始めていた。
「ナターシャ様」
そのうちの1人が私に近づく。
「イーギス様とその、メアリー様の姿が先ほどから見えなくて……」
「そうなの?見かけたら声を掛けるわ」
メアリー様って確か侯爵令嬢で、今日の中では一番位が高かったはず。まさか2人で消えたとか?いやいや、イーギス様にはフローラがいる。それでも嫌な予感がして、私は屋敷の外を探す。
「イー……」
イーギス様を薔薇園で見つけた。その隣には令嬢がいて、イーギス様が薔薇を摘んで令嬢の耳に差す。令嬢はイーギス様を見上げて微笑んでいて、胸がざわざわした。
「メアリー嬢、綺麗だ」
「まぁ。ナターシャに悪いですわ」
近づくと2人の会話が聞こえてくる。
「今は俺だけに集中して。他の誰も、ここには来ない」
イーギス様は令嬢の髪を一房掴み、キスを落とす。私はその場から立ち去った。見慣れた光景のはずだった。私の知ってるイーギス様は、女なら誰彼構わず甘い言葉を囁いて口説き落とす。そんな人だった。
「ナターシャ様っ」
パーティー会場に走って戻った私の手をフローラが掴む。
「ナターシャ様、何があったんですか?」
困惑と心配が混ざった表情で私を見るフローラに、恐る恐る自分の頬を触ってみる。濡れてる。私は泣いていたんだ……。
「何でもない」
「ナターシャ様……、イーギス様は……」
ゆっくりと尋ねるフローラに首を横に振る。
「いなかった」
私はそう答えるので精一杯だった。そうだ。フローラの気持ちを考えてるから泣いてるだけで、私が傷ついてるなんて絶対ない。フローラが優しく私を抱きしめる。私はフローラを抱きしめ返した。
「きゃーイーギス様~!」
黄色い声が聞こえて顔を上げると、イーギス様が会場に戻ってくる。1人らしく、隣に令嬢はいない。その死姿にほっとした。それからイーギス様は会場を出ることなく談笑していたが、時折令嬢の肌に触れたり腰に手を回したりしている。
「いいんですか?あれ」
フローラが複雑そうな顔で私を見る。
「イーギス様がしたいようにすればいいのよ」
これがイーギス様の本性なのだから。とはいえ、フローラに構わず他の令嬢ばかりなのは気に入らない。私はグラスを置いて、イーギス様に近づいた。
「イーギス様」
「ナターシャ、どうしたんだい?」
私はイーギス様の腕を引っ張って、輪から離れる。
「イーギス様、もう少しフローラのこと気にかけてください」
「ヤキモチ妬いてるの?」
イーギス様に言うと、くすりとイーギス様は笑う。
「私じゃなくて、フローラが引いてましたよ。これじゃ本末転倒じゃないですか」
「……わかってないな、ナターシャは」
わかってないって。これも作戦だと言うのだろうか。イーギス様は私の手を引っ張って、頬にキスをしてくる。
「ま、そんなところも可愛いんだけど」
「イ……イーギス様……」
大事なのは私のご機嫌取りじゃなくて、フローラの……。
「ナターシャ、疲れただろう?先に部屋に戻っておくといい」
「い、言われなくてもそうしますわ!」
私は踵を返して公爵邸に戻る。少し前までは可愛かったのに、何でいきなり変わったのかな……。でも、そんなイーギス様にすらドキドキしてる自分が嫌だった。とはいえ当然だ。私はチャラいイーギス様に堕ちてしまったんだから、イーギス様が誰といようとも好きなのには変わらない。きっと、そうだ。




