30話 嫌がらせ
あの後イーギス様に連れられ、グランドル公爵邸に帰った。イーギス様はお気に召さなかったようで、1人部屋に篭ってる。
「イーギス様ぁ……」
ノックをしても返事がなくて、諦めて私は侍女の仕事に没頭する。それが終われば花嫁修行の勉強が待っていて、社畜並みに忙しかった。私は社畜経験のあるOLだからいいけど、10歳のナターシャやイーギス様がこの生活を送るなんて相当大変で異世界ってすごいんだなと身震いする。ガンッと音がして足に水がかかる。横を向くと、再婚相手の娘リーゼルがいた。
「嫌だ、汚れちゃったじゃない。どうしてくれるのよ!」
ナターシャよりも2歳下のリーゼルが、ドレスの裾を巡って吠えている。
「すみません、掃除中だったもので」
「こんなところにバケツなんて置かないでよ!あなたもあいつと同じで気が利かないわね」
あいつ……、多分イーギス様のこと。
「イーギス様を侮辱しないでください」
「何よ、あいつを庇う気?あいつが悪いのに!」
ヒステリックに声を荒げてリーゼルが私に手を上げる。私はモップで顔を防いだ。
「イーギス様が何をしたんですか?」
イーギス様目線では語られないから、なぜここまで再婚相手の家族と仲が悪いのかを知らない。素直に聞くとリーゼルはバケツを蹴った。
「うるさいうるさいうるさい!お父様は私のものよ!」
意味がわからない。答えられないのを見るに、イーギス様は何も悪くないんではないか?そもそもいじめられる側にも原因があるなんて論、私は反対だ。何があってもいじめていいわけがない。
「イーギス様の邪魔しないでください」
「あんたも絶対追い出してやる!」
ビシッとリーゼルが私を指差して言う。あらあら、と別の声が聞こえて顔を上げた私はさらに顔を歪めた。ハインド、ナターシャの3個上でリーゼルの兄だ。
「リーゼル、虫ケラを相手にするなと常に言ってるだろう?」
「お兄様、でも!」
突っかかってくるリーゼルと違ってハインドは冷静だ。だが、ただ無視するだけならいいけど裏で手を回して使用人を手懐けているためイーギス様や私のご飯は使用人以下の物が出されるという陰湿ぶりを発揮する。グランドル公爵は止めないのかと疑問に思われるかもしれないが、なぜか再婚相手に逆らえないらしい。グランドル公爵も私だけでなくイーギス様を今や見ないものとしている。
「ほんと最悪ね」
「それはこっちのセリフだ。行くよ、リーゼル」
こんな家で育ったら、イーギス様が歪むのも無理はない。私の方が悪女なのに、良い両親の間に生まれてしまった。
「ああ、掃除し直さなきゃ」
バケツを立ててモップで床を拭いていく。昔来た時よりも陰気が漂うこの家を、少しでも良いものにしたいから。義家族とは言い争うだけで何も解決出来ないのがもどかしい。でもあまりやりすぎるとこの家に居られなくなってしまう。それだけは避けたかった。
「早くフローラと恋に落ちてくれればいいんだけど」
そしたらこんな家族なんて無視して駆け落ちでもなんでもして、幸せになれるのに。肝心のイーギス様は私にしか懐かない。ファンとしては嬉しいことだけど、それじゃあイーギス様が幸せになれないから困っていた。




